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18. 悪役にされた令息は王子を脅す
しおりを挟む得意そうな顔でジョーシン様がそう叫ぶ中、私はチラリと周囲に目を向ける。
(……あの時のパーティーと違って、私に冷たい目を向ける人が少ないわ)
あのパーティーの時の空気は、全てが私に対して“敵”のようだった。それは、ディライト様も同じだと思う。
でも、今日はちょっと違う。
どちらかと言うと、ジョーシン様とイザベル様に呆れたような目を向けてヒソヒソしている人の方が多い気がする。
それは、既に私が婚約破棄をされた身だから? ……それとも他に何か理由が?
(あの時との違いは……何?)
「……シャルロッテ。そろそろ、あのジョーシン殿下の口を黙らせてもいいかな?」
「……!」
ディライト様の言葉でハッと我に返る。
この事を考えるのは後にしよう。今はジョーシン様を黙らせる事の方が先決だ。
「俺の王位継承権をチラつかせるのは、今日の殿下の様子を見てからと二人で決めたけれど……あれはダメだと思う。救いようが無い」
「そうですね」
正直、期待は出来なかったけれど万が一、ジョーシン様達があんな形で私達をポイ捨てした事を反省する素振りがあったのなら、一旦様子を見守ろうかとディライト様とは話し合っていた。
(でも、ジョーシン様もミンティナ殿下も反省どころか……ね)
ジョーシン様は醜い顔をしながら叫んでいる。
「────大人しく泣いて自分のした事を反省し、後悔していると思っていたが、新たな男を誘惑して私の前でベタベタと! やっぱり貴様は悪役のような女だ! そんな貴様には────」
「お言葉ですが、殿下。それ以上、私の大事な婚約者を侮辱する様な発言はお控え頂きたい」
ディライト様がジョーシン様の言葉を遮った。
「はんっ! ミンティナに捨てられた、たかが悪役風情の男が何を偉そうに! 性格の悪そうな貴様らはお似合いだな!」
(……そういう意味では、ジョーシン様とイザベル様もとてもお似合いな気がするわ……)
こんな二人に、この国の未来は託せないけれど。
「……殿下は私の事を悪役風情などと仰いますが、貴方はお忘れですか?」
「何をだ?」
「私、ディライト・ドゥラメンテが、ジョーシン殿下、ミンティナ殿下と同じように王位継承権を持っている事ですよ」
「……なっ!」
ディライト様のその宣戦布告とも取れる発言に、会場内は大きな驚きに包まれた。
「……はっ、ははは! 真面目腐った顔で何を言うと思ったら。まさか、お前如きが俺の代わりに王位につこうとでも? 何を無駄な夢を見ているのだ! 寝言は寝て言うんだな、ディライト!!」
「…………そうでしょうか?」
「は?」
「貴方は私が誰と婚約を結んでいるのかお忘れなのでは?」
「え? あ……」
その指摘にジョーシン様の顔色がサッと変わる。
この国の二大公爵家が手を結んだという事を一応は理解出来る頭は持っていたらしい。
「……ん~? ねぇ、ジョーシン殿下……何の事ですか? ジョーシン殿下がいるのだから、いくら継承権の有無を訴えた所で関係ないですよね~?」
一方のイザベル様はやっぱり何も理解していない。
きっと彼女は“王太子妃”とか後の“王妃”という立場に憧れているだけで、その身が抱える苦労など考えた事も無いに違いない。
そこにディライト様が切り込んでいく。
「……プリマデント男爵令嬢は随分と呑気な考えをお持ちのようですね?」
「は?」
「あなたは、既に自分が将来の王妃となるかのように思われているようですが……そもそも、まだ王太子すら正式に決まっていないという事をあなたは理解していますか?」
「…………え?」
イザベル様が驚愕の表情を見せた。
ど、ど、どういう事!? と慌ててジョーシン様に縋っているけれど、驚きの表情のままディライト様の事を凝視しているジョーシン様はイザベル様の声には無反応。その事がますます、イザベル様を不安にさせていた。
「殿下ならお分かりですよね? アーベント公爵家の令嬢シャルロッテが俺についた事で勢力図が大きく変わった事を」
「っっ!!」
ジョーシン様が悔しそうに唇を噛んだ。
今、ジョーシン様にあるのは“現王の息子”という王子の地位だけ。それはミンティナ殿下にも言える。
しかし、ディライト様のバックには、元々のドゥラメンテ公爵派の貴族に加えて、我が家のアーベント公爵家とその派閥もついた。
(現王の息子……という地位しかなくても、昔みたいにしっかり真面目に丁寧に公務をこなしてさえいればこんな事にはならなかったでしょうに)
彼の最近の公務怠慢は、自分で自分の首を絞めているだけだった。
それに……
「それに、殿下は先日行われたパーティーでシャルロッテ……元婚約者に頭からワインをかけていましたね?」
「ぐっ!」
「婚約者のいる身で、堂々と浮気宣言をしただけでなく、そのような行為を働く方にどれだけの支持が得られるのか私は非常に楽しみです。あぁ、これはミンティナ殿下にも言えますね。シャルロッテ程では無いけれど、貴女にかけられた水はとても冷たかったですよ、ミンティナ殿下」
「……ひっ!?」
後方でミンティナ殿下が小さく悲鳴をあげる。
「貴方達は、“真実の愛”とやらを持ち出して、身分にとらわれず恋に落ちた令嬢や令息への想いを貫く様子を大勢の前で見せようとしたようですが……果たしてそれは本当に支持を得られたのでしょうか?」
「…………っ」
「この可愛らしいシャルロッテはもう俺のシャルロッテです。貴方を一途に追いかけていた彼女はもういません。この先、本当に後悔するのは殿下、貴方です」
ディライト様は私を抱き抱えたまま、ジョーシン様に向かってはっきりとそう宣言をした。
ジョーシン様は最後まで悔しそうな表情で、イザベル様は難しい事は理解していなさそうだったけれど、何となく自分の立場が危うい事だけは雰囲気で分かったのか、最後は青ざめて震えていた。
────
「……言ってしまいましたね」
「うん」
大騒ぎになっている会場をそっと抜け出して、私達はあのパーティーの日にも来た庭園のベンチで涼んでいた。
あのまま会場にいたら、人が寄ってきて揉みくちゃにされるだけなので早々に逃げ出した。
「宣戦布告するディライト様、格好よかったです。ありがとうございます」
本当は王になりたいわけでは無いのに、私との約束を守ってここまでしてくれた。
そんなディライト様には感謝しかない。
「全部、愛しのシャルロッテの為だ」
「ふふ、お上手ですね」
「……」
私がそう言って笑ったらディライト様が苦笑いをしながら腕を伸ばして私を抱きしめる。
「……分かってはいたけれど、流された」
「?」
「シャルロッテは罪な女だなー……なぁ、シャルロッテ。約束覚えている?」
「約束ですか?」
ディライト様の言いたい事はよく分からなかったけれど、約束というならあれしかない!
「協力して頂く代わりに全てが終わったらお願いを……というやつですよね?」
「うん」
「もちろん、覚えていますよ」
私がディライト様の腕の中から微笑んでそう答えると、ディライト様も嬉しそうに笑った。
「それなら良かった……シャルロッテ。その時は覚悟しておいてね?」
「…………はい?」
(何のお願いを……する気なの? 本当に私に叶えられる事なのかしら?)
目を丸くする私にディライト様は笑う。
「俺のシャルロッテは本当に可愛いな……」
「いえ、そうではなく……ディライト様?」
後に聞く事になるであろう“お願い”が、少しだけ不安になった瞬間だった。
────
暫く、こうして何故か密着しながら私達が二人っきりで過ごしている所にお待ちかねの人がやって来た。
「……ドゥラメンテ公爵令息殿に、アーベント公爵令嬢殿。お二人揃ってわたしに話とは何でしょうか?」
「「!」」
その声に私達は慌てて身体を離す。
(───あぁ、いらしてくれたのね?)
無視される事も想定していたのだけれど。
私達は会場を出る時、とある人に向けて「大事な話があるので庭園でお待ちしています」と、伝言を残して来た。その方が現れた。
「……来てくださってありがとうございます、ウラバトール侯爵様」
「この度は、突然、呼び出してしまい申し訳ございませんでした」
「……」
突然、呼び出された侯爵様は戸惑いが隠せない様子。
私達が呼び出したこの方。
ウラバトール侯爵は、ずっと私が対立していた反王政派のリーダー……
つまり、これからの復讐に向けて最も欠かせない重要な人────
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