【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea

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第3章

9. 只者ではない私

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  ──私は急いで走っていた。 


  間違いなく卒業パーティーはすでに始まってる。もしかしたら、殿下と踊るはずだったファーストダンスの時間になってしまってるかもしれない。

「……痛ッ」

  縛られていた時のせいか足がうまく動かずもつれる。
  そもそも、ヒールは走りずらいのよ!!

「……って、そんな事より急がなきゃ!」

   殿下は絶対に心配してる。
  そして、ミレーナ嬢が余計な事を言う前に何としても会場に戻らなくちゃ!


  ──彼女ミレーナの好きになんてさせない!!




 
「その必要は無い!  シーギス侯爵。俺の妃になる令嬢は1人だけ……スフィア・ランバルド公爵令嬢だけだ!!」




  ようやく、広間に辿り着いた!
  そう思ったと同時に、私の事をそんな風に言ってくれるフリード殿下の声が広間から漏れ聞こえてきた。

  (きっとシーギス侯爵はミレーナ嬢を私の代わりにとか何とか言って薦めたんだわ)

  何となく話の流れは想像出来た。
  だけど、殿下は私があの場にいなくても私を望んでるのだと、妃になるのは私だけなのだと皆の前でハッキリ口にしてくれた。

  ──なら、私もその思いに応えるまでよ!

  私はしっかりした足取りで扉に向かう。

「えっ!?  ランバルド公爵令嬢!?」

  扉の前に居た衛兵が「何でこんな所に?」と、ギョッとした顔を私に向けてくる。
  私はニッコリ微笑んで言った。

「ふふ。驚かせてごめんなさいね。扉を開けてくださいます?」
「は、はい!  もちろん!」

  その衛兵はちょっと顔を赤くしながら、慌てて会場入口の扉を開けてくれた。
  
  突然、入口の扉が開いたものだから、何事かと一斉に注目を浴びる事になった。
  しかもその先に、たった今名前があがったばかりのランバルド公爵令嬢わたしがいるもんだから、驚かれないわけがない。

  私は、再び微笑みを浮かべ、そして、さっき高らかに私の事を宣言してくれた殿下に負けないように声を張り上げて言った。

「……ありがとうございます、フリード殿下。そして皆様、お待たせして申し訳ございません。私がフリード殿下の婚約者となりました、ランバルド公爵の娘、スフィア・ランバルドでございます」

  そう言った後は深く一礼をし、会場の真ん中で呆然とした顔で立っているフリード殿下の元へと向かう。

  殿下は、ポカンとした顔をしていて、こんな時なのに“この人もこんな顔するのね”なんて思ってしまった。
  ……いや、拐われて行方不明になってた私のせいなんだけど。

  そんな殿下の近くで、「何故だ……」「どうして……嘘でしょ」と驚愕した表情を浮かべているシーギス侯爵とミレーナ嬢。
  まぁ、当然よね。縛って閉じ込めていたはずの私が会場に現れたのだから驚くでしょうね。
  そんな二人をとりあえず今は無視してまずは殿下の元へ。

「お待たせしました、フリード殿下」

  フリード殿下の元にたどり着いた私は、微笑んで礼をする。

「スフィア……」

  ようやく殿下もこの事態に理解が追いついたらしい。さっきまでどこか不安気だった顔付きがいつもの自信溢れる顔付きに戻った。

「あぁ、本当にな。君のイタズラ好きには驚かされたよ。こんな登場の仕方をするとは聞いてなかったぞ?  さぁ、俺と1曲お願い出来ますか?  我が婚約者殿?」

  どうやら、演出だったと誤魔化すつもりらしい。
  私は差し出された殿下の手に自分の手を重ねて言った。

「もちろん、喜んで。──ふふふ、ちょっと皆様を驚かせたかったのです!  大成功ですわね!」

  そして、二人で前に進み出て踊り出す。
  周囲から聞こえる声は、驚きと祝福の声で溢れ返っていた。


  けれど、ただただ、その時の私が思っていたのは、


  …………本当に間に合って良かったわ。



  それだけだったのだけど。







  ダンスを終えて、周りの祝福の声に笑顔で答えつつも、殿下は私の腕をさり気なく引っ張りながら真っ直ぐバルコニーへと向かう。
  ダンスの間、お互い笑顔を浮かべながら踊ったものの会話はしなかった。
  出来なかったという方が正しい。
  ……だって踊りながら話す事じゃない。

  バルコニーに出て、人気の少ない場所に連れ出されやっと一息つく。
  ここまでの殿下は、ずっと私に対して無言だ。
  やっぱり怒ってるわよね……すごく心配かけたはずだもの。

「あの……」

   謝ろうと思って口を開きかけたけど、喋りきる前に力強い腕に思いっきり抱き締められてしまい、それ以上の言葉が発せなかった。

「フィー…………無事で、良かった……」

  その声は、どこか震えていて。
  私が、会場に現れるまで殿下にどれだけ心配をかけ、不安にさせていたのか全身で語っていた。

「心配かけて、ごめんなさい……」

  私は殿下の背に手を回してそっと抱き締め返した。

「俺が悪いんだ。完全に油断してたから」
「それを言うなら私もです。あんな話を簡単に鵜呑みにしてしまいました」

  お互い警戒心が欠けていた。
  色々と自覚が足りていなかった。
  この件はどっちが悪いとかでは無い。完全にお互い様だ。

「心配した。フィーにもし、何かあったら……俺は…………」
「フリード……」
「捜しに……助けに行きたいのにそれを許されない自分が……悔しくて悔しくて仕方無かった……」

  顔は見えないけど、見えなくてもどんな顔をしてるのかは想像がつく。
  きっと本音は全てを投げ出してでも私を捜したかったでしょうに、彼は自分の立場とすべき事を考えてこの場に留まっていた。

「顔を……見せてくれ」
「はい……」

  抱き締めてた腕が緩んで、少し身体が離れて見つめ合う形になった。

「怪我は?」
「……縛られてた所に、少し?」

  そう言って縄で拘束されていた痕の残る手首を見せた。まだ薄ら残っている。
  それを見た殿下の顔色が変わったのが分かった。

「縛られていたのか!?」
「……シリカ様に連れられて広間を出た後、薬品のような物を嗅がされて意識を失いまして、会場内の一室に運ばれてました。気が付いた時には、手足に縄が……」
「犯人は……シーギス侯爵令嬢か?」
「はい。目を覚ました時、ちょうど彼女がやって来て、このままここで大人しくしていろ、と。拐った目的は、とにかく私を会場にいさせたくなかっただけのようです」
「…………痛いか?」

  殿下は私の手首に残っている痕に、そっと触れる。

「いいえ、大丈夫です」
「……だけど、縛られてたんだろう?  どうやって抜け出してこれたんだ?  誰かに助けられたのか?」

  ──あ!
  そうよね、ちゃんと説明しないと、そこが気になってしまうわよね……
 




「えーと……それはですねー。自分で解きました!!」



「………………………………はぁ?」



  私の言葉に殿下は数秒沈黙した後、目を丸くして驚きの声をあげた。

  まぁ、そういう反応になりますよねー。分かっていましたとも!!
  私は心の中で苦笑する。

「幸いですね、後ろ手ではなく前に縛られてたんですよ。ですから、チョちょいと縄抜けをさせてもらいました。腕が解ければ足は解けますから」

  自信満々に答えた私の言葉に殿下は頭を抱えた。

「いやいやいや、ちょっと待て!  大抵の令嬢はチョちょいとそんな事は出来ないだろう??」
「んー……では、私は例外なんですよ、きっと!」

  私は満面の笑みで答えた。

「例外か。確かにな。……って、そうではなく!  そもそも何でフィーはそんな方法知ってるんだ!?  護身術でも学んでたのか?」
「そんな所です。さすがに実践したのは初めてですよ?  上手くいって良かったです」
「……当たり前だ!!  そう何度もあってたまるか!!」
「ですよねー」

  笑いながらそう答えたら、殿下は「はぁぁぁぁー」と深いため息をついた。

「……本当に本当に俺の惚れた女は只者じゃない……」

  その通りですね、殿下。
  まぁ、種明かしをすると縄抜けに関しては……前世の知識なので説明しようがないのよねぇ……
  何でそんな知識持ってたのかは……まぁ、いいわよね。単なる前世の私の趣味だもの。


  あれ?  そう言えば……
  そこで私はふと思い出す。この世界の小説のストーリーを。
  
  “悪役令嬢スフィア”の断罪の場であるこの卒業パーティーで、スフィアは罪を暴かれた後は、当然拘束される。
  しかし、1度スフィアは縄を自分で解いてニコラス殿下に追い縋る、という場面があった。

  そして、こう言うの。

『そ、そんな……!!  私は、私はただあなたに……』


『あなたに愛されたかっただけなのに!!』


   ──まさか、状況は違うとはいえ、自分がこの場で、悪役令嬢スフィアと同じ縄を解くという行動するなんて思ってもみなかった。
  それよりも、悪役令嬢スフィア……拘束された縄を解くって私より凄いのでは?
  さすが小説!  何でもありだわ。



「……そんな只者ではない私はお嫌ですか?」

  顔を上げて殿下をチラリと見る。
  殿下は目をパチクリさせた後、優しく微笑んだ。

「まさか!  むしろ惚れ直してる所だ……愛してるよ、フィー」
「……私もです。あなたを愛しています、フリード」

  良かった……
  私も、笑ってその想いに応えた。


  ニコラス殿下に愛されたかったと嘆いていたスフィアと私は違うんだ。

  私は、自分が愛してる人にちゃんと愛されてる──

  優しく抱き締めてくれるフリード殿下の温もりが、私にそう感じさせてくれていた。





  そして、殿下との話をすませて広間に戻った私達を待っていたのは、
  苦々しい顔……もはや憎悪という感情を隠すのをやめたらしいシーギス侯爵令嬢……ミレーナ嬢だった。

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