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第1章
8. いざ、舞踏会へ!
しおりを挟むその後、王家御用達のお店の方々が、わざわざ屋敷にやって来てドレスの為の採寸をしてくれる事になった。舞踏会の日まであまり時間が無いので、これから急ピッチでの作業となるらしい。
何だか申し訳ないなぁ、と思いつつもちょっと楽しみになってしまうあたり、私は単純なのかもしれない。
そして無事にドレスは完成し、フリード殿下の成人を祝う舞踏会の日があっという間にやって来た。
「お嬢様、今日も素敵です!!」
「あ、ありがとう!」
フリード殿下から贈られたドレスは青を基調としており、裾に向かってクラデーションになっていて金糸の刺繍がそれはそれは見事なドレスだった。
まさかとは思っていたけれど、贈られたものはドレスだけでなく、今回のドレスに合わせた髪飾りにイヤリング、ネックレス、髪飾りに靴……と必要な物は全て揃っていた。
ドレスだけじゃなかったの!?
と、心の中で叫んだ事は言うまでもない。
鏡に映った、ドレスを着た自分を見る。
「……」
……何だか、全身がフリード殿下で染められてるみたい。
「……っ!」
油断すると変な思考に耽ってしまいそうで、私はそれ以上考える事をやめた。
「そういえば、今回のエスコートはユーベル様なんですね! まさかお帰りになられるとは」
サラが髪を結いながら嬉しそうに聞いてくる。
「そうなの。一家で招待されていたから、お兄様も参加出来て良かったわ」
私には、10歳上の兄、ユーベルがいる。
公爵家の跡継ぎであるお兄様は、ここ数年は領地経営を学ぶ為、領地に帰っていたので中々会う機会が無い。
だから今日の為にお兄様が王都に来ると聞いて嬉しかった。
「お嬢様の社交界デビューのエスコートも、ユーベル様がしたかったのでは?」
「そ、そうなのよねぇ……」
現在、25歳のお兄様は公爵家の跡継ぎで容姿も私と同様、銀色の髪が美しく瞳は輝くようなアメジスト色。社交界では大変人気が高く容姿端麗な独身男性と言われている。
そんなお兄様の唯一の欠点? は、とてもとてもシスコンである事だ。
私を大変溺愛していて、領地に帰る際も「スフィアと離れて暮らすなんて無理だ!!」と、最後まで渋っていたくらいだ。
だから、当然最愛の妹である私の社交界デビューのエスコートは、自分が務める気満々だった。
だからこそ、フリード殿下の申し出に真っ先に難色を示したのもお兄様で。
まぁ……王族に逆らえないから、最終的には折れてくれたけど。
そのせいでお兄様はフリード殿下に対して良い感情を抱いていない。
多分、まだ根に持っていると思う。
今回の舞踏会は欠席するかもと思っていたけれど、「大事な大事なスフィアのエスコートをするのは俺しかいない!!」と息巻いて王都にやって来ていた。
「お兄様は届く手紙でも、いまだにデビューのエスコート出来なかった事を嘆いているもの」
特に、殿下への恨みつらみが見え隠れしている。
「……ユーベル様、お嬢様の装いを見て発狂しないといいですね」
「え? 何で?」
サラが物凄く物騒な事を口走った。
発狂?
めちゃめちゃ怖いんですけど?
私が首を傾げていると、サラは苦笑いしていた。
「……スフィア、その装いは全部フリード殿下からの贈り物か?」
「えぇ、お兄様! 殿下からのいただきものになります。……似合っていませんか?」
お兄様が、私を見るなり今日の装いに不満気な声を出したので、ちょっと気持ちが沈んでしまった。
サラの言うように発狂はしていないけど……
この感じは似合ってない、とか思われているのでは……と、落ち込む。
「いやいやいや、すごく似合ってる! さすがスフィアだよ! 最高だ!!」
「そ、そうですか? 良かったです」
お兄様は、私が落ち込んだのが分かったのか慌ててそう言った。
私はホッとして微笑む。多少のお世辞が入っていたとしても、似合ってると言われるのは嬉しい。
「似合ってる! とっても可愛い! 悔しいくらいスフィアの魅力が引き出せてるとも! …………ただ、配色が気に入らない……あの野郎……」
「お兄様?」
最後がモニョモニョしてて聞き取れなかった。
「いや? 気にするな。スフィアに群がろうとする虫をどうするか考えていただけさ」
「……今、虫の季節でしたっけ?」
「ん? いつでも虫はいるもんなんだよ! さぁ、行こうか? 父上と母上が待ってるぞ」
何だか誤魔化された気がしたけれど、お兄様の事だ。これ以上追求しても答えてはくれないだろう。諦めて私はお兄様の後について馬車へと乗り込んだ。
王宮のホールに着くと、すでに大勢の貴族が集まっていた。
「いいか、スフィア! 知らない男にホイホイ着いて行ったらダメだぞ!!」
子供扱いされている。お兄様は昔から私に対してとても過保護だった。
どうやら、それは今も変わっていないようだ。10歳も離れているとそうなってしまうらしい。
もう私は社交界デビューだってしたのだから、もう少し大人として扱ってほしいのに……! と思わずにいられない。
そんな事を考えていると、あっという間に王族の入場時間になっていた。
ラッパのファンファーレが響く中、国王陛下、王妃様、フリード殿下とニコラス殿下が入場してくる。
「……あ」
私はそんな国王一家の様子を見て、フリード殿下の事が遠くに感じてしまった。
……そうだった。フリード殿下は王子様。当たり前の事なのに。
なのに、何でこんなモヤモヤした気持ちになるの。
「どうした? スフィア?」
お兄様が何やら私を呼んだ気がしたけれども、私の目はずっとフリード殿下だけを追っていた。
国王陛下の挨拶、そして成人を迎えたフリード殿下の挨拶が続き、ダンスの時間へと移る。
本日の主役であるフリード殿下のファーストダンスのお相手は誰なのか? と、皆が注目する中、フリード殿下は真っ直ぐ私の元へとやって来た。
(え? ……私!?)
そして、殿下は迷うこと無く私に向かって手をスッと差し出した。
「スフィア・ランバルド公爵令嬢、私と踊って頂けますか?」
「で、殿下……」
私は、真っ直ぐに自分の元へとやって来たフリード殿下に驚きを隠せなかった。
ドレスや装飾品を贈られ、話があると言われていたものの、まさかファーストダンスの相手に自分が指名されるとは……
驚きと嬉しさが入り交じったまま微笑んで殿下の手をとる。
「はい、喜んで」
「ありがとう」
私がニッコリ笑うと殿下も目を細めて嬉しそうに笑った。
そして私達は手を繋いでホールの中央に向かい踊り出す。
「……ドレス、とても似合ってる。贈って良かった」
踊っている最中にフリード殿下がドレスを褒めてくれた。
「こちらこそ、ありがとうございます。ドレスだけでなく他にもいただいてしまいました」
「せっかくなら、コーディネートも合わせた方がいいだろう?」
「でも……!」
「俺が贈りたかったから良いんだ。スフィアが身に付けてくれている事が本当に嬉しい」
踊りながら繋いでる手にギュッと力が入った気がした。
「私、殿下には貰ってばかりです……」
申し訳ない気持ちになってそう告げると、殿下は苦笑しながら言った。
「いや? 俺だってフィーに色々貰ってるよ?」
“フィー”
その呼び名が、2人だけの特別な響きに聞こえて、私の顔は一瞬で真っ赤になってしまった。
「私は何も……!」
手紙の返事こそ出しているが、殿下に何かをあげた記憶など全く無い。
「いや? フィーは分かってないかもしれないけど、ちゃんと貰ってるよ」
「……!!」
そう言って優しく微笑むフリード殿下の言葉の甘い声と響きに、胸がドキドキしてしまい、うまく顔が見れなくなってしまった。
「…………あぁ、本当に可愛いな…………」
フリード殿下がボソッと小さく呟いた声は、照れて俯いていた私には聞こえていなかった。
「フィー、手紙にも書いたが後で話がある。時間を見繕って声をかけに行くから待ってて欲しい」
「あ、はい。そうでしたね、わかりました。お待ちしています」
今日の主役でもある殿下に時間なんて取れるのかしら? と思いつつも了承する。
「うん。あと……出来れば他の男とのダンスは控えめに……いや、何でもない!」
「………………」
今度は聞こえた。ちょっと耳が赤い。自分の発言にどうやら照れているようだ。
私は目の前の殿下が無性に可愛く見えてしまった。
「ふふふ……わかりました! ダンスは控えめに、ですね?」
「えっ!? あ、聞こえて!? ……いや、その……」
狼狽える殿下も可愛い──
私は、この後のダンスは控えめにしよう、そう心の中で決めた。
そんな殿下とのやり取りを楽しんでいた私は、この時、会場内にいたニコラス殿下が私達の様子を、まるで睨むかのように凝視している事に気付いていなかった。
この時の私は、あんなに気にして来たはずなのに、7年ぶりに姿を見たニコラス殿下の事なんて、ちっとも頭の片隅にも無かったから。
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