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第3章
side フリード⑧
しおりを挟む「…………遅いな」
もうすぐパーティーの開始時刻だが、フィーが戻ってこない。
さすがにおかしい。
「ロベルト、リリア嬢、スフィアを見なかったか?」
ロベルトとリリア嬢を見かけたのでフィーを見かけていないか聞いてみた。
「スフィアを? いえ、見ていません」
「……居ないのですか?」
二人とも心配そうな顔になる。
「卒業生代表に関する話で先生に呼ばれているとクラスメートのシリカ嬢とかいう女性に声をかけられて一旦外に出ていったんだが……」
「先生に?」
この言葉で二人の顔色が変わった。
「どうかしたのか?」
「いえ、あの殿下……」
「フリード殿下。卒業式関連の事を担当していた先生ならさっきからずっと会場にいるんですよ。その話、おかしくないですか?」
「なっ……」
ロベルトが困惑の表情を浮かべながらそう言った。
──やられた!
あの呼び出しは嘘だったのか……
完全に油断してた俺のせいだ……!
「フィーの身が危ない……」
「スフィアが? 殿下、どういう事ですか!?」
リリア嬢の顔は真っ青だった。
フラフラと今にも倒れそうな所をロベルトに支えられている。
「つまり、あのクラスメートもグルだったのか」
「……クラスメートとは、さっきも言ってたハリーア男爵令嬢……シリカ嬢の事ですか?」
「あぁ」
俺は頷く。
冷静になろうとしても、ダメだった。
今、この瞬間にもフィーの身に何か起きてるんじゃないかと思うだけで気が狂いそうだ。
……本当に俺はフィーの事になると冷静でいられなくなるな。
こんな事じゃいけないと分かっているのに。
十中八九、犯人はシーギス侯爵令嬢だろう。
現に会場内を見渡してみても彼女の姿は見当たらない。
「シーギス侯爵令嬢……フィーに何かしたら絶対に許さない……」
そんな俺の呟きを拾ったロベルトが怪訝そうに訊ねてくる。
「さっき、スフィアに声をかけたのはシリカ嬢だと言ってましたよね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「……彼女はシーギス侯爵令嬢の一派です。どうも借金があって彼女はシーギス侯爵令嬢には逆らえないらしく……」
ロベルトがそう説明してくれる。そういう繋がりか! あの様子だと脅されたか。
「……くそっ! そうなると、やはりスフィアはどこかに連れ出された可能性が高い!」
「!!」
ロベルトとリリア嬢が息を呑んだのが分かった。
「……離れるべきではなかった」
学院の催しという事で、今日スフィアに護衛はつけられなかった。
今更遅いが、絶対こんな制度変えてやる……!
「フィー……」
おそらく、会場のどこかにはいる筈だ。
この短時間で外に連れ出すのはいくら何でも人目についてしまうので難しい……
だからといって闇雲に探しても時間が取られるだけだ。
だが、今は他に方法は無い。俺の護衛に秘密裏に話を通し捜索させる事にした。
それでも自分もじっとしていられなくて、広間の外に駆け出そうとした時、
無情にも、パーティーの開始を告げる音楽が流れ始めた。
会場に流れる音楽を聞いて、仕方なく動きを止める。
「……畜生っ!!」
これではフィーを探しに行けない……
俺まで会場から居なくなる訳にはいかない。
今日ほど自分の身がこんなに不自由だと感じた事は無い。
どうか無事でいてくれ、と祈るしか出来ない立場が酷く恨めしかった。
こうなったら、フィーが不在のままで婚約発表をするしかない。
婚約する事に関しては何ら変更は無いが……未だに根強く残っている反対派に付け込まれそうではある……
ヤツらは、些細な事でも難癖をつけてフィーを引きずり落とそうとするに違いない。
だが、そんな事は絶対にさせない。
今日のパーティーでは、父上がまず卒業を祝う挨拶を行う。
その挨拶の最後に、俺とフィーの婚約を発表する段取りになっていた。
そして俺とフィーのファーストダンスで、卒業パーティーの幕開けとなる手筈になっていたのだが……
当然、このままではファーストダンスは出来ない。
そんな、俺の葛藤も知らず、父上が入場し、卒業を祝う挨拶が始まってしまった。
もう時間が無い……!
「それでは、最後になるが今日は皆の前で1つ発表がある! フリード!」
名前を呼ばれた為、前に進み出る。おそらく俺の顔は強ばっているだろう。
そんな俺の様子を見て、父上もさすがに何かを感じ取ったらしい。
だが、進行をここで止めるわけにはいかない。
父上もちょっと戸惑った様子で口を開いた。
「この度、王太子であるフリードの婚約が決まった。ぜひ、皆にも祝って欲しい! 今日のパーティーはその2人のファーストダンスをもって開催としようと思う! さぁ、フリード。相手の所に行きなさい」
「………………」
その肝心の相手が今、この場にいない。
動けずにいる俺を見て、父上もようやくフィーの姿が見えない事に気付いたようだ。
さすがに、周りも俺の様子がおかしい事に気付く。
会場内に動揺が広がっていく。
「おやおや? 殿下どうされましたかな? パートナーとなる婚約者様はどうされたのですか?」
シーギス侯爵だ。
フィーを連れ去ったのはシーギス侯爵令嬢に間違いない。令嬢の独断か侯爵の命令かは分からないが、フィーが今、この場に現れる事が出来ない事を分かった上で声をかけてきたのだろう。
「まさかとは思いますが、殿下の婚約者様は王太子妃になるという重圧に耐えられず、逃げ出されたのではありませんか? そんな弱気な令嬢が王太子妃に相応しいとはとても言えませんね……どうです? 殿下。その点、我が娘は心構えも何もかもー……」
ここまで来て、自分の娘を売り込むのか。
そんな侯爵の横でミレーナ嬢は妖艶な笑みを携え1歩前に進み出てくる。
──冗談じゃない! 俺の妃になるのはフィーだけだ!
今すぐフィーの居場所を、そして何をしたのか吐かせてやりたい。
だが今、俺がここですべき事は……
「その必要は無い! シーギス侯爵。俺の妃になる令嬢は1人だけ……スフィア・ランバルド公爵令嬢だけだ!!」
これ以上、好き勝手な事を言われては堪らない。
俺は、声高らかにそう宣言をした。
フィーがこの場に居ても居なくても、それだけは絶対に揺らがない!
そう示す為に。
そして、フィーは絶対に無事だ。
何よりもまず俺がそう信じなくては。
だから今はこの茶番をさっさと終わらせてフィーの捜索に向かうんだ。
そう決意した時、
会場の入口がにわかに騒がしくなった。
「……?」
何事だ? まさか、フィーに何かあったのか?
一瞬、そんな嫌な予感が俺の頭を過ぎったが、目に飛び込んできたその光景に俺は驚き、言葉を失った。
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