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第2章
side フリード⑥
しおりを挟む目的地は、ミラバース伯爵家だ。
フィーが鍵を託すなら、親友だというリリア嬢しか考えられない。
キースからリリア嬢は記憶喪失だと聞いているが、きっと鍵はリリア嬢の元にある。
不思議とそう確信が持てた。
そして、ミラバース伯爵家の屋敷に着くと、
伯爵、キース、リリア嬢、そしてリリア嬢の婚約者、ペレントン侯爵の嫡男ロベルトの4人が話し込んでいた。
そして、ちょうどまさに今、リリア嬢が手にしているのは、この箱の鍵と思われる物だった。
やはり俺の予想は、当たっていたようだ。
「なるほど。やはりミラバース伯爵令嬢が持っていたのか」
俺の言葉に4人が弾かれたように振り向いた。
「フリード!」
「「「フリード殿下!?」」」
「連絡もせずに来訪して、悪かったな。どうしても確認したい事があって訪ねて来たんだが」
「……王太子がほいほい出歩くなよ……」
キースに軽く咎められた。
「もちろん、護衛もいるぞ」
「そういう問題じゃないだろ!!」
キースの小言は無視して俺は続ける。
とにかく今は時間を無駄には出来ない。
フィーの処分決定までに証拠を手にして戻らなきゃならないんだからな。
……だが、その前に。
俺はどうしてもやらなければならない事が一つある。
「ミラバース伯爵令嬢……いや、リリア嬢。この度は、弟が申し訳ない事をした」
俺はリリア嬢に向かって謝罪をした。
「……えっ?」
リリア嬢は驚いている。まさか謝られるとは思っていなかったのだろう。
だけど、俺はどうしても謝らずにはいられなかった。
「あぁ、楽にしてくれていいよ、この訪問はお忍びだからね」
「あ、ありがとうございます」
リリア嬢は完全に戸惑っている。
まぁ、仕方ないよな。俺はため息を吐きながら続けた。
「君は今回のニコラスの件の被害者だろう?」
「被害者……と言いますか……」
「どう考えても被害者だと思うが? 君には婚約者がいるのにニコラスが君を脅して横槍を入れてきたんだろう? だから君達の婚約は今、解消に向けて動いてしまっている。違うかな?」
俺はリリア嬢とロベルトを見る。
二人は完全に今回の件でとばっちりを受けてしまった被害者だ。
本当に申し訳ない。
「違いません……」
リリア嬢が目を伏せながら答える。
「まぁ、この件が片付いたら元に戻せるはずだよ。俺からも陛下に口添えするからそこは安心して欲しい」
この二人の関係が戻らなかったら、フィーが絶対に悲しむ。俺はフィーにそんな思いをさせたくない。
学院に入学した後のフィーから貰っていた手紙にはよくこの二人の事が書かれていた。
お互いを大切に想いあっている仲の良い婚約者同士なのだ、と。
そして、そんな二人が羨ましいとも書かれていた。
(俺だってフィーを大切に想ってる! と何度返信に書きたいと思ったか……)
リリア嬢とロベルトがどれだけフィーにとって大切な友人なのか、その手紙を読んでるだけの俺にも伝わって来たくらいだ。
だから、二人の為に俺が出来る事は何でもするつもりだ。
しかし、リリア嬢……記憶喪失と聞いていたが、話をしている感じだとそんな印象を受けない。むしろ記憶を取り戻しているような?
俺はチラリとキースを見る。
すると、キースは無言で頷いた。
……なるほど、何があったかは分からないがリリア嬢は記憶を取り戻していたようだ。
良かった……フィーが知ったら、安心するだろうな。
早く教えてやりたい。
だが、今はこの箱を開ける事が先決だ。なので話を続ける事にした。
「……それよりも、まず今はその鍵の話だな。実はさっき地下牢にいるスフィアの元へ行ってきてね。色々問いつめて来たんだよね」
ニッコリ笑ってそう言ったら何故か皆がギョッとした顔でこちらを見た。
「俺としては小一時間くらい問い詰めたい事があったんだけど、警備の隙をついて行ったから時間が無くてさ……」
「フリード! そこはいいから話を戻せ!!」
キースにツッコミを入れられた。
「チッ……で、そこでスフィアから、どうにかこの箱の情報を聞き出してね、でも鍵がかかっていて。残念ながら鍵の在処までの話は時間切れで出来なかったから、何か知ってる事あるかと思ってミラバース伯爵家を訪ねて来たわけだ。どうやら当たりだったみたいだな」
そう言って箱を皆に見せる。
「……スフィアは大丈夫でしたか?」
リリア嬢が心配そうに尋ねてきた。
「うん。俺から逃げようとするくらいには元気だったよ」
「へっ!?」
どうやらリリア嬢は、俺のフィーへの想いを知らないらしい。思いっきり“どんな関係なの!?”って顔に出ている。
「あの……何故、殿下はスフィアが証拠を持っていると知っていたのですか?」
「あぁ、スフィアには、“影”がついてるからね」
「それはニコラス殿下の婚約者だからですか?」
「違う。スフィアには俺の影がついてるんだ」
「えっ!?」
リリア嬢の顔はもはや疑問でいっぱいだ。分かりやすいな。
まぁ、婚約者でもない俺の“影”がついてる何て言われたのだから、驚くのは当然か。
「スフィアは俺の大事な人だからね。……まぁ、そこのところ本人は全然分かってないみたいだったけど」
「…………!?」
いやいや、リリア嬢。驚き過ぎじゃないか?
「で、俺はスフィアを取り戻す為、動いてるってわけだ。……協力してくれるよね?」
半ば脅しのようになってしまったが、リリア嬢の協力は必要不可欠だ。
承諾して貰わねばならない。
「……は、はい。勿論です……」
少々、怯えている気もするがリリア嬢の承諾は得られた。
これで無事に箱は開けられるだろう。
その時、キースがリリア嬢に小声で耳打ちしていた。
俺のフィーへの想いを教えているのだろう。
だけど、知らなかったのはリリア嬢だけでロベルトは知っていたようだ。
……確か、彼は社交界デビューがフィーと同じ日だったからな。
あの時の俺の様子を見て気付いたってところだろう。
……肝心のフィーは全く気付いてくれなかったのにな。
と、ちょっと落ち込んだ。
だが今は落ち込んでる場合では無かったと思い出す。
「…………そろそろ、いいかな? まぁ、俺も時間さえあるならスフィアへの愛を語り尽くしたい所だけど。今は時間が無いのでね」
残念ながらあまり悠長にしている場合ではない。
本当はすっごく語り尽くしたいのだが。延々と語れる自信があるぞ。
「えっと、それではペンダントの鍵でこの箱を開けてみればいいんですね?」
リリア嬢が、そろそろと箱の鍵穴に鍵を差し込んだ。
………………カチリ
どうやら開いたようだ。
「手紙が数束に押し花? ……それにブレスレットと本が1冊?」
女性の物なので、俺達は少し離れた所で様子を見ることにして、まずは女性であるリリア嬢1人で箱を開けてもらった。
「フリード殿下、スフィアはこの箱の事をなんだと話していましたか?」
中身を見たリリア嬢にこの箱が何なのか聞かれた。
「……自分にとってとても大切な物が入っている、とだけ言っていたが。何が入っていた?」
「えっとですね……」
もうそろそろ良いかと思い、近付いて箱の中身を見て俺は「えっ!」とだけ小さく声を上げてそのまま言葉を失った。
と、同時に嬉しさと恥ずかしさが込み上げてきて思わず顔を覆ってしまった。
フィーにとって大切な物というのが……
「で、殿下……? 大丈夫ですか」
俺の動揺が伝わったせいかリリア嬢が困惑している。
いや、俺もだよ……俺も頭の中が混乱中だよ……そう思いながら口を開いた。
「…………その手紙の束は、スフィアがニコラスと婚約する前までの間に俺がこっそりスフィアに送り続けてた手紙だ。そしてブレスレットは俺がプレゼントに贈ったもので……押し花は、勘違いでなければ……だが、俺が今までスフィアに贈った花を押し花にしたものだと思う……」
「……………………!」
まさか、フィーの大切な物が入ってるという箱の中に俺が贈った物が入ってるなんて思いもしなかった。
贈り続けた花はわざわざ押し花にまでしてくれていたようだ。
「……………………!」
リリア嬢は心の底から驚いているようだった。……俺もだ。
「フィー……取っておいてくれてたんだな……」
嬉しくて嬉しくて無意識の内に小さな声でそう呟いていた。
俺はフィーをどんな事をしても手に入れるつもりで、俺に気持ちが向いていないなら、何度でも口説いて口説いて振り向かせるつもりで帰って来た。
だが、これを見せられたら……少しだけ、少しだけだが期待したくなってしまう。
フィーにとって、俺は特別な存在になれてるのではないか、と。
「手紙や押し花、ブレスレットは殿下からの贈り物だとすると、今回の件の証拠とはならないですよね。と、なると……この本でしょうか?」
リリア嬢の言葉に、ハッと現実に戻される。
そうだ! 今は証拠品を確保しなくては。
「……そ、そうだな……」
この本……いや、ノートは何だろう? フィーの日記か?
さすがに、これを読むのは抵抗があるが……だが、背に腹はかえられない。
俺はそのノートを開いた。
しかし、予想に反して、ノートの中に書かれていたのは日記ではないようだ。
と言うより、何が書かれているのか分からない。
「ーーーーこれは、どこかの異国の文字でしょうか?」
リリア嬢も分からないらしい。
フィーは、何故こんな見たことのない文字が書かれた物を持っているのだろう。
そう疑問には感じたが、証拠品もこれでは無さそうだ。
「おかしいな? この箱の中にあるはずなんだが……何故見当たらない?」
その場にいた誰もががっくりと肩を落としたが、
ノートの最後に一通の紙と手紙の束が挟まっている事にリリア嬢が気付いた。
「フリード殿下、この手紙もフリード殿下が贈った物ですか?」
それは俺の送った手紙とは違う物だった。
「…………っ! それだ! 開けてみてくれ」
広げて読んでみると、紙には俺の暗殺計画が書かれており、束になっている手紙にはニコラスとセレン嬢が俺の暗殺計画を示し合わせたやり取りが記されていた。
「……あった……!」
見つけた!!
この証拠品とこちらが調べあげた情報で、二人を追い詰める事が可能になった。
……これで、フィーを助け出す事が出来る!
「本当に助かった……これで絶対にフィーを必ず助けると約束する!」
俺のその言葉にリリア嬢は「……お願いします!」と何度も俺に頭を下げた。
……その必死な様子を見て思う。
フィーは、何故かあのまま処罰を受ける事を望んでいたが、フィーの大事な親友はこんなにもフィーの事を案じてる。
そこのところ、ちゃんと分かってもらわないといけないよな……
俺は四人にお礼を言ってミラバース伯爵家を後にし、急いで王宮に戻る。
──必要な物はこれで揃った。
あとは、ニコラス達を……この手で……叩きのめすだけだ。
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