36 / 43
第3章
7. 卒業、そして婚約発表の日
しおりを挟む華やかなパーティー会場で、そこに赤いドレスを着た1人の女性が地べたに座り込んでいる。その彼女の目の前には男性と女性が連れ添って立っていた。
『スフィア・ランバルド公爵令嬢! 今、この時を持って君との婚約は破棄させてもらう!』
『な、何故ですの!? ニコラス様!』
『理由? 理由は、君が1番分かっていると思うが? 君がこちらの令嬢にした事を私が知らないとでも思っていたのかい?』
『そ、そんな……!! 私は、私はただあなたに…………』
────────
─────
「……はっ!! ゆ、夢……よ、ね?」
私は、ベッドから飛び起きて当たりをキョロキョロと見回す。
いつもの自分の部屋だった。
今、見た夢があまりにもリアルすぎて、一瞬どちらが現実か分からなくなってしまった。
「……小説のストーリー通りの展開で何もかも進んでいたら、私は卒業パーティーで今の夢みたいになるはずだった……のよね?」
何で今日に限ってこんな夢を見たのか。
……今日が、その卒業パーティー当日だからだろうか。
私は静かに首を振る。
ニコラス殿下もセレン嬢も、もう私の目の前にはいない。
それに断罪ならもう受けたし、ニコラス殿下との婚約も既に解消されている。
そして二人は犯した罪を世間に公表されたと同時に厳しい監視付きでそれぞれ処罰を受ける場所に送られていた。
だから、夢で見た事は絶対に起きない。
「私は悪役令嬢スフィアとはもう違うのよ!」
──フリード殿下と一緒に幸せになるんだから。
私はベッドから起き上がり気合いを入れた。
◇◇◇
「やっぱりお似合いです!! お嬢様はフリード殿下の色がピッタリですね!」
サラが嬉しそうに言う。
フリード殿下に贈られたドレスだけでなく、一緒に贈られたアクセサリーや小物、靴に至るまで全て殿下の色で染められていた。
「……これだと誰がどう見ても、フリード殿下の色って感じじゃないかしら?」
ちょっとあからさま過ぎないかしら、と思って聞いてみたけれど、サラは笑顔で首を振る。
「それでいいんですよ! 今日は皆様の卒業を祝うパーティーでもありますが、お嬢様と殿下の婚約発表の場でもあるのですから!」
「そ、そう?」
「そうですよ! やっと公表ですね! おめでとうございます、お嬢様!」
「ありがとう、サラ」
ニコラス殿下との婚約が発表になった時とは全然違う気分だった。
自分が心から愛してる人との婚約は、こんなにも嬉しいものだったのね……と思わず笑みが溢れる。
「お嬢様! フリード殿下がいらっしゃいました!」
嬉しくて頬を緩めてニマニマしていたら、別の侍女が呼びに来た。どうやら、殿下が到着したらしい。
今日は、会場で落ち合うのではなく屋敷からエスコートをしてくれるのだ。
「今、行くわ!」
「フィー」
「スフィア」
応接間に着くと、ちょうど殿下とお父様が話をしている所だった。
「あぁ、フィー、良かった。似合ってるよ」
殿下が私の姿を見て蕩けるような笑顔で言う。
「あ、ありがとうございます」
「うん! 全身、俺の色で染まってるフィーを見るのは堪らなく嬉しい」
「そ、そういうもの……?」
「そういうものだよ。……さて、行きましょうか? 俺のお姫様」
殿下が私に手を差し出した。
「えぇ、私の王子様」
私はクスリと笑って殿下の手に自分の手を重ねた。
「それでは、お父様行ってまいります!」
「あぁ、気を付けて。私達も後から行くからね。殿下、スフィアをよろしくお願いします」
「あぁ」
そうして私達は馬車に乗り込みパーティー会場へと向かう。
また、馬車の中で隙あらば迫ってくる殿下を御するのが大変だった。
もう! こんな時まで!! 殿下は相変わらずだった。
◇◇◇
パーティー会場に着いて、殿下のエスコートを受けながら会場入りすると、視線が一気に自分達に集まったのを感じた。
『フリード殿下が卒業パーティーのエスコート!?』
『何で殿下が……』
『そう言えば、以前も殿下はスフィア嬢のエスコートしてなかったか?』
凄い騒がれようだ。
……殿下にエスコートされた社交界デビューの時もこんな感じだったなと思い出す。
すでに懐かしい。
「3年前を思い出すな」
殿下が小声で呟いた。
「ふふ。私もそれを思い出していました」
殿下も同じように思ってたんだなぁ、と思うと嬉しくなった。
「スフィア!」
後ろから声をかけられて振り向くと、リリアとロベルトが近寄って来る所だった。
「リリア! ロベルト!」
「スフィア、綺麗だわ~! 素敵!」
「リリアもよ!」
卒業が近付いてからは、学院への登校も自由になっていた為、リリアとロベルトとは、会う機会が減っていた。
2人はもうすぐ結婚式をあげるので、その準備に追われて忙しそうだったのだ。
「フリード殿下もお久しぶりでございます」
リリアがフリード殿下に挨拶をする。
「いや、顔をあげてリリア嬢。もうすぐ式を挙げると聞いたけど?」
「はい。その節は大変お世話になりました。ありがとうございました」
「礼には及ばない。君達には幸せになって貰いたいからね」
「ありがとうございます! 私達は今、幸せです! これからもっと幸せになります!」
リリアが満面の笑みでそう答えた。
本当に心からの幸せそうな笑顔だった。
「そうか。なら、良かった」
フリード殿下が、リリアとロベルトの事を気にするのは、やはりニコラス殿下が横槍入れて引っ掻き回したせいなのだろう。
色々あったけれどニコラス殿下は弟なのだもの。どこか複雑な気持ちがあるに違いない。
「結婚式、楽しみにしてるわ!」
「えぇ、楽しみにしていてね!」
きっと、リリアのウェディングドレス姿は可愛いわ!
とても楽しみだった。
リリア達と別れ会場内を歩き出したら、
「……俺も早くフィーと結婚したいなぁ……」
隣で殿下がそう呟いていた。前にも聞いたわね、それ。
「まずは、今日の婚約発表からですよ?」
「そうだな。けどこれでやっとフィーが俺のものだって公言出来る!」
「そうですね」
殿下がとても嬉しそうに言うから、私も嬉しくて自然と顔が緩んでしまう。
「あ、あのスフィア、様……少しよろしいでしょうか?」
再び嬉しさにニマニマしていたら、突然、後ろから控えめに声をかけられたので、振り返るとクラスメートの1人であったハリーア男爵令嬢、シリカ様が立っていた。
「シリカ様?」
「お邪魔してすみません、その……スフィア様にどうしても至急確認したい事があるから呼んで来て欲しいと先生に頼まれてしまいまして」
おずおずとシリカ嬢が言う。
「確認したい事? 何かしら?」
「卒業生代表のおことばに関する事らしいのですが……」
そう言いながら、シリカ嬢はチラリと殿下を横目で見る。
私を連れ出しても構わないのか気にしているのかもしれない。
「フリード殿下。私、少し席を外してもよろしいでしょうか? 先生の所に行って確認してきます」
「ん? あぁ……構わないが……さすがに一人では」
殿下が言葉を濁したのは、私を一人で行動させる事への躊躇いからだろう。
私は、チラリとシリカ嬢を見ると、
「あ、私が先生の所までスフィア様に付いて行きます!」
「そうか? なら頼む」
こうして私はシリカ嬢と共に先生の元へと向かう事になった。
会場の広間を出て、廊下を歩きだすシリカ嬢の足はどこか慌てているような、とても急いでいるような足取りだった。
いくらパーティー開始までそんなに時間が無いとは言え、ちょっと急ぎ過ぎではないかしら?
「ねぇ、シリカ様? ちょっと早いわ。そんなに急いで行かなくてはならないの?」
「…………」
シリカ嬢は無言のまま歩き続ける。
「シリカ様?」
私が2度目に声をかけた所で、シリカ嬢は突然ピタッと立ち止まった。
「スフィア様……」
そう言って振り返った彼女の顔は真っ青……顔面蒼白といった様子だった。
「ちょっと、どうしたの? 大丈夫なの?」
さすがにその顔色は尋常ではない。
「スフィア様……ごめんなさいっっっ!」
「えっ?」
突然の謝罪に訳が分からず戸惑っていたせいで、私は背後から近付いてくる人物に気付く事が出来なかった。
「……っ!!」
その人物は、後ろから近付いてきて、私の鼻に布のような物をあててきた。
何かの薬品のような匂いがして、本能的にこれはマズイ奴だと感じたけれど、少し吸い込んでしまった。
クラっと自分の意識が遠くなっていくのを感じ、倒れる寸前に見えたのは、ひたすら怯えた顔で「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくるシリカ嬢の姿だった。
96
あなたにおすすめの小説
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。
buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ?
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜
紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。
第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。
夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。
第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。
最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた
たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。
女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。
そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。
夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。
だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……?
※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません……
※他サイト様にも掲載始めました!
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる