26 / 26
最終話
しおりを挟む(まさか、話し合いが朝までかかるなんて……!)
昨夜はお飾りの妻と白い結婚に終わりを迎えるはずでしたのに。
私は明るくなった空を見てそう思った。
チュンチュン鳴いている鳥さえも憎たらしくなってしまう。
「……」
「アリス? 黙り込んでどうした。あ、眠いのか?」
旦那様(仮)は(仮)のまま。
そんな旦那様(仮)は心配そうに私の事を見つめていた。
「……昨夜は妻に」
「妻?」
「……なるのだとばかり」
「……っ!」
旦那様(仮)の顔が真っ赤になった。
「アリス! そ、それは……そういう……いや、待て。落ち着け、落ち着くんだ……アリスだぞ」
「……?」
旦那様(仮)は、急に慌て始めた? と思ったら、自分自身に言い聞かせるように深呼吸を何度もしていた。
それからしっかり私の目を見て訊ねる。
「…………アリス。念の為に聞くが」
「は、はい」
「君の言う“つま”は“妻”、私の奥さんで間違いないな?」
「ま、間違いないです……旦那さ……いえ、ギルバート様の妻です、わ」
「!!」
旦那様(仮)……いえ、ギルバート様は更に真っ赤になり天を仰いだ。
───……
「そこで、奥様を押し倒さない所が、ご主人様らしいですね……」
「……笑いすぎよ、リエナ」
朝、寝不足の顔をした私達を満面の笑顔で迎えた、リエナ達使用人はずっと浮き足立っていたけれど、私と旦那様(仮)は膝を突合せて一晩中、話をしていたわ。と告げると皆、がっくりと崩れ落ちていた。
「……皆、私が本当の妻としてやって来たわけでは無かったと知っていたのね?」
「ご主人様が奥様を迎える前に説明をしてくれていましたので」
(もう! どこまで生真面目なのかしら!)
「ですが、その事で奥様を軽んじるような事があれば容赦なく叩き出すと」
「……まぁ!」
「どんな奥方がやって来るのかと思えば……やって来た奥様は……無邪気にご主人様を振り回して振り回して」
「…………そんな事した覚えありませんわよ?」
私はチクッと抗議する。
「…………では、ご主人様が勝手に振り回されたんですね。と、まぁ、誰の目から見ても明らかにご主人様が奥様に惚れ込んでいたので私達は驚きました」
「……ほ、惚れ込む……」
改めてそんな事を言われると、照れてしまうわ。
「ご主人様も、今夜こそは! と気合を入れていると思いますよ」
「そ、そうかしら?」
「さぁ、今夜の為にも今のうちに眠っておいた方が良いかと思われます」
「そ、そうですわね!」
昨夜から今朝の寝不足のまま、今日の夜を迎えたら起きていられないかもしれないものね!
今のうちに眠っておきますわよ!!
───
「と、昨日の昼間に気合を……入れたんですの……」
「あぁ」
「それで、ベッドに横になったんですけれども……興奮してしまって……」
「眠れなかった?」
私はシュンと項垂れながら頷く。
「そうしたら、眠気は夜にやって来まして……」
「まぁ、当然そうなるな。それで、昨夜はぐっすりだったと」
「……うっ!」
リエナとの話の後、昨日の昼間に全然眠れなかった私は、昨晩やらかしてしまったわ。
部屋を訪ねて来たギルバート様を招き入れて、ベッドに腰かけて少しお話をして……
その後、色っぽいムードになったので、ベッドに押し倒されてそのまま……
(そのまま、私はスヤスヤと眠りこけてしまいましたわ!!)
今は朝。
かなりスッキリした気分で目が覚めたら、隣には悶々とした様子のギルバート様のお姿……
「私、お飾りの妻ではなく、ポンコツ妻だったようですわ」
「ポン……ふはっ!」
ギルバート様が盛大に吹き出した。
そのまま肩を震わせてずっと笑っている。
涙目でヒーヒー言いながら、ギルバート様は私の頭を撫でた。
「アリスは……そのままがいいな」
「……ポンコツ妻ですわよ?」
「ポン……ふはっ! ポ、ポンコツだろうとアリスがアリスなら私は何でも構わない」
「……」
ギルバート様の手が、頭から私の頬に触れる。
「それに、ポンコツだと言うなら私もだろう……」
「ん……」
そう言ってギルバート様の甘い甘い唇が私の唇をそっと塞ぐ。
「なかなかアリスに想いを伝えられなかった……まぁ、始まりが始まりだったからな」
「……結婚の申し込みという話し合いの場であんな事を口にするのは旦那様……ギルバート様くらいですわよ」
チュッ……
「アリスでなかったら振られていただろうなぁ……」
「あ……」
ギルバート様のキスは止まらない。
朝なのに……もうすぐ絶対に誰かが起こしに来るのに……
……チュッ
「妻帯しているかいないかで仕事中の扱いが変わるから“妻”という存在が欲しかっただけなのに……本当の結婚なんてしたいと思わなかったのにな。アリスが面白……可愛すぎた」
チュッ、チュッ
という、キスの合間に色々呟いていくギルバート様。
「……アリス、今夜こそ。君を私の妻に……」
「は、はい……」
(今夜こそ……!)
と、その日の朝にそう約束したのに……
「え!? 王女様の件で王宮に行かれるのですか?」
「呼び出しがあった……これから行く」
(た、確かに……行かないと説明は難しいかも)
お昼に現れたギルバート様にシュンと項垂れワンコ顔でそう言われてしまう。
「……せっかくのアリスとの時間が……くっ! あんな王女のせいで……」
「!」
(あんな王女……)
本当に私が耳にしていたのは噂に過ぎなかったのねぇ……
でも、何であんなに、さも真実のロマンスかのように噂が広がってしまったのかしら?
(不思議ですわね……)
「だん……ギルバート様、お帰りをお待ちしていますわ!」
「アリス……!」
「しっかりお勤めを果たしてきて下さいませ!」
「……くっ、分かった……すぐ帰る! 待っててくれ、アリス!」
「まぁ、ふふ」
と、この時は呑気に笑っていた私でしたけれど、
この後、本気を出したギルバート様が、王都までかかる道程を本来の半分くらいの日程になるほどのスピードで馬車を飛ばし、王女様やサティアン殿下の処分に関しても決して手を緩めず(むしろ、何かの恨みを若干上乗せした疑惑)に証言し、とんでもない早さで私の元へ戻って来て盛大に驚かされましたわ。
その後? ええ、ワンコ旦那様は実はオオカミだったと知りましたわ……ええ。
ちなみに、私は全く知らなかったけれど、ギルバート様のそんな様子が堅物夫が妻を娶ったら溺愛夫になったと王都で大きな噂になっていたようで……
「エルシー先生! 次は、堅物な元騎士が娶った妻にメロメロになる話なんてどうですか! 今、王都の流行りなんですよ、これはきっと間違いなく売れます!!」
(は、流行り……!? 堅物な元騎士だなんてギルバート様みたい……)
と、いう連絡が来たので、何も知らなかった私は、こっそり旦那様をモデルにして作品を書いたらとても良く売れてしまう。
その後も、こっそりキッチンで久しぶりに炭を作ったり、新たに刺繍しようとしたら、ギルバート様が慌てて止めに来たり(何故?)とのんびりした毎日を私は過ごし……
────……そして。
「アリス!」
「どうしました? ギルバート様」
あら? ちょっと怒ってるかしら?
お怒りワンコ顔の旦那様がやって来た。
「君が毎日、元気いっぱいなのは私も嬉しい」
「はい!」
「だが、やはり今は心配だ!」
「どうしてですの?」
旦那様は深ーーいため息を吐いてから言いました。
「君、一人の身体じゃないからだ!!」
「まぁ! ふふ、大丈夫ですわよ。今日も元気そうですもの」
私はそっと大きく膨らんだお腹を撫でる。
旦那様もやれやれと言った顔で一緒に撫でながら小さく呟いた。
「……アリスみたいな元気いっぱいな子が生まれて来そうだな」
「楽しみですわね!」
「賑やかになるな……」
「きっと、楽しくて幸せいっぱいですわよ?」
私が笑顔でそう答えたら、旦那様はとても嬉しそうに笑う。
「そうだな。アリスのおかげで今もこれからも私はずっと幸せだ」
「私も幸せですわ!」
と、私達は笑い合った。
────ある日、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様の元へ白い結婚で嫁いでみましたら……
ポンコツ妻と元堅物騎士として、のほほん夫婦となり可愛い子供達にも恵まれ幸せに暮らしました!
めでたしめでたし……ですわ!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
ここまで、ポンコツ夫婦のお話にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
アリスさんが自由すぎて色々、難しかったです。
こういう主人公は好き嫌いが別れるし、ポンコツすれ違いのバランスも難しい。
私は楽しんで書いていたのですけども。
また、お飾りの妻や白い結婚を私に書かせるとこうなります……
それでも、最後まで読んでくださった方に心より感謝を申し上げます。
少しでも皆様の暇つぶしにでもなれていたなら……嬉しいです。
また、返信滞っておりますが(申し訳ございません)
感想コメントもありがとうございました。楽しそうでよかった!
本当にありがとうございました!
懲りずにいつものように新作も開始しましたので、
もし宜しければ……また、お付き合い頂ければ嬉しいです。
『悪役令嬢? 婚約破棄? ざまぁ? 全てにやさぐれていたら……バグりました! ~婚約者様、ヒロインはあちらです~』
そもそも私が読み専としてWeb小説の世界に来たのは、悪役令嬢ものにハマったから。
なので、書き手になっても定期的に書きたくなるんです。
では、本当にありがとうございました!
※追記(2024.9.16)
次作の悪役令嬢~はコミカライズ配信開始に伴い取り下げております。
すみません。
462
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。