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第3章
3. 侯爵令嬢の牽制?
しおりを挟む「スフィア様!」
学院の休み時間。突然、後ろから声をかけられた。
社交界では身分の低い者から、高い者に声をかける事は許されていないけれど、ここは学院なのでそういった事は適用されない。
だからと言って、親しくもない人から不躾に、しかも名前呼びで声をかけられるのはあまり気分が良いものでは無い。
それも話しかけてきた相手が──
「シーギス侯爵令嬢……」
「ミレーナとお呼びくださいませ、スフィア様! 昨日はご挨拶もせず大変失礼致しました」
そう言ってミレーナ嬢は腰を落として挨拶をする。
昨日あれだけ分かりやすく私の事を無視したあげく、最後に一睨みしておいて今更何を言っているのかしら。
不信感しか湧いてこない。
「……では、ミレーナ様。私に何の用でしょうか?」
「いえ、昨日スフィア様に失礼を働いてしまったからそのお詫びをと思いまして」
ミレーナ嬢は、慌てて首をプルプルと横に振りながらそう言った。
その顔には一応申し訳なさが現れている。
「……そうですか。なら、私は気にしていませんから謝罪は結構です。他に用が無いのならこれで失礼致しますわ」
何を今更、としか思えないけれど一応、謝罪は受けた。ならばこれ以上は特に話す事などない。
私はそのまま立ち去ろうとしたけれど、ミレーナ嬢はなおも食らいついてきた。
「あ、あの……き、昨日、あれからフリード殿下が、わたくしに王宮と庭園の案内をしてくださったんです!!」
は? 突然、何を言い出すの?
「………そうですか」
「フリード殿下って本当にお優しくて! スフィア様もそう思いませんか?」
「…………」
「わたくしの事も庭園に咲いている花のように何度も可愛い、と仰ってくださいましたのよ!」
ミレーナ嬢は頬に両手を添えて嬉しそうに語る。
その頬は、ほんのり赤く染まっていた。
そう。それはまるで何も知らなければ、真実のように聞こえた事だろう。
「そうですか。それは良かったですね」
私が張り付けた笑みを浮かべながらそう答えるとミレーナ嬢は、それまでの表情から一変して目つきを鋭くして言った。
そのあまりの変わり身の早さに驚いた。
そしてやっぱりその目には私に対する憎悪が現れていた。
「何よ……動揺すらしないというの? 腹立つわね……まぁ、今日はこれくらいでいいわ」
「……」
「えー……そういう事ですから、どうかわたくしと殿下の邪魔をしないでくださいませね? スフィア様」
ミレーナ嬢はニッコリと笑みを浮かべてそう言ったけれど……
全部聞こえてた。
やっぱり、わざと煽ってたんだ……
ミレーナ嬢は満足そうに踵を返して去っていく。
言いたい事だけ言って、勝手に去っていく……彼女の性格がよくわかるような行動だった。
「えっと、今のは何のアピールなの? フリードの心は私のモノよみたいな? 牽制……だったの?」
私は独りで呟く。
「……それに、邪魔するなって言われてもね」
むしろ邪魔なのはそっちなんだけどな、と思わずにはいられない。
あれは挑発?
「はぁ……」
もはや、ため息しか出なかった。
しかし、あのミレーナ嬢の話し方には物凄く既視感があった。
似ていたのだ。セレン嬢が私を陥れる為の嘘を広めてた時の話し方に。
ついつい聞き惚れそうになる身振り手振りを交えつつのあの巧みな話術を思い出す。
おそらくミレーナ嬢は、今、私にした話を他の令嬢にもそれとなく話をする事で、学院内、そして社交界にフリード殿下の相手は自分だと広めていくつもりなのだと思う。
「敵ながら感心するわ……」
なんて、感心してる場合ではない。セレン元男爵令嬢が噂を広めていた時とは状況が違うのだから。
ミレーナ嬢をこのままにはしておけない。
いくら内々でフリード殿下と私の婚約の話は決定しているとはいえ、世間には未公表。
その状態でミレーナ嬢とフリード殿下の噂が広まるのは……かなり危険。
まぁ、それこそが向こうの狙いで外堀から埋める作戦なのだろうけれど。
「まだまだ問題は山積みだわ……まずはフリードにこの事を話さないと」
私は頭を抱えた。
◇◇◇
「……で? フィーはその話を信じたわけ?」
お妃教育の帰り間際、殿下は今日も私の前に顔を出してくれた。
短い時間でも顔が見れるのは嬉しい。
「え? いいえ? まさか。信じてませんよ」
私は静かに首を振る。私のその言葉に殿下はホッとした顔をみせる。
最初から疑う事もしなかった。
「だよな。俺の口説き文句とは違うしな」
「?」
「あれ、わからない? 俺は口説く時に“庭園の花のように可愛い”なんて言葉は使わないな」
「……? では、何と……?」
私は首を傾げながら尋ねる。
「フィーは、庭園の花よりも何よりも1番可愛い、だな」
「!?」
ボンッと一気に自分の顔が赤くなったのがわかった。
殿下は、私のその反応を見て意地悪く笑う。
「……本気でそう思ってるぞ?」
「……っ」
耳元で囁かれた。反則だ!! もう私の顔は茹でダコ状態だと思う。
「ハハハッ! ほら、すごく可愛い!」
「か、からかわないでください!!」
「まさか! からかってなんかないよ? 俺のフィーは、いつでもどんな時でも可愛いんだから」
ギュッ
そう言って殿下は私を優しく抱き締める。
「そもそも、俺はフィーしか口説かないし、フィーしか可愛いとも思えない」
「うぅぅ……何ですかそれ。フリードは目が悪いと思います……」
私もそっと腕を殿下の背中に回し、抱き締め返しながら言った。
「えぇ? 俺の視力はバッチリだぞ? まぁ、10年前からたった一人の女の子しか可愛く見えなくなってしまったけど」
「…………重症じゃないですか」
「そうだな。だから、責任とってその女の子はずっと俺の側に居てもらわないといけないんだ」
「……ふふふ」
「何が可笑しい?」
「いえ……責任とかではなく。もちろん側にいます。……私自身がフリードの側にいたいから」
私は、微笑みを浮かべながらそう口にした。
「…………」
「フリード? どうしました?」
なぜか殿下の反応が無くなったので私は慌てて顔を覗き込む。
「何なんだよ、その可愛さは! はぁぁぁ………………俺は一生フィーにはかなわない気がする」
「へ?」
そう口にした殿下の顔は真っ赤だった。
その様子が可愛いなんて思ってたら、チュッと唇を奪われた。
「……んっ!」
最近気付いたけど、殿下は隙あらばキスを仕掛けてくる。
それも、軽く終わる事はほとんど無くて……
しかも大抵、長くて濃厚なので、嬉しさ、恥ずかしさ、戸惑いと私の心は落ち着かない。
今だって人気は無いからいいけれど、人目とか気にしないんだろうか?
「フィー……」
そして私はこの合間に囁かれる私の名前を呼ぶ殿下の甘い声の響きに弱い。
照れとか恥ずかしさとか全部吹き飛んで殿下の事しか考えられなくなってしまう。
ほら今も……
私はしばらくの間、殿下との甘いキスに酔いしれた。
抱き締め合いながらそんなキスをしている間に、ガラガラと迎えの馬車が近付いてくる音がした。
慌てて私達は身体を離す。
名残惜しいけど、今日はこれでお別れだ……
そう思ったら、殿下の真面目な声が頭上から聞こえてきた。
「フィー。シーギス侯爵令嬢には気をつけろ」
「はい?」
突然の発言にびっくりして顔をあげたら、殿下はとても真剣な顔をしていた。
「あの令嬢は、そんな牽制だけですますような人間じゃない」
殿下は何か彼女について知っているのだろうか?
「わかりました」
まだ見ぬ不安とともに私は帰路に着いた。
これ以上は、何事も起きない事を願いながら。
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