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しおりを挟む後々、私はこの時の事を思い出しては、あまりの恥ずかしさに悶える事になるのだけど、この時の私はとにかく誤魔化したくて必死だった。
(お願い!! どこのどなたか知らないけど、これで騙されて!!)
「にゃ、にゃ~ん」
しーん……
辺りは静寂に包まれる。
(き、気まずい……)
「……」
「……」
──お願いよ!
お願いだから騙されて、何だ猫だったのか……とそのまま納得して、さっさと向こうにでも行って頂戴!!
私は必死に心の中で願った。
「…………なんだ、猫か」
「!!」
やったわ! 騙されてくれたのね!
私、凄い? もしかして鳴き真似の才能あるかも??
なんて浮かれたのも一瞬の事で───……
「なんて言うと思ったかーー!! 誰が騙されるか! 何の真似だ!? いいから姿を見せろ!」
「!!」
(何の真似って猫の真似よ……)
やっぱり誤魔化せなかったか……と心の中で盛大に落ち込みながら、私はそっと茂みから出て姿を現す。
「……コホッ……大変失礼致しました」
もう、後はあまり目を合わさず、会話も最小限にしてこの場を乗り切るしかない!
「庭に出て散歩……して涼んでおりましたら、突然人の声が聞こえて参りましたので、とっさに身を隠してしまいました」
「……」
「決して覗き見する趣味があっての事ではございませんし、もちろんこの事は他言致しません」
私はなるべく目の前の人に顔を見せないように頭を下げながら状況説明をする。
(よし! これで後はこのまま逃げるだけ……!)
「そういう事ですので、私はこれでー……」
「……君は誰だ?」
「っ!」
(逃がしてー! 口外しないって言ったじゃないのー!)
友達のいない私には言いふらす相手なんていないのに。
でも、目の前のこの男性は当然そんな事を知らないから、口先だけでは信用出来ない……そういう事なのだろう。
「……ソフィア。ソフィア・イッフェンバルドと申します」
仕方なく私は名前を名乗る。
「ソフィア・イッフェンバルド……イッフェンバルド男爵家の令嬢か」
「左様でございます」
「……」
男性が黙り込む。
(さぁ! 名前も名乗ったしこれで満足でしょう? これで私を解放してー……)
「……顔を上げてくれ」
「!」
……駄目だった。内心でがっくりと肩を落とす。何でなの……
でも、いっそそれならば、と。私は失礼を承知で訊ねてみる事にした。
「顔を上げないとダメでしょうか? 顔を見せないと私がソフィア・イッフェンバルドだと信じて貰えない……そういう事でしょうか?」
「いや? そういう意味ではない。俺はソフィア・イッフェンバルド男爵令嬢の顔を知らないので顔を見た所で真偽の判断が出来るわけではないからな」
「な、ならば、このまま……」
「──だが、素直に姿を現して迷い込んだだけでした! と言えば良かっただろうに、わざわざ猫の鳴き真似をしてまで場を誤魔化そうとした令嬢の顔が見てみたい。そう思った」
「ひっ!?」
──な、なんて事なの。
私の渾身の猫の鳴き真似のせいで、この目の前の彼の余計な興味を引いてしまった?
(自分で自分の首を絞めただけだったわ)
情けない自分の行動を恥じながら、私はおそるおそる顔を上げる。
どうせなら、このちょっと人に命令し慣れてる偉そうな男性の顔を一目見てから退散しよう。そう思って。
「…………っ!!」
そして、顔を上げて目の前の男性の顔を見た私は絶句した。
ひゅっと息を呑み、言葉を失った。
夜だから分かりにくいけど、日の光の下だとキラキラと煌めきそうな程の美しい銀の髪。
そして燃えるような赤い瞳。
そして、顔の全てのパーツが、ここに収まるのがベストという収まるべき場所に収まった非常に整った顔!
(つまり、所謂イケメン)
(こ、この人は……)
私が探していたヒーロー……ロディオ・ワイデント侯爵子息様だわ!!
姿が見えないと思ったら、こんな所にいたなんて!
さすが、ヒーロー! モテモテなのね。
そして、あの告白してきた令嬢への対応……トリアの言っていた“女嫌い”は嘘では無いのかもしれない。
──そんな事よりも何よりも本物は挿絵よりも数倍はカッコいい!
特に赤い瞳がー……
「……綺麗」
「は?」
「え? あれ?」
私は思わず、ヒーローの瞳を見つめてそう口にしていた。
自分の失言に気付き慌てて謝罪しようと改めて口を開く。
「も、申し訳ございません、そ、その瞳の色があまりにも綺麗でして、つい、うっかり……」
「……」
ヒーローが黙り込んでしまったわ。これは、何の沈黙? 怖いのだけど……!
「イッフェンバルド男爵令嬢」
「は、ははははい!」
我ながら動揺しすぎておかしな返事になっていたけれど、互いにそこは追求しない。
「今、君はこの瞳が綺麗。そう言ったか?」
「は、はい! 燃えるような赤色のはずなのに、宝石のように澄んだ色にも見えて……えっと、何だか上手く言葉に出来ない色なのですが、とても綺麗……」
「あーーー! もういい! 止めてくれ。もう分かったから。充分だ!」
何故か途中で止められてしまう。
せっかく綺麗だと伝えていたのに、何で? どうせなら最後まで聞いて欲しいのにー……と不満に思って改めてヒーローの顔を見た私はまたまた言葉を失った。
「!!」
「…………っ」
(嘘! ヒーローの顔が赤い! 照れてるの!?)
頬を染めて気恥しそうに私から目を逸らすヒーローの様子は明らかに照れていた。
「……っ! み、見るな! 頼むからこっちを見ないでくれ!」
「え……そう仰られましても」
必死に赤くなった顔を隠そうとするヒーローが……
(ふふ、なんだか可愛い)
「っっ! 今! 変な事を考えただろう!?」
「な、何の事でしょう? 私は別に……」
「いや、嘘だ! 絶対に嘘だ! その顔に書いてある!」
な、なんて鋭いのかしら。油断も隙もないわ。さすがヒーロー。
「気の所為ですわ」
「違う! 絶対に気の所為ではない!」
「そんな事ありません!」
「いや、ある!」
「執拗いですわね……!」
「君こそ強情だ!」
初対面のはず……(しかも、ヒーローは私に名乗っていない)の私達の終わりの見えない攻防は暫く続いた。
──数分後。
「はぁはぁ……そもそも俺達は何の話をしてたんだ?」
「本当に……もう訳が分からなくなって来ました……ハァハァ……」
話が脱線しまくりで、もはや、何の話をしているのやら……な私達は互いに肩で息をしている。
ようやく意味の分からないこの不毛な争いに終止符が打たれようとしていた。
(もう、終わりにしてさっさとこの場からー……)
──じゃないわよ!
そもそも、私はこの人に会いに来たんじゃないの! と、ようやく思い出す。
「……ロディオ・ワイデント侯爵子息様!!」
「!? 待て。俺は君に名乗ったか……?」
私の勢いにヒーローは目を丸くして驚いている。とにかくそんなの関係無い私はそのまま彼に詰め寄りながら言った。
「あなた様の事は存じ上げております!」
(前世でね!)
「そ、そうなのか……」
「実は、私はあなたにお願いがあって探していたのです!」
「お願い?」
「そうです!!」
ヒーローは眉を顰めていたけれど、私はとにかくそのままの勢いで突っ走った。
「私の恋人になって下さい!! ……あ、えっと半年! 半年間だけ!!」
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