【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea

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第7話

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(旦那様(仮)からは、お仕事続ける許可はもらっているんだもの)
  
 お飾り妻生活にも何となく慣れた気がするし、何より新しい場所での生活は毎日が刺激的で私の想像力をかきたててくれる。
 旦那様(仮)はさすが、お飾りの妻を求めただけあって私に多くの事を求めないので、これは男爵家実家にいる時よりも仕事をしやすいかもしれないわ!
「婚期が~……」「嫁き遅れが~……」というお父様の面倒な愚痴が無いだけでこんなにも幸せを感じられるなんて!!

(白い結婚、ありがとう!  私は今、とっても幸せよ!!)
  
 そんな気持ちで早速、私は手紙を書いた。





「……アリス。すまないが、ちょっと良いだろうか」
「はい」

 仕事を再開する事にして数日。
 旦那様(仮)がしょぼくれた犬のような顔をして私の部屋にやって来た。
 今は昼間。
 本来ならお仕事に勤しんでいる時間のはず。

(何故……?  お仕事はいいのかしら?)

「どうしましたか?」
「あぁ……その、なんだ……」
「?」

 しょぼくれたワンコ旦那様(仮)の様子がおかしい。
 挙動不審過ぎる。
   
(何かあったのかしら?)

 ……はっ!  
 そういえば、風の噂で今度、王女様の婚約者である隣国の王子様が我が国にやって来ると聞いたわ。
 旦那様(仮)は、その事をどこかで耳にしてショックを受けているに違いない!  
 私はそう悟った。

(王女様の様との別れ……思っていたより傷付いていないのかも?  なんて実は思ってしまっていたけれど、やっぱり心の傷はまだまだ癒えていなかったのね……)

 こんな可愛いしょぼくれたワンコ旦那様(仮)になってしまう程に…… 
 ここはお飾りの妻としても、元気付けてあげるべき……よね?

(よし!)

 そう思った私は、神妙な顔をしてしょぼくれたワンコ旦那様(仮)に声をかける。

「……(王女様の婚約者がやって来るという)噂を聞いたのですか?」
「アリス……その顔…………くっ……あぁ、そうなんだ……使用人達から、な」

 しょぼくれたワンコ旦那様(仮)が、今度はしなしなになっていく。
 そこには苦悩している様子が見て取れた。

「私が口を出す話ではないと分かっている……分かっているんだが!」
「どうしても、気になってしまう?」
「そうなんだ……仕事をしていても気になって気になって……遂には仕事が疎かになりかけ……」
「まぁ!」

 実直!  真面目!  堅物!  が取り柄みたいな旦那様(仮)が、仕事が疎かになりかけたですって!?
 そんな事が起こるなんて……
   
(なんてこと。見えない所での心の傷は深かった……!!)

「あまりにも私が使えなかったのだろう。うじうじモジモジしていないで気になるなら奥様に聞いて来い、と執務室から追い出されてしまった」
「まぁ!」

 それで、こんなにもしょぼくれたワンコ旦那様(仮)が出来上がってしまったのね?
 でも、変ね。なぜ私に聞くの?
 私も風の噂以上の情報なんて持っていないわよ??
 そんな期待をされても困りますのに。

 私は力になれない事が申し訳なく思って目を伏せる。

「申し訳ございません……私から話せる事は……ありませんわ」
「アリス……!  だが、使用人の話だと君はここの所、大量に誰かと手紙のやり取りをしている……」
「え?」

(あぁ、旦那様(仮)は、私が今、仕事でたくさんやり取りしている手紙を王都の友人とのやり取りだとでも思っていらっしゃるのね……?)

 そこで、私が王都での王女様の噂をもっと詳しく聞いているに違いない、と思ってその内容を私に聞きたかった────……なるほど!

(そんなにもまだ王女様の事を気にしていたなんて。全く気付かなかったわ)

「旦那様(仮)!  私が送っている手紙の相手は“友人”ではありませんの!」
「……っ!  “友人”相手ではない?  …………そ、それは、つまり……」

(ええ、そうよ!  仕事ですわよ!)

 コクリ……
 私はしょぼくれたワンコ旦那様(仮)の目を見てしっかり頷いた。
 すると、そんな私を見たしょぼくれたワンコ旦那様(仮)の顔がどんどん青くなっていく。
 こうなると、どこからどう見ても可哀想なワンコにしか見えない。

(あぁぁ、そんなにショックを受けるなんて……期待させてごめんなさい、旦那様(仮)……)

「(お役に立てなくて)申し訳ございません……」
「…………いや、知らなかった。その、なんだ。もう、付き合いは長いのか?」
「え?」
「あ、いや。すまない……私が口を出して詮索する事では無かったな……」

 しょぼくれたワンコ旦那様(仮)が悲しそうな顔で言う。

(…………っ!  なんてこと!  これはまるで、捨てられたワンコ!!)

 よく分からない所で胸がキュンとした。
 落ち着くのよ……私ったらいったい何にドキドキしているの……と自分の胸に強く言い聞かせて、私は答える。

「そうですね……(仕事を開始してからだから)もう、5年くらいにはなるでしょうか……」
「5年だと!?」

 しょぼくれたワンコ旦那様(仮)が、すごく驚いていた。

「(そいつとは)そんなに長い付き合いなのか……なのにどうして(そいつと)結婚せずに……」
「結婚?  (仕事と)結婚なんて出来ませんわ……だから、私はもう独り身で良いと思っていたのです……」
「アリス……」

 そう言って切なげに私の名前を呼んだ、しょぼくれたワンコ旦那様(仮)の腕が私に伸びて来てそのまま抱き寄せられた。

(…………!?)

 な、な、何が起きているの!?  
 こ、これは、抱きしめられているじゃないの!
 え……お、お飾りの妻にまでする事なの??

 初めての事に私は軽いパニックに陥った。

「……っ」

(お……落ち着くのよ、アリス。いえ、そうでは無いわ。これはきっと……)

 王女様の事で傷が再び開いてしまった旦那様(仮)が、人の温もりを求めた結果よ!
 私は想像力で無事に結論へと辿り着いた。

「辛かったんだな、アリス……」
「え?  辛い?」

(まぁ、仕事は大変ですけれど……)

「大丈夫ですわ。ありがとうございます。それより旦那様(仮)こそ、その……元気を出してくださいませ?」

 そう言って私はそっと抱きしめ返す。
 お飾りの妻でもこれくらいは許されるでしょう。

「アリス……」
    
 ギュッ……

(ひぇっ!?)
  
 またしても切なそうに私の名前を呼ぶと、更に抱きしめる力が強まる。
 しょぼくれたワンコ旦那様(仮)は、それからしばらくの間なかなか離してくれなかった。

  

 ────若き伯爵家の当主ギルバートとその(お飾りの)妻アリス……
 新婚夫婦(仮)となったばかりの二人は、お互いがとんでもない勘違いをしたまま(何故か)会話は進み、物理的な距離だけは(何故か)縮まっていた。

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