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しおりを挟む「断る!!」
ヒーローは即座に迷うこと無くきっぱりと簡潔にそう言った。
(しまった……)
自分でも突っ走りすぎたな、という自覚はあった。
初めて会った私に恋人になってくれ、しかも半年間とか言われて即座に頷く方が正直どうかしていると思う。
だから、この反応は正しいまともな人の反応。
ましてや、このヒーローは先程、愛の告白をして来た令嬢を振っていて……更にトリアが言うには女嫌いらしいのだから。
(ちゃんと順を追って話すつもりだったのに……)
ついついさっきの白熱した会話の勢いそのままで向かってしまった。
私が反省しているとヒーローがため息を吐きながら言った。
「……君も他の女と同じだったのか」
「え? 他の女?」
どういう事?
よく分からず首を傾げていると、ヒーローはとても嫌そうな表情をして続ける。
「君もどうせ、侯爵夫人になりたいとかそういう事が目的なんだろ?」
「ええ?」
侯爵夫人? 私が??
なんでそんな話になっちゃうの?
「まさか! そんな面倒くさそうな立場になりたいなんて欠片も思ってません! ……あっ!」
正直に答え過ぎて別の意味でじろりと睨まれた。
「面倒くさそうなって……君は明け透け過ぎると言われたことは無いか?」
「……あります」
(前世でね!)
「……侯爵夫人になりたくないなら何なんだ? ワイデント侯爵家がお目当てか?」
「侯爵家目当てと言えばそうなりますけど……」
「……はぁ? 本当に!?」
──君は正気か?
今度はそんな顔をしている。
ヒーローったら驚き過ぎて、イケメンな顔が大変な事になってるわ。
それでもカッコいいままなのは、さすが物語のヒーローだと思う。
「私が欲しいのはお金でも侯爵夫人という地位でもありません。“ワイデント侯爵家”という権力を持ったあなた……ロディオ様の力を貸して欲しいのです! 期間は半年、半年だけでいいので!」
「……そう言えば、さっきも半年と言っていたな。どういう事だ?」
ヒーローの眉間の皺がますます濃くなる。
「半年過ぎれば私が抱えている問題は解決する予定だから、です」
私とマッフィー様との婚約を阻止した状態で、ヒーローが、ヒロインと出会ってくれれば全ては丸く収まるはずだから。
ヒーローとヒロインが無事に出会ってくれて問題となる私が殺される日さえ過ぎてしまえば、もう殺される必要がなくなるので、後は好きに生きていける!
「その問題とやらを解決する為の間の期間限定……という事か? しかし意味が分からない。恋人とは何だ? 何故恋人になる必要がある。君は俺に何の協力を求めているんだ?」
「……」
最もな質問が来たわね。
ヒーローに婚約者がいない事は私にとって好都合だった。
マッフィー様に私を諦めさせるには彼と同等、もしくは彼より上の男性と私が恋愛関係にならなくてはいけないと思った。
(本音は期間限定で婚約者になって貰えた方がいいけれど、手続きとか解消とか面倒だもの。だから、恋人──)
マッフィー様も私の相手がヒーロー……ロディオ・ワイデント侯爵子息と分かったら簡単に手出しは出来なくなるはず!
「それは、私がマッフィー・ミスフリン侯爵子息様からの婚約打診をお断りしたいからです」
「は? マッフィー?」
ヒーローの声が裏返った。相当驚いたみたい。
「ご存知ですよね? ミスフリン侯爵家のマッフィー様です」
マッフィー様の友人でありライバルでもあるヒーローに頼むには気が引ける内容だけれど、私はもうなりふり構ってなどいられない。
そんな事を思いながらヒーローの目を見つめたら、意外にも彼は冷静に言葉を返して来た。
「……君はマッフィーに求婚されてるのか?」
「はい。私はお断りしましたが、マッフィー様は……」
「マッフィーは納得してくれなかった?」
私はコクリと頷く。
「なるほどな……それで、あれかミスフリン侯爵家の力で強引に君を婚約者にするとでも言い出したのか」
「はい……」
やだ、ちょっとヒーロー凄いわ! まるで見ていたかのようにスラスラと!
私は内心で興奮してしまった。
「それで、俺なのか」
「はい……」
「……」
黙り込んでしまったヒーローに向けて私は言う。
「ロディオ・ワイデント侯爵子息様は例え友人相手であっても、こういった人の気持ちを無視して強制するような行為はお嫌いのはずです」
「何だと?」
この小説のヒーロー、ロディオ様は情に厚い人。
だからこそ、婚約者を殺されたマッフィー様の為に行動する。
そんな性格のヒーローなら、きっと私を放ってはおけない! (と、信じたい)
「……それに、私との恋人契約を結べば、先程のような令嬢からの告白は減るかもしれませんよ」
「っ! そ、それは……」
この言葉にヒーローが動揺したのが分かる。
(あぁ、心が揺らいでるわね。このまま受け入れてくれないかしら?)
もともと、ヒーローへの交渉内容は別の事を考えていた。
だけど、さっきのあの令嬢からの告白を断る彼の様子を見て案外、こっちの方が交渉するにあたっていい気がする。私はそう思い、あえて説得の材料としてみたのだけど、意外と効果がありそう。
「期間は半年。私はマッフィー様に婚約を諦めてもらえて、ロディオ・ワイデント侯爵子息様は、煩わしい女性達から解放されます」
「…………ぐっ」
「ちなみに、恋人と言っても勿論フリですから、本当の愛を求めたりはしません。色恋沙汰にならずに女性避けが出来るのは魅力的ではありませんか?」
「……!」
ヒーローが苦悩し始めた。
これは、もう一押しでいける気がするわ!
「本当に女避けになってくれるのか?」
「勿論です。その代わり、私をマッフィー様から守ってもらう事にはなりますが」
「俺を狙う令嬢から嫌がらせをされる可能性もあるんだぞ?」
「そんなもの受けて立ちますよ。怖くも何ともありません」
──本当に怖いのは小説の通りに殺される事だもの。
「……」
ヒーローは暫く考え込んでいた。
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