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第3章
4. 物語は終わったはずなのに
しおりを挟む「きゃーー!! スフィア様とミレーナ様がぁぁぁーーーー」
女生徒の叫び声に、周囲にいた人達が何事かと集まってくる。
今、私とシーギス侯爵令嬢……ミレーナ嬢は階段の下にいる。
いや……正確には倒れている。
何故なら、二人揃って階段から落下したから。
階段ですれ違った際に、突然ミレーナ嬢に腕を引っ張られてそのまま同時に二人で落下した。
「ひ、酷いですわ、スフィア様……」
先に起き上がったミレーナ嬢が涙を流しながら訴えてきた。
集まって来ていた周りの野次馬も、その言葉に騒然となる。
もちろん、ミレーナ嬢は全てわざとなのだろう。
集まっている人達に聞かせる為か大袈裟なくらい声が大きかった。
「ミレーナ!? 大丈夫!!?」
その辺で待機していたのだろうか。都合よく駆け寄ってくるミレーナ嬢の友人。
「ル、ルーラ、私なら大丈夫よ……」
「スフィア様! 何故、ミレーナを階段から突き飛ばしたんですか!?」
「ルーラ、や、やめて……スフィア様だって一緒に落下してしまったのよ、だから、ね?」
「まぁぁぁ! ミレーナったら! スフィア様を庇うの!? 貴女って人は優しすぎるわっ!!」
二人の演技は随分とのりに乗っている。
「いいのよ……わたくしが悪いのですもの……ほら今、わたくしがフリード殿下と仲良くさせていただいてるから……スフィア様はきっと私の存在が面白くなかったのでしょう……」
「まぁぁぁ! スフィア様! ニコラス殿下との婚約がダメになったからって今度はフリード殿下を狙ってるんですの!? そんなにも王家に嫁ぎたいのですか!?」
階段落ちの罪を私に着せながら、さり気なく殿下との仲をアピールして来た……
本当になんて人なの。シーギス侯爵令嬢、ミレーナ。
殿下が警戒していた意味が分かった。
そしてルーラ嬢も大袈裟なくらいのオーバーリアクションだった。
実はこの手の嫌がらせ。今日が初めてでは無い。
さすがにここまで危険なのは初めてだけれども。
手を変え、趣向を変え、毎回被害者になるミレーナ嬢は、ことある事にその犯人を私に仕立てあげながら自分とフリード殿下の親密さを強調していく。
「勝手に話を決めつけないでいただけますか? そして私はミレーナ様を突き落としてなどいません!」
「まぁぁ! そんな話、誰が信じると思ってるんですか? スフィア様。あぁ……本当に強欲な方! ミレーナ、大丈夫? 医務室に行きましょう!」
ミレーナ嬢の友人、ルーラ嬢がミレーナ嬢を支えてその場から去っていく。
この言葉を合図に、周りの野次馬も解散となった。
周囲の冷たい呆れたような視線が私に突き刺さってきてとても痛い。
毎回、反論は試みてるけど、多分私の言い分を信じてる人の方が少ない。
今更ながらセレン嬢の流す噂を放置していた事を後悔した。
もちろん自業自得なんだけど。
「…………」
そして、私もいつまでも倒れ込んでる場合ではない。
さっさと起き上がって、この場から離れなくては。
そう思って立ち上がろうとしたけれど、
ズキンッ
「……っ!」
足に鋭い痛みが走った。どうやら落下時に捻ってしまったようだ。
ミレーナ嬢は、自分も一緒に落下するからか階段の低めの位置から仕掛けてきたけれど、さすがに私は無傷とはいかなかった。
落ちるつもりでいるミレーナ嬢は受身を取るだろうけど、落とされる側は受身なんてとっていないのだから。
「しかし……階段落ちイベントが起こるなんて」
悪役令嬢の出てくるゲームやら物語の中では定番とも言える階段落ちイベントは、あの小説の中でも起きる。
“悪役令嬢スフィア”が“ヒロインのセレン”にも行ったイジメの1つだった。
危険性が高いからか物語の終盤で発生し、この事件によってとうとうニコラス殿下の堪忍袋の緒が切れ、悪役令嬢スフィアの断罪へと向かうきっかけになる重要なイベントなのだけど。
まさか物語が終わった今、しかも自分がやられる側で起きるとは夢にも思わなかった。
「うーん、立てるかな……?」
足はズキズキ痛むけど、何とか立てそうだ。どうにか足を引き摺りながら教室に向かう。
本当は医務室に行きたいけれど、今はミレーナ嬢がいるので行けない。
今日は、リリアとロベルトが休みで良かった。
二人がいたら巻き込んでしまっていたかもしれないもの。それだけが救いだった。
◇◇◇
……あぁ、困ったわ。
目の前のフリード殿下の笑顔が怖い。
王宮に着くなり、何故か今日に限ってフリード殿下が私を待ち構えていて、「どうしたの?」と聞く間もなく馬車を降りたら有無を言わさず横抱きにされて、殿下の執務室に連れて行かれた。
ソファーに降ろされたと思ったら、殿下は「ここで待ってろ! 絶対に動くなっ!」と声をかけ部屋を出て行ってしまい、戻ってきた時は王宮の医師を連れて来てくれた。
足を見せるよう言われ捻った足の手当てが行われ、殿下は今、私の向かい側で怒りのオーラを発している所だ。
「…………フリード。あの……」
このピリピリした空気に耐えられず、おそるおそる声をかけた。
それに、どうしても聞きたい。いや、聞かなくてはと思う。
──どうして私が足を怪我した事を知ってるの?
「……フィーの足の怪我の事か?」
私はコクコクと頷く。
「どうして私が足を怪我した事を知ってるのです……?」
「あぁ。どうしても何も……今、シーギス侯爵令嬢にも監視をつけてるからな。フィーがここに来る前に報告があった」
「監視!?」
「親子共々、色々企んでるようなんでね」
「そうでしたか……」
あの自称密偵さん、みたいな人達が暗躍しているという事かしら。
……って言うか、にもって何?
まさか……私にも……? 殿下ならしてておかしくないわね。
「…………大丈夫か?」
殿下はさっきまでは怒りのオーラを振り撒いていたのに、今はとても辛そうな顔を私に向けている。胸がキュッと痛んだ。
それだけ心配かけたという事だから。
「ご、ごめんなさい……気をつけるように言われていたのに」
「……本当にな。事故の話を聞いて心臓が止まるかと思った。さっきまでは説教の1つでもしたくなるくらいの気持ちだったが……」
殿下はそこで言葉を切って、手を伸ばしてそっと私の頬に触れる。
「フィーの顔を見たらダメだな。怒るどころか心配の気持ちの方が強い。側で守れなかった自分が歯痒いよ」
「フリード……」
殿下の想いに胸が締めつけられる。
「学院内に護衛をつけられないのが本当に辛い……」
「でも、外では守ってくださっているではありませんか」
学院内では、王族以外は護衛を付ける事が出来ない。
でも、学院の外に出た時はこっそり王宮の護衛を付けてくれている事を私は知っている。
もともとの公爵家の護衛もいるから、私はかなり守られていると言っていいだろう。
「それでも、だ。学院の中でフィーを守れないのは辛いんだよ」
「心配かけて、本当にごめんなさい……」
私は項垂れる。
「うん。俺の心臓を止めたくなかったら、今後はとにかく気を付けてくれ」
「……はい」
自分の事以上に私の事を気遣うこの人に、これ以上心配かけるわけにはいかない。
私は、しっかりと胸にそう刻み込んだ。
コンコン
「申し訳ございません、殿下、今よろしいですか?」
扉をノックする音がした。
「入れ」
私の頬に触れていた手を戻し、殿下は入室を許可する返事を出した。
そうだった。ここは殿下の執務室だった……!
つい甘い雰囲気になる所だったわ!!
「失礼します、スフィア様、お邪魔して申し訳ございません。……殿下こちらが押収した資料なのですが、やはり解読は……」
そう言いながら入室して来たのは、殿下の側近であるキース様。リリアの兄だ。
「やはり、難しい……か。これが解読出来れば更なる証拠になるかと思ったんだが……」
殿下は何やら悔しそうな顔をしている。
この話……私が聞いても良い話なのかしら?
「あ、あの殿下……お忙しい様ですし、私は今日はこれで……あっ」
そう言って私は立ち上がろうとするも、捻った足の痛みでよろけてしまう。
「!! 大丈夫か!?」
慌てて殿下が抱きとめてくれたので、幸い倒れずにはすんだ。
けれどその拍子に、キース様から渡されていた資料らしきものがバラバラと床に散らばってしまった。
「す、すみません……!!」
「いや、気にするな。こっちは大丈夫だから」
そう言って殿下が拾い集めている資料の中身が、ちょうどチラリと見えてしまい、私は思わず息をのんだ。
「……っ! そ、それ!」
私の声に気付いた殿下が、「ん?」という顔をした後、「これか?」と言ってその資料を見せてくれた。
私の顔色が変わった事に気付いたのだろう。
「フィー?」
「スフィア様?」
殿下とキース様が、怪訝そうな顔で私を見る。
「……っ」
今、キース様が持ってきて、殿下に手渡した資料。
それはどこからどう見ても私が以前拾った、日本語で書かれセレン嬢が持っていた、あの時の計画書だった。
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