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第1章
3. 7年ぶりに会う王子様は
しおりを挟むそして、いよいよ社交界デビューの日がやってきた。
以前から、この日の為に仕立ててあったドレス(デビューは白のドレスと決まっている)に、殿下から頂いた髪飾りと装飾品をつけ鏡の前に立つ。
「お嬢様、お綺麗です! とーーってもお似合いですよ!」
サラが興奮しながら褒めてくれる。大袈裟ね、と思いつつも嬉しい。
「ありがとう!」
「殿下から頂いた髪飾りも、お嬢様の髪に映えていい感じですね…………よく分かってます」
「うん?」
サラの言葉は最後が小さくてよく聞こえなかったけど、頂いた髪飾りもどうやら似合ってるみたいで安心した。
今まで着飾る機会をことごとく避けて来たから、年頃になってこんなドレスを着るのは初めて。
当然、前世でもこんな装いなどした事がないので、どこかソワソワしてしまう。
「さすが、私の娘ね~」
「本当に。綺麗だよ、スフィア」
お母様とお父様も嬉しそうだ。
二人はここまでワガママ言って引きこもっていた私を黙って見守ってくれていたけれど、本当は色々思う事はあったに違いない。
……感謝しかないわ。
「ふふふ、ありがとうございます」
私は、心からの笑顔でお礼を言った。
公爵家の馬車で王宮へと向かう。
本来はエスコート役が家まで迎えに来てくれて、そこから一緒に行くのだけれど、何と言っても私のエスコート役はこの国の第一王子。
ギリギリまで迎えに行けるよう公務の調整をしてくれていたが、迎えに来るのは難しかったらしく、結局、王宮で落ち合う形に決まっていた。
「フリード殿下はそんなにお忙しいなら、何でエスコートの申し出なんてしたのかしら……」
「スフィア?」
「どうかしたの?」
私の呟いた独り言を2人とも拾ったらしく聞き返された。
「いえ、何故フリード殿下が私のエスコートを申し出たのかな、と思いまして。しかも、こうして装飾品まで頂いてしまいましたし」
「あー……」
「……そうねぇ」
何故か2人とも気まずそうな顔をして私から視線を逸らした。
確かにそんな事を聞かれても困るわよね。
そんな事を考えながらまた、ブツブツと自分の世界に籠ってしまった私は、2人がその後していた会話は全く耳に入って来なかった。
「ねぇ、あなた。スフィアは、もしかして……その、こういった感情に鈍いのかしら……?」
「……みたいだね。これは引きこもらせすぎたかな……」
そうこうしているうちに、馬車は王宮へと到着した。
「ようこそ、スフィア嬢! デビューおめでとう。…………こうして会うのは7年ぶりかな?」
馬車から降りるなりそう声をかけられたので、私はゆっくり顔を上げてその声の主を見上げた。
「あぁ、俺が贈った装飾品も着けてくれたんだね? ありがとう。ドレスもとても似合ってるよ!」
「フリード殿下……?」
「うん。公爵家まで迎えに行けず本当に申し訳なかった。だが、ここからはエスコートさせて欲しい」
そう言って手を差し出してきたのは、1度だけ会ったあの日から7年がたち予想通り、とてもキラキラしい美男子へと成長されたフリード殿下、その人だった。
「殿下、ありがとうございます」
「うん?」
殿下は妙に興奮していたので、なかなか挨拶する隙がなくて困ってしまったものの、どうにか挨拶を終えて殿下に手を取られながら会場に向かう中、ようやく私は今回の諸々のお礼を告げる事が出来た。
「エスコートだけでなくこんな素敵な髪飾りにイヤリングとネックレスまで頂いてしまって……」
「いやいや、俺が君に贈りたかっただけだからね。こちらこそ、急にエスコートの申し出をしたりして驚かせてしまっただろう?」
「……はい、とても」
正直に答えたら、殿下は「あはは、だよね!」と、笑った。
……軽いわね。
やっぱりここまで来たら聞いてみよう。何で私に申し込んだのかを!
「それで、あの……」
「あ! そろそろ時間だよ、急ごう」
タイミングが悪かった。どうやらモタモタしている間に時間になってしまったらしい。
結局、肝心の事は聞けずじまいになってしまった。
また後で時間があれば聞いてみようと思いながら、私は殿下と共に会場へと入っていった。
殿下のエスコートで会場入りした途端、周囲がざわめいたのが嫌でも伝わってきた。
えぇ。その気持ちは、とーってもよく分かるわ。
だって、王子様……フリード殿下がエスコートしてるんだもの。注目浴びるのも当然よね。
『フリード殿下がエスコートしてるぞ……?』
『えぇ! 殿下が? 珍しい……』
『……どこのご令嬢?』
『ランバルド公爵家のご令嬢だって!? ……あの!?』
んん? 最後に聞こえた、
“あの”って何かしら? 私、何かした?
「すごい注目だね? 皆、君が綺麗で見惚れてるのかな?」
殿下がクスクスと可笑しそうに笑いながら言う。
「違うと思います。殿下のエスコートを受けてるからです」
「うーん、俺はそれだけじゃないと思うよ?」
「どういう意味ですか?」
言っている事が分からず聞き返した私に、殿下はニコリと笑って答える。
「スフィア嬢は、7年振りの公の場でしょう? 子供の頃から、可愛さと美しさを兼ね備えていた君がどんな女性へと成長したか皆、興味津々だったのさ」
「はい!?」
なんてこった!
7年間、色々と表舞台に出る事を避けてきたせいで、自分に対する周囲のハードルがめちゃくちゃ上がってる!?
「……そ、それは皆様、今頃がっかりしてますね。私、こんなですから」
「まさか! 君はここの誰よりも美しく可憐だよ。ランバルド公爵が外に出さなかったのも頷ける」
「え!」
お世辞だとわかっていても、照れてしまう。こういうやり取りには慣れてないのよ……
恥ずかしくて下を向いたら、頭の上でクスリと笑う気配がした。
おそるおそる顔を上げると、フリード殿下はとても優しい目で私を見つめていた。
「!!」
自分の頬に熱が集まったのが分かった。
あぁ、今の私は絶対に顔が赤いわ……
殿下はそんな私をすごく嬉しそうにずっと見つめていた。
「国王陛下と王妃様のご入場ですーー」
気が付けば、陛下達が入場する時間となっていた。
陛下の夜会開始の号令の後、デビュタントの令息令嬢は国王陛下と王妃様へ挨拶に伺う事になっている。名前を呼ばれるまでは待機だ。
「俺も次からは挨拶を受ける側になるんだ」
「えっ?」
「成人を迎えるからね。成人の儀を終えた王族は挨拶受ける側に回る事になる。だからデビュタントのエスコート出来るのは今回までだったんだ。ギリギリ間に合って良かったよ」
「……?」
フリード殿下が次からデビュタントのエスコートが出来なくなる事は理解した。
では……ギリギリ間に合った、とはどういう意味だろう?
そんな疑問が顔に出ていたのか、殿下が私の心を読んだかのように答えた。
「スフィア嬢のエスコートはどうしても俺がしたかった」
「えっ?」
ますます意味がわからない。だから、何で──?
「ーースフィア・ランバルド公爵令嬢」
理由を聞きたかったけれど、ちょうど私の名前が呼ばれてしまった。
「あ、呼ばれたね、行っておいで」
「は、はい、行ってまいります……」
私は、モヤモヤした気持ちを抱えたまま陛下達の元へと向かった。
「スフィア・ランバルド公爵令嬢だね?」
「は、はい! ランバルド公爵家の娘、スフィアと申します」
陛下と王妃様の前で礼をとる。
「今日は、我が息子がエスコートしてると聞いたが、失礼な事はされていないかね?」
「はい、優しくエスコートしてくださっています」
まさか、
意味不明な事ばかり言われて困惑してます。
なんて言えるはずがない。
「ふふふ、まさかあの子が令嬢のエスコートするなんてね。初めての事なのよ。驚いたわ」
王妃様はどこか可笑しそうに笑いながら言った。
驚いたのはこっちです……って、フリード殿下が令嬢をエスコートするのは初めてって聞こえたのだけど?
「デビューおめでとう。これからも息子と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「そうだな、ぜひ」
「は、はい! 光栄です。こちらこそよろしくお願い致します」
息子。
……それは、ニコラス殿下も含みますか?
と、思わず聞きたくなったけど、もちろん口にはしなかった。
フリード殿下も困るけど、ニコラス殿下は心の底から、御遠慮願いたい。
最後まで嬉しそうな様子の陛下と王妃様の御前から失礼して、私はフリード殿下の元へ戻った。
「緊張した?」
殿下は、ちょっと意地の悪い顔でそう聞いてくる。
この顔は7年前のイタズラした時の顔と同じで変わってないなと思った。
「……しました」
「だよね、お疲れ様。あ、俺の事も言われたかな?」
「……言われました。これからも仲良くしてやってくれ、と」
「それはそれは」
その言葉を聞いたフリード殿下はなんだか嬉しそうだった。
「あの、フリード殿下がご令嬢のエスコートするのは初めてだと王妃様が仰ってました。……本当に私が初めてなのでしょうか?」
本当なら恐れ多い事だ。でも、気になったので思い切って聞いてみる事にした。
「うん、そうだね。自分がエスコートするならスフィア嬢だけって決めてたし」
「!?」
その発言に驚いた私が何か言葉を発する前に殿下は続けて言った。
「君にもう一度会いたかったんだ」
「……えっ?」
「7年前……あの日からスフィア嬢は王宮の催しには一切顔を出さなくなっただろう?」
「え、えぇ、そうですね……」
「ちゃんと謝りたかったんだ。……本当に申し訳なかった」
そう言って、フリード殿下は私に頭を下げた。
「殿下……!? おやめ下さい、頭を下げるなど……!」
「いや、いくらあの時、自分がむしゃくしゃしていたとはいえ、あんな事はご令嬢にすべき事じゃ無かった」
「むしゃくしゃ……?」
「八つ当たりに近いかな? あの頃、嫌になるほど沢山の令嬢を紹介されててね、正直、むしゃくしゃしていた。それで、近付いてきた令嬢にはいつもあんな事を……」
「まさか、私以外にもしていたのですか……」
これは、トラウマになった令嬢もいるんじゃないだろうか?
「あんな笑顔で突っ返して来たのは君だけだったよ、スフィア嬢」
「…………」
ですよね。大抵の令嬢は泣いて逃げますって。
「他のご令嬢には、その後に謝る機会があったんだけど、君だけは……」
つまり、私がその後引きこもってしまったから、謝る機会が持てなかった。
でも殿下はどうしても謝りたかった……だから、今回エスコートを申し出た?
なぁんだ、謝罪のためだったんだ! なるほど!
と、私はうんうんと心の中で納得する。
ようやく、謎が解けたわ~! スッキリ!
「殿下! 私はあの件を全く気にしていません! むしろ、そんな7年前の謝罪をする為だけに、この度お手を煩わせてしまい、こちらこそ申し訳ないくらいです」
「えっ?」
だって7年前の謝罪の為だけに、わざわざエスコートしてくれるなんて申し訳なさすぎるもの。
そう思って口にしたのだけど、すっごく変な顔をされた。
──どうしてなの!?
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