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第19話
しおりを挟む──確かにそれは“愛”だと私は答えたわ──……
つまり、旦那様(仮)の愛している相手は王女様ではなく……──
「……アリス」
「っっ!」
(ダ、ダメ……は、恥ずかしくて旦那様(仮)の顔が見れないわ)
照れ照れのワンコ顔なのに真っ直ぐ見つめてくる旦那様(仮)に私は完全にたじたじになっていた。
「目を逸らさないでくれ、アリス」
「……っ」
旦那様(仮)は頬に触れていた手を動かし、撫でる仕草に変える。
(ん……くすぐったい)
そして、優しく微笑みながら甘く頬を撫でながら言った。
私の胸はもうずっとキュンキュンしている。
「アリスの思考はいつだって斜め上を行く」
「?」
「正直なところ、これでも伝わっているのか…………実は不安だ」
(なっ!?)
そう口にする旦那様(仮)の顔が、どんどんしょぼくれたワンコになっていく。
「“それでは愛する方が王女様でないとするのなら、旦那様の愛する女性とはどんな方なんですの?” そう言われる気がして実は今もビクビクしている」
「……!!」
(は、反論が…………出来ない……だって、言いそう。私、言いそう!)
あまりの衝撃に私が言葉に詰まっていると、旦那様(仮)は苦笑した。
そして、また私の頬を撫でて……じっと真剣な瞳で私を見つめた。
「アリス。私は妻である君の事を…………愛し」
「ちょっと、待ちなさい! そ、そんなの嘘ですわーーーー!! 有り得ませんのよ!」
旦那様(仮)が再び私に愛を告げようとしたその瞬間、王女様が凄い勢いで私達の元にやって来て、旦那様(仮)と私を引き離そうとした。
「ギルバートから離れなさい! この芋女!!」
「……え」
(いもって芋! そして、私の事!?)
王女様には私が芋……お芋に見えている!?
もしかして、変な病気なのかしら?
そう言えば、全然元気そうに見えるけれど、病弱という噂を聞いた事があるような……
と、こっそり心配していると、王女様は私を睨みながら続けた。
慌てすぎたのか息が荒い。
「はぁはぁ、ギルバートの愛する相手は、わ、わたくしだと決まっていますのよ! わたくしの大好きな話……の結末もそうだったんですもの! で、ですから、芋女はお呼びではありませんのよ!」
また、芋女と呼ばれたわ。
病気ではなく芋がお好きなのかも……
(……ん? それより今……)
そんな事より、何かが心に引っかかった。
「殿下! いい加減にしてください。またしても……私はもうあなたの元に戻る気はありません! 正直、あなたの護衛を辞められた事に清々しているんです」
旦那様(仮)は、私を抱きしめたまま、王女様に向かってそう声を荒らげた。
一方の王女様はその言葉を認めたくないのか、首を横に振りながら反論する。
「嘘! そんなの嘘ですわ! ギルバートはクズ王子と婚約の決まってしまったわたくしと一緒に居るのが辛くて仕方なくて、身を引こうと私の元を去ろうとしただけですわ!」
「はぁ? それは何の話ですか!?」
「ク、クズ王子……って、まさか僕のこと!?」
旦那様(仮)は意味が分からないという顔をして、突然の流れ弾を受けたサティアン殿下は王女殿下の発言に大きなショックを受けていた。
(……何故、クズ王子?)
「すでに多くの女性を侍らかしているのはクズですわよ……それに比べてわたくしのギルバートはあなたとは大違いでしてよ!」
「私は王女殿下のものになった覚えは一切ありませんが?」
「は、侍らかしているだと? 違う! 僕は皆を愛してるだけだ!」
(皆を愛してるって何かしら?)
よく分からないけれど、サティアン殿下は多くの愛をお持ちのようね……
軽そうだと思ったのは間違いなかったみたい。
「いいえ! わたくしの物なのですわ!」
王女様は自信満々にそう答える。
旦那様(仮)がこれだけ否定しているのにさっぱり聞こうとしない。
「ギルバートは、それでも、わたくしの事を諦められずに、最後には私の元へ戻って来て王子からわたくしを奪い返してくれるのですわ!」
「何を勝手な……」
旦那様(仮)が有り得ないと首を横に振る。
「そうして最後は、あの物語のようにわたくし達は誰からも認められて祝福されて最高のハッピーエンドを迎えるのですわ!」
王女様はうっとりとした顔でそう語る。
(えっ!? ……あの物語って……まさかとは思いますけれど……)
他にもっと素敵な恋物語を書いてる方はたくさんいるもの。
きっと、勘違い……
「……あの物語とは何ですか?」
「あら、ギルバート。もう忘れてしまったの? わたくしの部屋に沢山あったわたくしの大好きな作家の本達ですわ!」
旦那様(仮)も気になったようで王女に訊ねていた。
そんな王女様の答えには心当たりがあったらしく「あぁ、あれか……」と呟く。
「思い出したようね! その中でも、わたくしの一番のお気に入りは 『王女と護衛騎士の許されぬ恋』という本なのです! だってこの本はまさにわたくしの為に書かれたようなもの!」
「……違います」
「まるで、わたくしとギルバートの事を書いたようなこの話! モデルはわたくし達に違いありません事よ!!」
「……ですから、違います」
「作者は神ですわ!」
「……人間です」
「この本の結末のように、誰もが納得のハッピーエンド……」
「いえ……このラストでは戦争になるだけ。あのまま美しい恋の思い出でも良かったのでは? 苦労するのが目に見えている……等、色々と読者から頂いた感想は賛否両論でしたわ」
私はつい反射的にそう答えていた。
(気の所為でも勘違いでも無かったわ! 王女様は私の本を読んでいた……!)
けれど、王女様は私が反射的に答えた言葉が許せなかったらしく、更にキツく睨む。
「お黙りなさい、芋女! あなたのような芋があの話の何を知っていると言うの!」
「え? とてもよく知っていますけれど……?」
「何ですって!? 芋女があの話を語るには100万年は早いですわ!!」
(えぇ……!? 作者なのに??)
王女様は横暴すぎる。
「あの話を語って良いのは、わたくしと作者のあの方のみですわ!」
と、思ったけれど私は構わないみたい。それならば……と続ける事にした。
「承知しました! なら、遠慮なく語らせて頂きますね! あの話は5年前に私の……」
「は? 芋女! 私の話を聞いていましたの!? 語っていいのは」
「え? でもたった今、作者は構わない、と……」
「……は?」
王女様の動きがピタッと固まった。
「ですから……私が“作者のあの方”こと、“エルシー”ですけれど、語ってはダメなのですか?」
「………………は? エルシー……?」
王女様は目を大きく見開いて私を凝視する。
私は大きく頷く。
「はい! アリスの愛称を使ってエルシーと名乗っていますわ!」
「は? は? 待って……え?」
「王女殿下、お買い上げありがとうございます!!」
私は満面の笑みでお礼を言った。
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