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6. 悪役にされた令嬢の企み
しおりを挟む「……お父様は私を勘当する気でしたか?」
「……っ」
そこで言葉に詰まるという事は、どうすべきか考えあぐねていたという事。
なんて分かりやすいのかしら?
「分かります。あんな公の場で王子でもあるジョーシン様に惨めにも捨てられた私は、今後はまともな縁談は望めませんものね」
「シャルロッテ……」
家の為にならない令嬢に価値が無い。その風潮は仕方の無い事。
「ですが、ご安心下さいませ、お父様!」
「?」
「私、自分で次の縁談相手を見つけましたの」
「…………は?」
お父様が大きく目を見開いてびっくりしている。
王子に婚約破棄された……と聞いた娘の扱いをどうしたものかと頭を悩ませていた所、件の娘がワインまみれで屋敷に帰って来て、次の縁談相手まで自力で見つけたとか言い出した。
(それは、確かに急展開過ぎてついていけないわよねぇ)
でも、お父様、ごめんなさい。
次の縁談相手は、かなり押し押しで確かに見つけたけれど……
私が、ディライト様にお願いしたのは婚約は婚約でも偽装婚約なのよ。
───……
私の言葉に驚き、言葉を失っていたディライト様がようやく口を開いた。
「婚約って……」
「驚かせて申し訳ございません。ですが、これも復讐の為です」
「復讐の為に婚約……?」
ディライト様は意味が分からない……そんな様子を見せる。
「ディライト様、私達の身分は何ですか?」
「え? 公爵家の……」
「ですわね。この国で最も権力のある公爵家の子供ですわ」
「……」
ディライト様が黙り込む。
多分、私が言いたい事、なんとなく分かってくれているのではないかしら?
そう思った私は、ふふっと、小さく笑って言葉を続ける。
「我がアーベント公爵家と違って、ドゥラメンテ公爵家は正当な王家の血筋です」
「……! シャルロッテ嬢、君はまさか……」
「ディライト様も王位継承権をお持ちですわよね?」
「!」
私の家、アーベント公爵家とドゥラメンテ公爵家。
共に公爵家を賜っているものの、実際は格が違う。
数代前の当主が武勲を立てた事で取り計らいがあり、公爵家になった我が家と違ってドゥラメンテ公爵家は、王家から分かれた正当な血筋。
(だから、本当は私からこのような申し出をするのは大変失礼な事なのだけど……)
「自分が未来の王となる事を信じて疑わないジョーシン様ですけれど、この国の二大公爵家が手を結んだと知ったら」
「……待ってくれ! シャルロッテ嬢は、俺を……俺を次の王にするつもりなのか!?」
ディライト様が困ったように叫ぶ。
それはそうよね。
だから、私は首を横に振って答える。
「違いますよ? 流石にディライト様の気持ちを無視してそんな無茶は言いません」
「え?」
あ、表情が見えなくても分かるわ。
今、絶対ちょっとおマヌケな顔をしていると思うの。
(ふふ、その顔、ちょっと見てみたい……なんて思ってしまったわ)
「……ですが、私はどんな事をしてもジョーシン様を王位継承者から引きずり下ろしたいのです」
「シャルロッテ嬢……」
「ディライト様が望まないなら、最終的に王になんてならなくて構いません。ですが、王位を狙っているフリはして頂きたいと思っています」
「……」
────ねぇ、ジョーシン様?
あなたが今、あぐらをかいて座っているその地位を私とディライト様の力で脅かせて引きずり下ろして差し上げます。
「待ってくれ。俺がその話に乗ったとして、ジョーシン殿下を引きずり下ろした後は最終的に誰が王位につ……」
「……」
「! シャルロッテ嬢! まさか」
私がまだ何も言っていないのにディライト様には分かったらしい。
「君は反王制派につくつもりなのか!」
「ジョーシン様が王になるくらいなら、私は王制は廃止した方がいいと思います」
「……!」
「……本当はあんな人より相応しい方が現れてその方が王位につくのが一番ですけれど」
ディライト様にその意思は無いだろうし、今後、彼がその気になったとしてもディライト様が王に相応しいかはよく分からない。
だから、今はそれ以上の事は言えない。
「君は本気で……」
数年前から活発に声を上げるようになっていた反王制派。
ジョーシン様の婚約者の立場だった時は彼らの声は許せるものでは無かったけれど。
「ジョーシン様に表向きはディライト様に王位継承を奪われるかもしれないと思わせておいて、その裏で王制廃止に向けて動いていたと知ったら……ジョーシン様どんな顔をすると思います?」
「……」
「反王制派と接触する必要もありますし、どちらにせよこれは、まだまだこれからの話です。でも、まずは私とディライト様が婚約をする事でジョーシン様にちょっとした危機感を与えたいと思います」
「シャルロッテ嬢……」
「巻き込んでしまってごめんなさい。もちろん婚約は偽装で構いません。ジョーシン様を引きずり下ろせたら、お終いという事でどうですか?」
あんな形で王女様に捨てられてしまったディライト様だけど、国一番の貴族のドゥラメンテ公爵家の跡取りですもの。寄ってくる女性は今後も多いはず。
(ディライト様はディライト様の新しい幸せを見つけて欲しいわ)
「私達が婚約を解消する理由は、私の有責にしてくださって構いませんので」
「……いやいやいや、そんな事をしたら君の立場はどうなる?」
ディライト様のその言葉に私は目を伏せて答える。
「私は幸せな結婚はもう望んでおりませんから」
「……!」
ディライト様はひゅっと息を呑んだ。
その後は、暫く考え込んでいたけれど、決心したのかようやく口を開いた。
「分かった。その話を受けるよ。婚約しよう」
「!」
「何でそんなに驚いた顔をする?」
「……いえ、実は受け入れてもらえるとは思っていませんでした」
(やっぱり協力するのは無しだ! と言われる覚悟までしていたのに)
我ながら無茶を言っている自覚はある。
そう思っていたら、ディライト様の手がそっと私の頬に触れた。
ドキッと私の胸が跳ねる。
「そんな心細そうな顔をしないでくれ」
「え? 心細い?」
「あぁ。今にも捨てられてしまいそうな子犬みたいな顔をしている」
そう言ってディライト様は優しく私の頬を撫でた。
擽ったいのに何故か胸がキュンとする。
「……」
(だって……)
「約束は守るよ、シャルロッテ嬢。俺は君に協力する。一緒にジョーシン殿下を脅えさせてやろう」
「ディライト様……」
「だが。その代わりなんだが」
「は、はい」
「全て終わった時に、俺の願いを一つ聞いてくれないか?」
ディライト様がそんな事を言うので私は目を丸くして驚いた。
「お願い……ですか?」
「そう、お願い。それが君に協力する条件だ」
「えっと? ……それは私に叶えられるお願いですか?」
「あぁ」
(それならば、私に異論はない)
それに、ディライト様だもの。変なお願いするようには思えない。
「分かりました! 約束します」
「では、交渉成立だ」
「はい、よろしくお願いしまー……」
と、そこまで言いかけて、私はびっくりして固まった。
何故なら───
突然、グイッと腕を引っ張られたと思ったら何故か私は、ディライト様の胸の中に飛び込んでいた。
そして、そのままギュッと腕を回され囲われた。
「!?!?」
(こ、これは抱きしめられている!? 何で!)
「シャルロッテ嬢……いや、シャルロッテ。これは偽装かもしれないけど、婚約は婚約。周りには仲睦まじい二人として見せつけておかないといけない」
「え? え!?」
名目上で構わないのに!?
「万が一、ジョーシン殿下に偽装だと疑われたら大変だろう?」
「あ……」
「俺はそういうつもりでこれからは君と接するよ、シャルロッテ。だから覚悟して?」
「え? 覚悟? あ、はい?」
私がよく分からず返事をすると、ディライト様がフッと笑った(気がした)
そして、そのまま彼は……
……チュッと私の額にキスをした。
「!?」
「では、よろしく。新しい俺の婚約者殿」
「!?!?」
─────……
という事で一応、交渉成立したわけだけど。
(あのスキンシップは何だったの!?)
「……っ!」
思い出したら顔が赤くなって来た。
「……? シャルロッテ? 何だか顔が赤いが?」
お父様が私の顔を覗き込む。
私は必死に落ち着けと言い聞かせる。
「き、気のせいです!」
「……そうか? それで、お前の見つけた縁談相手とは誰なんだ?」
「ドゥラメンテ公爵家の嫡男、ディライト様ですわ」
「………………は?」
お父様がたっぷり数十秒は固まった。
「すまん。もう一度言ってくれ」
「ですからー……ドゥラメンテ公爵家の嫡男、ディライト様です!」
「なーー!?」
お父様は再び驚きで固まった。
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