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第3章
5. 新たに発覚した事実
しおりを挟む殿下の手元を見ると、あの時私が見た計画書以外にも何枚かあるようだ。
「あ、あの……それ」
動揺してしまい、うまく言葉を発せないでいる私に殿下が説明してくれた。
「これは、セレン元男爵令嬢から押収したものだ。ニコラスと図った俺の暗殺計画に関する事柄が書かれていると思われるんだが、生憎、誰も解読が出来なくてな。解読出来ればさらなる証拠の資料になると思ったんだが……いったいどこの言語なのかさっぱり分からないんだ」
殿下はそう説明しながらため息を一つ吐いた。
「……」
解読出来なくて当然だ。この世界の言語ではないのだから。
「“……6月15日の放課後にシリル伯爵へ密書を渡す。場所は学院の中庭で”……あぁ、これは私が証拠を預かる事になった日のやつですね……って!」
思わず口に出して読んでしまった。慌てて口を塞いだけど遅かった。
「……フィー? もしかして読めるのか?」
殿下が驚いた顔をしながら聞いてくる。
「ハッ……そう言えば! スフィア様が持ってたあの箱に入ってたノート……あれに書かれてた文字は、この文字と同じではありませんか?」
キース様が突然思い出した! といった様子で尋ねて来た。
「……! 確かにそうだな」
その言葉で殿下も思い出したらしい。
あぁ……やっぱりみんな中身を見ていたのね。
分かってはいたけれど恥ずかしい……いや、みんな読めてないから良かったと思うべき?
「これは……遠い、とても遠い異国の言語なのです」
私は仕方なく口を開く。
困ったな。あの時のセレン嬢みたいな事しか言えないわ。
「そうなのか? フィーは何でそれを…………いや、今はその事は置いておこう。他も読めるか?」
そう言って殿下は他の紙も見せてくれた。
「…………シリル伯爵、エンペシル子爵、ルザール男爵と密書を交わす話が書いてありますね?」
「あぁ。三家とも、ニコラスに手を貸そうとして爵位剥奪の処分が決定した家だな」
殿下が頷きながら呟いた。
さらに続きの内容に目を通していたら、思わぬ名前を見つけてしまい私は驚愕した。
「……えっ!?」
「どうした?」
「いえ……シーギス侯爵の名前があります。その……協力者……資金援助者として名乗りをあげてくれた、と」
「何だと!?」
私の言葉に殿下とキース様は目を丸くしている。
驚くのも無理はない。
ニコラス殿下に協力していたのが明らかになったのは、先程の三家でシーギス侯爵の名前は今まで1度たりとも出てきていなかった。
「……シーギス侯爵とも密書のやり取りは行っていたみたいですね。やり取りした日程が残されています。ただ、侯爵はあくまでも自分は裏方なので表に名前は出さぬよう言っていたようですね」
「失敗した時のためか? 巧妙だな……しかし、資金援助か」
殿下は悔しそうな顔をして呟く。
侯爵が暗殺計画の協力者だった事も問題だけど、資金援助とは穏やかではない。
何故ならシーギス侯爵は財務を担当しているのだから。
──あれ? だけどどうしてかしら。
侯爵は娘のミレーナ嬢を王太子妃にしようと画策しているのでは無かったの? 何故、フリード殿下の暗殺計画に手を貸してるの……?
計画を実行されてたらミレーナ嬢は王太子妃にはなれないのに。
それとも、“フリード殿下の妃”ではなく、“王太子妃”にしたかっただけ?
けれど、ミレーナ嬢はフリード殿下を慕っている様子を見せている……
シーギス侯爵親子の考えが分からなくてモヤモヤした気持ちだけが残ってしまった。
そんな私の感じた疑問をフリード殿下とキース様は特に抱かなかったのか、まだ資料を見ながら話し込んでいる。
ただ、シーギス侯爵親子の動向も、もちろん気になるけれど、今、私としてはこっちの方が問題だった。
「…………あの!」
「ん? どうした、フィー。他にも何か書いてあるか?」
「いえ、そうではなくて」
「じゃあ、何だ?」
殿下は不思議そうに首を傾げた。
「そんなあっさりと私の言う事を信じるのですか? 誰も読めないのをいい事に、私が嘘をついている可能性だってありますよ?」
「何言ってんだ? フィーは、嘘なんかつかないだろ? いや、つけない……かな」
「!? 何故です……?」
殿下はニヤリと笑って言う。
「顔に全部出てる」
「そ、そんな……!」
ショックだった。そんなに私は感情が分かりやすいの?
フリード殿下の妃となる身としては、感情のコントロールが出来ないと色々、致命的なんじゃ……
私がショックを受けたのが分かったのか殿下は慌てて補足をした。
「あー……そうじゃない! フィーはちゃんと普段からコントロール出来てる」
「で、では何故……?」
「他の奴には絶対に分からないだろうが、どんなに隠しても俺には分かるんだよ。俺は誰よりもフィーの事を想っていて、いつも考えてるからな」
「……!」
その言葉に驚いた。
本当にこの人は…………私の事ばっかりだ。
「で、ですが、公な証拠には出来ませんよね? 読める人が他にいませんから」
「それはそうだけどな。だが、裏付けのために調べることは出来る。今までは侯爵が関わってるとは誰も思っていなかったから全く調べていなかったわけだし。……キース!」
「はっ!」
殿下の言いたい事を察して、キース様は部屋から出ていった。
侯爵の事を調べる手配をするのだろう。
そして再び、執務室で二人きりになった。
「………………」
「………………」
沈黙が重い。
これ以上、“日本語”について追求されたらどうしよう……
そう思って俯いていたら、優しく頭を撫でられた。
「……そんな顔するなよ」
「えっ……?」
私は驚いて顔をあげると、優しい瞳で私を見ている殿下と目が合った。
「もちろん気にはなってるけど、無理に追求はしない」
「フリード……」
まさか、そんな事を言われるとは思ってもみなかった。
「フィーとあの女には、二人にしか分からない何かがある事は前から感じてたしな」
「あ……」
あの地下牢に会いに行った時の事を言っているのだろう。
「言いたくなったら言えばいい。俺はフィーの事を信じてる」
「……隠し事をしているのに、ですか?」
私に触れる殿下の手は優しい。だからこそ泣きそうになってしまう。
「その隠し事? とやらは誰かを不幸にするものか? そのせいで俺と一緒に未来を歩めなくなったりするのか?」
「……」
私は、静かに首を振る。
かつては、自分自身を不幸にしようとしていたけど、もうそんな事は考えていない。
フリード殿下との未来を邪魔するものでも無くなった。
「なら、大丈夫だ。まぁ、俺と一緒にいられなくなる、とか言い出したら全力で聞き出す所だが」
殿下はそう笑いながら言った。ちょっと黒い笑みで。
あ、そうね。殿下なら本気で聞き出して来そうだわ……
そう思っていたら、頭に触れていた殿下の手がそっと頬に降りてきた。
部屋の中が甘い空気に変わったのがわかる。
「……俺が惚れたのはそんな隠し事? を持ってるフィーだからなぁ」
「はい?」
殿下は笑いながら言う。これは純粋に笑ってる。
「いや? あの日の反応もそれ故だったのかと思っただけだ」
「!」
あの日、深窓の令嬢とは思えない態度でミミズを突っ返した事を指しているのだと分かった。
確かに、あれは前世の記憶があったが故の対応だったけれど。
「……あの日から長かったなぁ……フィーはあれから王宮に来ないで引きこもってしまったし」
殿下が懐かしそうに、でもどこか遠い目をする。
「うっ!」
「嫌がらせをした俺、個人となのか、王家そのものとなのかは分からなかったが、関わりを持ちたく無いんだろうな、と嫌でも伝わってきた。それでも、俺はフィーの事を諦められなかった」
「……」
私を選ぶ為に、隣国に留学してまで自身の縁談を無くそうとした人だ。
私への想いの深さは並ではない。
ふにっ
私の頬に触れていた殿下の手の親指が私の唇に触れてくる。
心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしている。
殿下に触れられるといつもこうなってしまうのでこれは、心臓がいくつあっても足りない気がする。
「焦がれて、焦がれてやっと捕まえた。俺はもう何があってもフィーを離してやれない」
「……」
「好きだよ、フィー」
「私も、フリードの事が好きです…………あ!」
そう応えたと同時にそっと私の唇に優しい温もりが降ってきた。
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