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第1章
4. 殿下は私を振り回し翻弄する
しおりを挟む変な顔はされたけれど、私が1人で勝手に今回のフリード殿下のエスコートの申し出の理由に納得していたら、いつの間にかデビュタントの挨拶が終わっていたようで、ホールにさっきまでと違う音楽が流れ始めた。
どうやらダンスの時間らしい。
まずは、陛下と王妃様が踊られる。
両陛下のダンスに見惚れていたら、私の目の前に手が差し出された。
もちろん、その手の主はフリード殿下だ。
「スフィア嬢、俺と踊ってくれますか?」
「はい、喜んで」
私は、微笑みながら殿下の手に自分の手を重ねた。
すると、何故だろうか。ホール内はまたしてもザワザワし始めた。
『……殿下が踊るの!?』
『珍しい……』
『今日は珍しいものばかり見るなぁ』
どうやら、みんなフリード殿下がダンスをする事に驚いているようだった。
踊るだけでこんなにざわつかれる王子様とは一体……
「あ、あの殿下? 何故、皆様はあんなに驚いているのでしょうか?」
踊りながら、殿下に聞いてみる。
王子が踊るのは決して珍しい事ではない、はずなのだけど。
「うん? あぁ、俺が普段はあまり踊らないからじゃないかな? いつもは誘いを受けてもなんやかんや理由をつけて断ってる事が多かったし」
「えっ、そうなんですか?」
「そもそも、俺はこういった催しにはあんまり参加して来なかったからね。まぁ、さすがに成人したらそうも言ってられないけど」
「どうして……」
その発言を聞いて私は思わずそう呟いていた。
つまり今日は、本来なら参加しないはずの催しだったのにも関わらず、わざわざ社交界デビューする私のエスコート役を申し出てくれただけでなく、こうして滅多にしないダンスまで踊ってくれているという事になる。
そんな私の呟きが聞こえていたのか、殿下は私を見てニンマリと笑って言った。
その表情に、また7年前のあどけない少年だった頃の殿下を思い出した。
「だから、さっきも言ったよ? 今日は全部君のためだって」
たかだか7年前のイタズラの謝罪の為にここまでするの?
わざわざ贈り物までして?
よく分からないけど、さすが王子様……罪滅ぼしの規模が常人とは違う。
「謝罪……だけなら、ここまでされなくても。私はこうして社交界デビューをしましたから、殿下とお会いする機会は今後もあったかと思いますよ?」
私のその言葉を聞いた殿下が、困った表情を浮かべながらプルプルと首を横に振った。
「今日こうしているのは、さっきも言ったように、スフィア嬢の社交界デビューのエスコートを俺がしたかったってのも理由の一つではあるんだけど……」
理由の一つ? では、他にも理由があるというの?
私が首を傾げていると、殿下は更に続けて言った。
「残念ながら俺にはもうあんまり悠長にしている時間が無いんだ」
「……?」
時間が無い?
また、意味深な事を言われてしまった。
気になったけど、殿下もそれ以上は語ろうとしなかった。
それにしても、何だか私はフリード殿下に翻弄されている気がするわ。
モブのはずのフリード殿下の存在感が強すぎて、私はここが小説の中の世界だって事を忘れてしまいそうになっていた。
「それにしても、スフィア嬢はダンスの腕前もさすがだね?」
「え? いえ、殿下のリードが素晴しいからですよ」
これは謙遜では無い。殿下のリードはとても踊りやすいのだ。
このまま、もう少し踊っていたくなるくらいには。
私だって人前に出る機会は無くてもレッスンだけはきっちり受けてきた。
その中でも殿下は誰よりも踊りやすい。心からそう思った。
曲が終わり、周りの令嬢達が次は自分が殿下と踊るわっ!!
と、鼻息荒くしてこちらに近付いて来ようとするのがビシビシと伝わって来た。
ギラギラした目を向けてくる。そうね、例えるなら肉食獣。
……いや、すっごく怖いんですが。食いちぎられそう。
そんな鼻息荒い令嬢達の様子に、ちょっと怯えていると殿下に手を取られた。
「?」
「……もう1曲」
「へ?」
私が間抜けな声をあげている間に、あれよあれよと強引に連れ出され再びダンスが始まる。
「強引です……!」
「ごめん、ごめん、ちょっと牽制しておきたくて」
殿下が笑いながら謝ってくる。
牽制? あの迫って来ようとする令嬢達に?
私としては視線が痛くなっただけなんですけど? と文句を言いたい。
「ふぅ……よく分かりませんが、殿下は大変なのですね……」
そうため息と共に呟いたら、殿下は苦笑していた。
「お疲れ様、疲れてない? はい、果実水で良かったかな?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
踊り終えた後、殿下が飲み物を取ってきてくれたので、今、私達はバルコニーで休んでいるところ。
その際も、隙あらば殿下と踊りたいと令嬢達が近付いて来たけれど、殿下はその全てをバッサリと断っていた。
「私の事は気になさらず踊って来ていただいて構いませんよ?」
私がそう言うと、殿下はちょっと驚いたように目をパチパチと瞬かせた。
何故、そんな驚いた顔をするんだろう。
「いや……今日はスフィア嬢としか踊らないよ」
「えっ?」
「だから、スフィア嬢もせっかくのデビューなのに申し訳ないけど、今日は俺とだけにしてくれないか?」
殿下がそう言って飲み物を持っていない方の私の手を持ち上げ、手の甲に軽くキスを落とした。
……もちろん手袋越しだったけれど、その行動にビックリして私の心臓がドキンッと大きく跳ねた。
「……どうしても他の男とは踊って欲しくないんだ」
その言葉に、更に心臓が跳ねた気がした。
頬に熱が集まって来たのが自分でも分かる。これは絶対顔が赤くなっている!
だって、そんな動作とそんなセリフ……反則よ!!
イケメンにこんな事を言われてときめかないはずがないでしょう!?
おかげで、すっかり動揺した私は、
「わ、分かりました……! き、今日のパートナーである殿下がそこまで仰るなら仕方ありませんよね! でも、今日だけですよ!? それも、し、仕方なくですからねっっ!」
と、後からどう振り返っても、何処のツンデレだよ、としか思えないセリフを返していた。
なので、自分の発言に恥ずかしくなって下を向いてしまった私には、その返しを聞いた殿下がどんな顔をしているかは見れなかった。
ただし、殿下が笑いを堪えている事だけは身体がプルプルと震えていたので伝わって来たので、私の恥ずかしさは倍増した。
「~~~っっ!」
私の社交界デビューは、こうして殿下に振り回されて過ぎて行った。
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