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第2章
1. 始まった学院生活ともう一人の王子
しおりを挟む──待っていて欲しい。
フリード殿下の残したこの言葉を私はどう受け止めればいいのだろう?
単純に留学から帰ってくる時に自分を出迎えて欲しい?
違う。──そんな意味じゃないと思う。
それなら、わざわざ手紙に書くことじゃない。
ちゃんともっと別の意味があるようなー……
そんな事を考えてしまうのは、フリード殿下の存在が自分の中で大きくなっているからなんだと思った。
「もう! ……いつも私を振り回すだけ振り回して……!」
今は私の近くにいない殿下が少しだけ憎く感じた。
◇◇◇
学院に入学して、ひと月ほどたった。
留学後もフリード殿下からは頻繁ではないけど手紙が届く。さすがにもうお花は無いけれど、マメに近況を綴ってくれていた。
……色々大変そうだけど、元気そうだった。
今のところ、王女さまとの話も聞こえてこない。
私はその事に密かに安堵していた。
そんな私の腕には、あの、一緒に街へ出かけた際にいただいたブレスレット常にが光っている。
これを着けていると、フリード殿下が側にいてくれているような心地よい気持ちになるから。
そんな今、私の毎日は充実していた。
社交界デビューの日まで、引きこもり生活をしていた私には、友人と呼べる人が全くいなかったけれど、学院で初めての友達……親友が出来た!
リリア・ミラバース伯爵令嬢。
同じクラスで席が近かった事から声をかけたのが始まり。
性格は、ちょっとお転婆な所があるけど、笑顔の可愛い令嬢だ。
そんな彼女の幼馴染で婚約者だというロベルト・ペレントン侯爵子息とも自然と仲良くなった。
そして、これまでビックリするくらい私との関わりが無かったニコラス殿下。
彼も何の因果か私と同じクラスになっていた。
──そんな彼はどうやら、私の事が嫌いらしい。
「おい、スフィア」
「……何でしょうか」
学院に入学し、クラスも同じになってしまったからか、ニコラス殿下は私に話しかけてくるようになった。
……何故か毎回、とっても嫌そうな顔をして。
今日もそんな感じの顔とオーラで話しかけられた。
嫌なら話しかけなければいいのに。なんなのだ。
そんなに私の事が嫌いなら放っておいてよ!
心の底からそう思うけど、そんな事はもちろん言えない。
「昨日、兄上から手紙が届いた」
「……そうですか」
だから何だ? 私はそう言いたいのを必死で堪えた。
「兄上は元気そうだったが、何故かいつも必ず文面のどこかにお前の事を気にかける様子が入るんだ。何故だ!!」
「……」
知らんがな。
……思わず前世の言葉が飛び出してしまいそうになり、必死で堪えた。
「フリード殿下とは留学前に少し交流をさせていただいておりましたから。その流れで私の事を気にかけてくださっているだけでしょう」
「ならば! ……お前は兄上のなんなんだ!?」
「……」
なんでしょうね? その答えを私は持ち合わせていない。
このひと月で分かったのだけれど、どうもニコラス殿下は相当のブラコンらしい。
二言目には「兄上が、兄上が」と、言い続けている。
ちなみに小説の中ではそんな設定は無かった。
兄弟仲は良かったはずだけど、こんな様子では無かった。
「お前と初めて会った時!」
「?」
今度は何だ?
「お前はあの、い、忌々しいミミズを笑顔で突っ返したな!」
これはまた、随分と古い話を持ち出してきたな、と思った。
「あれで私と兄上の気を引くつもりだったんだろう!?」
「はい?」
「実際、お前のあの行動は私達に強烈な印象を残した! 今でもハッキリと覚えている! あの忌々しいミミズとあの時のお前の笑顔……」
「笑顔?」
「……っ! な、何でもない!!」
そこまで言って、ニコラス殿下は逃げるように去って行った。
基本、彼の行動はこんな感じで要領を得ない。
いったい何がしたいのか私にはさっぱり分からなかった。
◇◇◇
「ん? スフィアか?」
「……殿下!?」
放課後、本日の授業でたくさん出された課題を片付けてしまおうと、図書室に向かったら何故かニコラス殿下と遭遇した。
何でここに……という言葉が口から出そうになってしまう程度には驚いた。
「何だその目は!」
「いえ……」
学院に入学し、テストなどを経験して分かったけれど、ニコラス殿下は正直に言って優秀とは言い難い。
本人もそこは自覚があるらしく。
だからこそ優秀だと言われるフリード殿下を慕っているのかもしれない。
そんなニコラス殿下が図書館にいるなんて驚く以外無いわよ。
失礼かもしれないけれど、最も似合わない場所だと思うわ。
「……課題をやりに来た」
「そうでしたか」
「だが、さっぱり分からん!」
何でそこで言い切っちゃうのかな……そんな冷めた目でニコラス殿下を見ていたら、彼はとんでもない事を言い出した。
「そうだ! スフィア、 今日出た課題を私に教えろ!」
「……」
一緒にやるぞ! ではなく教えろ、と来た。
私は思わずにはいられない。
ニコラス殿下ってこんな性格だったっけ?
「ーーが、……で、こうなります」
「分からん!」
「そう仰らずに……」
行き詰まると投げ出す癖がついているニコラス殿下に教えるのは大変の一言に尽きる。私もすごく疲れて来た。
「……少し、休憩にしましょうか?」
「あぁ」
「では、私はあちらの区画で本を読んでおりますので」
「分かった」
そう言ってニコラス殿下から離れた私は本を手に取り、近くの椅子に腰掛ける。
「……はぁ、疲れるわ」
教える事だけではなく、ニコラス殿下といると色んな意味で疲れてしまう。
しかも、出来る事ならお近付きにはなりたくないのに、どうしてこんな事に。
「……」
そんな考え事をしていたら、疲れのせいかだんだん眠くなって来てしまい私はウトウトしていて気付くと夢の世界へと落ちていった。
パサッ
そんな物音で、目が覚めた。
「……ん?」
「…………起きたか」
どうやら私はあのまま眠ってしまっていたらしい。
「…………殿下」
「なかなか戻って来ないから何事かと思って様子を見に来てみれば!」
「うぅ、申し訳ございません……」
ふと自分の身体を見たら、制服の上着がかけてあった。
「これはもしかして、ニコラス殿下が?」
「……か、風邪を引いたら大変だからな! そ、それだけだっ!」
「殿下……」
「そもそも、こんな所で無防備に眠ってるんじゃない!!」
ニコラス殿下は、照れているのか顔を赤くしてそう言った。
変な言動が多いので、そっちばかり気を取られて忘れがちだったけれど、本来のこの人はこの世界の物語のヒーローなのだと今更ながら思い出した。
(まぁ、だいぶ性格が違う気がするけどね)
ニコラス殿下とは、学院に入学してからこうして顔を合わせて話すようになったけれど、どうも私の知ってるヒーローの印象と違う。
小説の中の彼は、もっと真面目だった。
“婚約者がいながらも他の女性に惹かれてしまう心の葛藤”
そんな場面は単なる浮気王子ではなく逆に応援したくなるくらいドキドキして読んでたんだけどなぁ。
まぁ、それは他の女性を選びたくなるよね、って言いたくなるくらいには悪役令嬢スフィアの性格がとんでもなく悪かったからで……
私が前世を思い出して、性格が変わったり過去と違う行動をしたりしたから、ニコラス殿下も、変わってしまったのかな?
「……ニコラス殿下」
「何だ?」
「ありがとうございます」
私は素直に微笑んでお礼を言った。
すると、何故かその瞬間、ニコラス殿下の顔が更に赤みを増した。
「っっっ!」
「……殿下?」
様子がおかしいので尋ね直すも、
「な、な、何でもない!! 今日はもういい! 帰る!!」
「あ……」
そう言って私の手から上着を奪い取ってそのまま図書室から出て行ってしまった。
「…………ス、スフィアが……私に……微笑っっ…………!」
出ていく寸前までニコラス殿下は何やらゴニョニョ言っていたけど、うまく聞き取れなかった。
たまにゴニョニョ言って何を言ってるのか分からなくなるところは、兄弟似ているのかもしれない。
そんな事を考えたせいで、私の頭の中にフリード殿下の顔が浮かんだ。
「…………会いたい」
私は自分でも無意識のうちにそう口にしていた。
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