【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea

文字の大きさ
3 / 45

3. 悪役にされた令息の不器用な優しさ

しおりを挟む


  どこに連れて行かれるのかと思えば、ディライト様が選んだ場所は外だった。
  彼は庭園のベンチにそっと私を降ろした。

「あ、あの、ドゥラメンテ公爵令息様」
「あぁ、すまない。女性に勝手に触れた挙句、このような形で連れ出して申し訳なかった。だがあの場……」
「そ、そうではなくて!」
「!?」

  ディライト様が私を連れ出した事を申し訳なさそうにするのがいたたまれず、私もついつい声が大きくなってしまった。
  私の大声に表情は見えないけれどディライト様は面食らっているように見える。
 
「…………あの場から連れ出してくれて、あ、ありがとうございました」
「余計な事では無かったか?」
「……まさか!  それから、上着もありがとうございます。お返ししま……」
「いいからまだ被っていろ」

  頭に被せてくれていた上着を返そうとしたら何故か止められた。

「?」
「いいから、泣けるうちに泣いておけ。上着それがあればアーベント公爵令嬢が泣いていても俺からは見えない」
「え?」
「泣き顔!  そういうのは見られたくないものなのだろう?」
「……!」

  ディライト様はそう言って上着ごと私の頭を撫でてくれた。
  言葉は少しぶっきらぼうなのに、その手付きがあまりにも優しかったので涙が……止まっていたはずの涙がどんどん溢れて来た。

「……っ……くっ……」
「……」
「好き……だったんです……大好きで……」
「うん」

  ディライト様は泣き出した私の独り言にも相槌を打ってくれる。

「婚約者になれて……幸せで…………っ……8年も……」
「あぁ」
「一緒に頑張ろうねって…………だから、私…………勉強も……っ……」
「知ってる。いつも勉強していたな」

  そう言って撫でてくれるその手が、その言葉が本当に優しくて。
  どんどん涙が溢れて止まってくれない。
  ずっとずっとジョーシン様の為に生きて来た8年間だった。
  その8年間はさっきのあの瞬間に全てが壊れてしまった。

  (これから先、私は何を目標にして生きて行けばいいの?)

  そもそも───……

「…………」 
「?  アーベント公爵令嬢?」

  急に私が静かになったからか、ディライト様がおそるおそる私の名前を呼ぶ。

「真実の愛ってなんなのよーーー!!」
「!?  お、落ち着け!  落ち着いてくれ!」

  今度は泣いていたはずの私が、叫び出したのでディライト様は大慌てで私を落ち着かせようとしてくれる。
  でも、私としては叫ばずにはいられなかった。
  私に抱いていた気持ちは“愛”じゃ無かった?  何それ!  酷すぎる。

「せめて……君への愛も本物だった……そう言って欲しかった……っ……」

  それなら、辛いけどもっと好きな人が出来ただけ……そう思うことも出来たのに。
  過去の想いも全て否定された事が……何より辛い。

「……真実の愛……か」
「ドゥラメンテ公爵令息様?」

  ディライト様が何やら小さく呟いた。

「いや、俺もミンティナ……殿下に同じ事を言われたな、と思って」
「あ……」

  そうだった。
  ディライト様も私と同じ様に身勝手な理由で婚約破棄を言い渡されていたんだった……

  (バカな私……辛いのは私だけでは無かったのに!)

「申し訳ございません!」
「?  何故、アーベント公爵令嬢が謝る?」
「……私だけが可哀想なのだと、不幸だと思って泣いてしまいました。ドゥラメンテ公爵令息様だって泣きたい気持ちのは──」

  私がそこまで言いかけたら、また上着ごと頭を撫でられた。
 
「俺の事は気にしないで構わない。泣きたいだけ泣け。言いたい事も溜めずに言え。ここで聞いていてやるから」
「……」

  (それだと、ディライト様あなたの辛い気持ちはどうやって消化するの?)

  そう思ったのだけど、私はまた涙が溢れて来て、子供みたいに……そう、ジョーシン様と婚約する前の自由で無邪気だった頃の子供の様に泣いてしまった。

  ディライト様はそんな私を言葉通りずっと側で見守っていてくれて、話も聞いてくれながら何度も何度も頭を撫でてくれた。



「───落ち着いたか?」 

  たくさん泣いたら、ようやく心も少し落ち着いてきた。

「……はい。ありがとう、ございます…………って、あぁ!」

  私はある事に気付いてサッと青ざめる。

「どうした?」
「う、上着が……」
「上着?  俺の貸したそれか?」 
「…………はい」  

  ディライト様の言葉に甘えてすっかり忘れていたけれど、私は、ジョーシン様に頭からワインを掛けられている。そして更に上着を被ったままの状態でかなり泣きじゃくってしまった……

  (この上着、絶対すごい事になっているわ!!)

「私、ワインを掛けられているんです……それに、な、涙まで……あ、洗って返します……あ、でも、綺麗になるのかしら?  ……それとも弁償する方が……?  ど、どうしましょう……」

  動揺した私は、洗って返すべきなのか弁償すべきなのか分からなくなってオロオロした。

「……」
「あの……ドゥラメンテ公爵令息様?」

  すると、何故か彼が黙ってしまったので、私はおそるおそる声をかける。

「あ、あぁ、すまない。ちょっと意外で」
「……意外、ですか?」

  私が聞き返すとディライト様は少しバツの悪そうな顔をして言った。

「……てっきり、弁償してあげるからどれだけ汚しても構わないわよね!  くらいの事は言うのかと……すまない。完全に偏見だった」
「い、いえ……最悪、弁償するしかないとも思いましたし……でも」

  何でそんな偏見を?
  と、問いかけそうになって気付いた。

  (そう言えば、私、よく高飛車だとかお高くとまってるとか言われていたわ……!)

  そんな私が例え自分の手で行うわけでは無かったとしても“洗って返す”なんて発想するとは思わないわよね……

  (ジョーシン様の婚約者として……未来の王妃として、誰にも舐められないように)

  そうやってずっと気を張りつめて来た結果がこれ。

「……」

  ……そう思うと、何だか悲しくなって来た。
  本当に“私”って、何だったのかしら?
  そんなプライドも真実の愛とやらの前では何の意味も無かったというのに。  

「本当にすまない」

  ハッと気付くとディライト様が頭を下げていた。
  私はその様子に慌ててしまう。

「そ、そんな!  あ、頭を上げてください!」
「だ、だが俺はよく知りもせず勝手に決め付けて……」
「……」

  そんな事は慣れているから構わないのに。
  ディライト様はきっと真面目な方なんだわ。
 
「いいのです。それが“私”でしたから」
「……アーベント公爵令嬢?」

  私はここでずっと頭に被っていた上着を取る。
  ちゃんとお礼を言うのにこのままでは失礼だもの。

「ドゥラメンテ公爵令息様、本当にありがとうございました。上着こちらは洗ってみて駄目そうだったら弁償させていただきます」
「あ、あぁ……」

  私が上着を取ったからか、ディライト様はハッと息を呑んだ。
  肝心の表情はもっさり前髪のせいでよく分からないけれど多分驚いている。

「アーベント公爵令嬢……君は」
「は、はい、何か?」

  上着を取ったからって驚きすぎじゃない?
  そう思った時、彼はやや震える声で言った。

「き、君の素顔はそんな顔をしていたのか……」

  ───と。
しおりを挟む
感想 290

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...