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第3章
12. 隠し事はしたくないから
しおりを挟むその後、学院での元クラスメート達にも謝罪され、シリカ様からも改めて謝罪を受けた。
本来、シリカ様のした事は罪に問うべきなのだけど、あの場で証言してくれたことを踏まえて今回は不問とする事になった。それでも彼女の家が今後大変な事は変わらない。
また、私がミレーナ嬢や、シーギス侯爵に責められている時、国王陛下と王妃殿下、私のお父様やお母様は全員その場にいたのだけど、黙って静観していた。
この国の未来の王と王妃として、これくらいの場は諌められなくては、という事で口出しをせずにいたという。
色々と試されていたらしい。
どうりで静かだったわけだ、と後で納得した。
そして、無事に婚約発表を終えた私達は、本来なら婚約期間を1年ほど置いてから結婚式となるはずだったのだけれども、「無理だ! そんなに待てるか!!」というフリード殿下の声で半年後に行われる事になった。
一国の王太子の結婚なのに無茶を言う……
そうして学院も卒業したのでこれからは結婚式の準備と、引き続き王太子妃教育に励む事になった。
◇◇◇
そして、気が付けば半年はあっという間に過ぎて、今日は私達の結婚式の前日。
結婚前の最後の逢瀬の時間を過ごそうと、いつものように休憩時間に殿下の執務室を訪ねる。
そんな私は、今日1つの決意をしていた。
……フリード殿下に、前世の記憶を持ってる事を話そう、という決意だ。
これから夫となる最愛の人に隠し事はしておきたくない。
セレン嬢と私……あと、ミレーナ嬢も……が解読できる言語──すなわち日本語──の事もフリード殿下はあれから一切聞いて来なかった。
捕まっていた時にノートも見られているので、本当はずっと気になっているのだと思う。
正直、話すのは怖い。
けれど、フリード殿下は……彼なら私の話をきっと信じてくれる。
そんな確信が私にはあった。
「長かった……半年でも長かった。1年にしなくて本当に良かった……!」
殿下はお茶を飲みながらしみじみと言う。
その様子だけで彼がどれだけ私との結婚を望んでくれているのかが分かり、嬉しくなる。
「あ、あの、フリード……明日の結婚式の前に聞いてもらいたい話が、ありまして……」
私の真剣な声と真面目な顔に、殿下の表情が少し強ばる。
「……ここに来て、『俺と結婚出来ない』なんて話でないのなら聞くよ」
「そんな事、言いません!」
「それなら良かった。もし、万が一にもそんな事言われたら、権力という権力を使ってフィーを逃がさない方法を考えなきゃいけなかったからな」
……顔は笑ってるけど、笑ってない気がするのは気のせいか。
この人、本気だ……絶対本気で言っている。
「コホンッ! ……話というのは、あの言語の事です!」
「言語…? あの、セレン元男爵令嬢とフィーだけが解読出来たあの言語の事か?」
「それです……! 私達があの言語を解読出来るのには、理由があったのです。それをちゃんと説明をさせてください」
「理由?」
殿下が怪訝そうな顔付きになった。
いきなり何だ? って思うわよねー……
「あの時、私はあれは、遠い遠い異国の言語と言いました。ですが……本当は違います。あれはこの世界の言語ではありません」
「は? この世界?」
フリード殿下の顔は意味が分からない、と言っていた。
そして、私は説明をした。
殿下達と初めて会ったあの日に、前世の記憶を思い出した事。
この世界が、セレン嬢を主人公とした小説の中の話であった事。
そして、本来なら辿るはずだった小説のストーリーの中での悪役令嬢スフィアの役割と、その後の顛末。
ついでにセレン嬢だけでなくミレーナ嬢も同じ記憶持ちである事も付け足した。
「…………つまり? 何だ? フィーは前世の記憶を持っていて、ここがそのそちらの世界で書かれたとかいう小説の世界だと認識して、そのストーリー通りに生きようとしていた……?」
「……ストーリー通りと言いますか……セレン嬢とニコラス殿下が幸せになる未来になれば、とは思っていました。ですが、その為にニコラス殿下と私が幼少の頃から婚約している必要はないかなと思いまして……」
「7年も王宮に来なかったのか?」
私は頷く。
「幼少の頃からの婚約者という立場は避けられましたが、結局、私はニコラス殿下の婚約者となってしまいました。だから、私の運命は変わらないのだ、と。悪役令嬢としての人生を生きるしかないのだ、と思いました」
「あの時…………頑なに国外追放を望んでいたのは、そういう事だったのか」
殿下が思い出したかのように言う。
あの牢屋でのやり取りの事を思い出してるのだろう。
「とは言え、本当に嫌がらせなど起こしたくなくて……セレン嬢が私に嫌がらせを受けていると、でっちあげの噂を流してくれた時は、私が何もしなくてもこれでストーリー通り進むのだと思って安心したのですが」
私は目を臥せる。
「……ニコラスとセレン嬢が、俺の暗殺計画を企んでしまったのか」
「そこからはもう……ストーリーどころではありませんでした」
私は首を横に振る。
「……それで? セレン元男爵令嬢とシーギス侯爵令嬢もフィーと同じ世界の記憶持ちだったって事か?」
「セレンさんには、ちゃんと問い質した事はありませんが。“日本語”を使っていた事、“私はヒロインなのに”と口走っていた事から間違いはないかと」
「…………確かに地下牢での面会の時にそんな事を言っていたな」
「彼女は最後まで、自分がこの世界のヒロインで、何でも思い通りになる、と思っていたようです。なのにストーリー通りに動かなかった私のせいでおかしくなった! ……とあの時責められましたね」
私達は遠い目をする。あの日のセレン嬢が頭の中に浮かんだ。
「一方のミレーナ様は私の前でハッキリと断言しましたから……間違いは無いでしょう」
「……フィーは今でもここが小説の世界だと思っているのか?」
この質問こそ殿下が最も知りたい事なのだろう。
今までの質問の中で声が1番真剣だ。
「全く思っていません。確かに最初は私もセレン嬢のように、彼女がヒロインでシナリオ通りに進む世界だと思っていました。そうなるべきだ、とも。でも、違うと気付きました。ここは今、私達が生きている現実なのだと。私も皆もちゃんと自分の意志を持って生きている世界だと」
「何かきっかけがあったのか?」
殿下が真剣な顔で問いかけてくる。
だから、私も真剣な気持ちで答える。
「それは…………フリード。あなたの事を好きになったからです」
「えっ?」
殿下が目を丸くして驚いている。
「小説のストーリー通りなら私はニコラス殿下に恋をするんです。でも、私はニコラス殿下に恋をする事はなかった。私は私の意思であなたに……フリードに恋をしました。フリードに恋をした事でここが作られた世界ではなく現実なのだと気付けました」
「フィー……」
殿下が私の手をとり優しく握ったと思ったら、そのままギュッと抱き締められた。
私の大好きな腕の中……
1番安心出来る場所。これからずっと私のいる場所。
「……あ、の、信じてくれるのですか? こんな話……」
「嘘なのか?」
「違います! だけど、こんな話を突然、聞かされても、その……」
「まぁ、普通なら信じられないよな」
殿下が私の頭の上でため息をついたのが分かった。
「何と言うか、色々と疑問だった事が全部腑に落ちたって言うのか……あぁ、なるほどなって素直に思えたんだよ。……それに」
「……それに?」
「フィーの言う事を俺が信じないわけないだろう?」
「…………!」
「話してくれてありがとう、フィー」
さらにキツく抱き締められた。
私も殿下の背中に手を回して抱き締め返す。
「私も……聞いてくれてありがとう……フリード」
「あぁ……」
顔を上げてお互いしばし見つめ合うと、どちらからともなく自然と唇が重なる。
「好きだよ、フィー」
「……私も、フリードが好きです」
再び、唇が重なる。
それは、恋人同士として行う最後のどこまでもどこまでも甘いキスだった。
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