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4. 悪役にされた令嬢は許せない
しおりを挟む(……素顔?)
そう言われてハッとする。
私、涙のせいで顔がぐちゃぐちゃなのでは?
──しまったわ! 礼儀だと思って被っていた上着を取ってしまったけれど、こんな顔を見せる方が失礼だったかもしれない。
「こんなに、み、見苦しいものをお見せして申し訳ございません……!」
私は慌てて自分の顔を両手で隠す。
すると、何故かディライト様が慌て出した。
「いやいや、待て待て待て! 見苦しい?」
「は、はい。だって、涙のせいでお化粧が流れてしまって今の私は相当酷い顔に……」
「──ち、違う! 違う、そうじゃない!」
「……?」
(違う?)
何故かディライト様が勢いよく首を横に振って否定する。
「えっと、どういう事でしょうか?」
「すまない! また言葉が足りなかった! 君の顔が醜いとかそういう意味では決して無い!」
「で、では、どういう意味です?」
「……」
何故かそこで押し黙るディライト様。
逆に不安になってしまう。
「ドゥラメンテ公爵令息様?」
「うっ……その、俺はこれまでアーベント公爵令嬢については、ど、どちらかと言うと冷たそうな女性……という印象を持っていた」
「え?」
「…………だが、それはその化粧のせいだったんだな。本当の素顔は随分と可愛……あ、いや、何でもない……」
「……?」
もっさり前髪のせいでよく見えないけれど、ディライト様の頬が赤い気がする。
気のせいかしら?
……それよりも。
(冷たい印象……? あぁ、そっか、そういう事……)
ジョーシン様が、大人っぽい女性が好みだと言ったから私はたくさん研究した。
パッチリした目は少しでも切れ長で涼やかな目元になるように。ふっくらした頬もシャープに見える様に。フワフワの髪は毎日侍女にお願いをして真っ直ぐにしてもらって……
そうやって毎日毎日好きでもないお化粧と髪型をずっとしていたわ。
(それでも、捨てられてしまったけれど)
しかも、ジョーシン様が選んだのは、私が装っていた姿とは真逆な人だったなんて皮肉でしかない……
「あの……私、素顔はあまり人に見せられたものではないらしいのですが?」
「は? 誰が言ったんだ?」
「ジョーシン様です。だから、私は常に化粧を欠かさない方がいい、と言われていました」
「……っ!?」
(?)
何故かディライト様が絶句している。
さっきから彼の反応がよく分からない。
「ですが、本当に選ばれるのは見た目じゃないのですよね。ジョーシン様は好みと違ってもイザベル様を選んだ……だからこそ真実の愛と言う……」
「ん? いや待ってくれ、アーベント公爵令嬢。俺の知っているジョーシン殿下の女性の好みは“可愛いタイプ”だぞ?」
「………………はい?」
空耳かと思った。
「少し前に、ミンティナ……殿下と3人でお茶会をした事があってな。その時に王女が聞いたんだよ、お兄様の好みってどんなタイプ? と」
「……え? そ、それで、ジョーシン様は?」
「その時のジョーシン殿下は“見た目も中身も可愛らしい子”が好きだと言っていた」
「!」
(どういう事!?)
「そ、それは、既にイザベル様と出会っ」
「いや、出会う前だな」
「……!」
頭がクラっとした。
ショックなんてものじゃない。
見た目も中身も可愛い子が好きですって?
それが本当なら私はバカみたいに完全に真逆の道を突き進んでいたという事?
───見た目は大人っぽくて周囲に流されない女性の方が好きかな。
(どの口がそれを言っていたのよーー!!)
私はフツフツとした怒りの感情が湧いてきた。
(バカみたい、バカみたい、バカみたい!!)
「…………冗談じゃないわよ」
「ん? アーベント公爵令嬢? 何か物凄くドスの効いた声が聞こえたんだが、まさか君のこ……え……」
そう訊ねるディライト様の声が震えている。
えぇ、そうよ。私の声ですよ!
「……ドゥラメンテ公爵令息様」
「……な、何だろうか?」
「先程の私達、まるでゴミのように捨てられましたよね?」
「ゴミ……うん、まぁ、そう……だな」
あれは、間違いなくポイ捨てよ、ポイ捨て!
「許せないと思いませんか?」
「え?」
「あんな公衆の面前で堂々と浮気宣言をしておいて、あの二人がこれからも、のうのうと過ごそうとしている事です!! 私は許せません!!」
私はググッとディライト様に向かって迫る。
「ち、近い、アーベント公爵令嬢……」
「シャルロッテとお呼びくださいませ! 私もあなたをディライト様とお呼びします!」
「シャ、シャルロッテ嬢……お、落ち着いてくれ」
ディライト様は完全に私に押されていた。
それでも、私の勢いは止まらない。
「私、許せませんの」
「え!?」
「このまま泣き寝入りするのは、どうしても許せませんの」
「シャルロッテ嬢……?」
だって悔しい!
それに、悪役呼ばわりまでされた事は本当に許せない。
「ディライト様! 復讐しませんか?」
「ふ、復讐!?」
ディライト様の声が裏返る。
驚きすぎよ。
「ジョーシン様にもミンティナ殿下にも、私達をゴミのようにポイ捨てした事を後悔させてやるんです!」
「シャルロッテ嬢……? 何を……」
「泥棒猫の双子にもぎゃふんと言わせたい所です!」
「ぎゃふん……」
(特にイザベル様。あの顔は明らかに私に喧嘩を売っていた)
私の脳裏にイザベル様のあの勝ち誇った顔が浮かぶ。
悪役令嬢ですって!? 冗談では無いわ!
「ディライト様はミンティナ殿下を奪われて悔しくないのですか!?」
「え? 悔しい?」
だって、あの場で冴えない男とまで言われていたのよ!?
悔しいに決まってるはず!
「悔しい……? 悔しいのかなぁ」
「え?」
「あぁ、でも言った覚えのない話での冤罪はさすがに困ってる」
(あれ? そこなの?)
私がたまに王宮で見かけていた二人はいつも仲睦まじそうだったのに?
ディライト様はミンティナ殿下を取られて悔しくないの?
(それでも、何とか説得しなくちゃ!)
復讐も、ぎゃふんも私一人の力では無理。
どうしても協力者が欲しいの。
他の人じゃダメなのよ。私の気持ちを分かってくれるディライト様が必要なの!
それに……
「……少し気になる事もあるのです」
「気になる事?」
「……」
それはあの場の雰囲気。
王族にはなかなか逆らえないとしても、あんなに横暴な婚約破棄の話、誰もが素直に納得しすぎだと思った。
「いくら、私が皆に嫌われているにしてもあの場の空気は、ちょっとおかしかったと思うのです」
「……」
「だから、一緒にその原因も突き止めてすっきりさせませんか?」
「シャ、シャルロッテ嬢……」
「あなただけが頼りなんです、ディライト様!」
そう言って私は、再度ディライト様に強引に迫った。
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