11 / 45
11. 悪役にされた令嬢は令息に振り回される
しおりを挟むあれこれ目に映るものが新鮮ではしゃいでばかりだった私は、突然ふと、我に返った。
「……おかしいです」
「どうかした? シャルロッテ」
今、私達は花屋の前にいた。
それと言うのも。
屋台を満喫した後、他のお店を覗いては、私はディライト様にあれは何ですか? これは何ですか? と聞いてばかりだった。
そんな中、花屋の前を通り、そう言えば……先日は花束をありがとうございました! と、改めてお礼を言ったら、ディライト様が「花は好き?」と聞いてきたので「好きです」と答えたら「分かった」と言われた。
そして、何故かディライト様は私に「待ってて?」とだけ言って花屋に入って行った……
(あれ……?)
そして今、私の目の前には何故かまた花束が。
「はい、これ。初デート記念」
「あ、ありがとうございます……」
反射的に受け取ってしまってから慌てる。
「……で、ですが! やっぱりおかしいです! きょ、今日は……」
「今日は?」
ディライト様がきょとんとした顔で首を傾げている。
「ディライト様に私が上着のお礼をする場であって、私が何かを買ってもらう場ではありません」
「ははは。そんなの、俺がシャルロッテに贈りたかったから良いんだよ」
「なっ……」
そんなの申し訳なさすぎるわ!
と、私が首を横に降ると、ディライト様がうーん……と悩んだ表情を見せた。
「さっき、シャルロッテは俺の欲しい物を聞いたよね?」
「はい」
「なら、シャルロッテの笑顔が欲しい」
ディライト様はそんなとんでもない言葉を破壊力満点の笑顔で言った。
「わ、たしの笑顔……ですか!?」
「そう。シャルロッテのその可愛い笑顔が欲しい。まぁ、本当に欲しいのは………………だけど」
後半はよく聞こえなかった。
「え、がお……」
「その可愛い顔で俺だけにたくさん笑ってくれたら嬉しい」
「~~~!!」
ディライト様はそんなとんでもない発言をしながら、私の頬にそっと触れる。
「シャルロッテ……顔が真っ赤だよ?」
「ディライト様のせいですよ……」
私がそう返すとディライト様はまた、あははと可笑しそうに笑う。
「シャルロッテ、俺と君は婚約者なんだ」
「そうですが、偽……」
偽装のです! と言いかけたのに、ディライト様の指が私の口を塞いでしまう。
「だからね? 愛しい愛しい婚約者の笑顔が最高の俺へのプレゼントだと思わないかい?」
「……!」
(これ、もしかしてからかわれているのかしら?)
だって、ここまでする必要……ある?
私は頼まれた笑顔ではなく、むくれた顔をしてしまう。
そんな私の顔を見たディライト様がまじまじと私の顔を見つめながら言った。
「うーん、シャルロッテは、そういう顔も可愛いんだね」
「!?」
「笑っててもむくれていても可愛いとか反則だよ」
「!?!?」
ディライト様はとても嬉しそうに甘く蕩ける笑顔でまたまたとんでもない事を言った。
───こうして、初デート……はお礼らしいお礼も出来ないまま終わりを迎え、私達は帰る事になった。
(まともにお礼が出来た気がしないわ……でも、ディライト様が嬉しそうだからいいのかしら……)
帰りの馬車の中で、何故か向かい側ではなく私の隣に座ったディライト様のその美しい顔をじっと横から見つめる。
「シャルロッテ? 何か俺の顔に付いている?」
「い、え……」
ディライト様がこっちを向いて目が合うと優しく微笑まれた。
(やっぱりその微笑みはドキドキする!)
そんな内心動揺している私にディライト様は微笑みを崩さぬまま訊ねる。
「シャルロッテ、今日は楽しかった?」
「はい……楽しかったです」
私は少し照れながらも微笑んだ。
───楽しかった。
だって、これは嘘じゃない。私の心からの気持ちだった。
「……っ! そ、それなら良かったよ」
少しだけディライト様の顔が赤くなった気がした。
「なら、さ。また、付き合ってくれる?」
「は、はい。私で良ければ……」
「……ありがとう!」
またしても、とんでもなく嬉しそうな顔で笑ってお礼を言われたので、胸のドキドキが止まらなかった。
────
そして、もうすぐ私の屋敷に着くぞという所で、ディライト様が少し真面目な顔と声のトーンで私に声をかけて来た。
「────シャルロッテ。今度、王宮で舞踏会がある」
「え?」
「俺達が婚約してからの初めての公の催しだ」
「……公の」
(……それは、つまり)
「ジョーシン殿下とミンティナ殿下も彼らと参加するはずだ」
「!」
(やっぱり……ついに、来た!)
「……宣戦布告の時、ですね」
「あぁ」
とうとうこの日が!
そう思ったら無意識に膝の上で固く拳を握りしめていた。
「シャルロッテ、ダメだ……跡が残ってしまうよ」
私の手に気付き、そう言いながら優しく手を解こうとするディライト様。
その優しさにも胸が高鳴る。
そんな私の手を解いたディライト様はそのままそっと私の手を握った。
「……きっと周りからは色んな目で見られる」
「ドンと来いですよ!」
「強いな……だが、公爵にも誓ったように、俺にシャルロッテを守らせて欲しい」
「ディライト様……」
(本当に、この人は優しいわ)
そう思ったら自然と笑がこぼれる。
「ありがとうございます」
「当日は絶対に俺から離れないでくれ」
「分かりました」
絶対に守る。
そんな気持ちがしっかり伝わって来て、嬉しかった私は微笑みながら頷いた。
「それと。ジョーシン殿下とミンティナ殿下は必ず俺達に“婚約”の件を問い質して来るはずだ」
「はい……」
(二人は、婚約の事はさすがに知っているはず。いったい私達にどんな反応を見せるのかしら?)
まさかとは思うけれど、少し後悔……なんてしたりするのかしら?
ふと、そんな事を考えてしまった。
「……ディライト様。もしも、もしもの話ですが」
「うん?」
「ミンティナ殿下が、“あの時の自分が間違っていた。やっぱりディライト様でないとダメなの”というような事を言って謝って来たらどうされますか?」
「……」
私のその質問にディライト様はとても驚いた顔をした。
だけど、すぐに表情を戻すとキッパリと言った。
「どうもしない。俺の婚約者は、今、目の前にいる可愛いシャルロッテだけだ」
「!」
迷いなんて何一つ無い目だった。
「…………テは?」
「え? 何ですか?」
何かを聞かれたのは分かったけれどよく、聞こえなかった。
「シャルロッテは? シャルロッテは、もしもジョーシン殿下が同じ事を君に言って来たらどうするんだ?」
「同じ事……」
「“真実の愛”の相手はイザベル嬢ではなくシャルロッテだったんだ! ……というように」
「……!」
ジョーシン様の“真実の愛”の相手がイザベル様ではなく、私だったと言われたらですって??
頭の中に、ジョーシン様と過ごした8年分の思い出が駆け巡る。
好きだった。大好きだった……私の全てだったジョーシン様……
「……」
そっと、そんな事を訪ねて来たディライト様の顔を見る。
(不思議。どうして、そう訊ねてくるディライト様の瞳が不安そうに揺れているのかしら?)
「そうですね…………もしも、本当にそのような事を言われた時は───」
私は目を伏せながらそっと口を開いた。
143
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました
チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。
王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。
エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。
だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。
そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。
夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。
一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。
知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。
経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる