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31. 悪役にされた令嬢と令息は攻撃を開始する!
しおりを挟む会場に着くと、私とディライト様は一斉に注目を集めた。
───ドゥラメンテ公爵令息様とアーベント公爵令嬢だ!
───相変わらず、惚れ惚れするくらい美しい二人……
───今日もお似合いだ!
(……前と違って今日はかなり最初から好意的な反応が多い気がするわね)
やっぱり風向きは変わっている。これなら!
そうして私が改めて気合いを入れ直していると、何故かディライト様はキョロキョロと辺りを見回している。
「ジョーシン様達はまだのようですよ?」
「あぁ、うん。そうではなくて……」
「?」
ディライト様が鋭い目付きだったので、そんなに警戒しないといけないような人が他にもいたのかしらと思ったら、
「抹殺リスト5位、あれは10位、あいつは……」
「……」
(また物騒な言葉が聞こえる……)
あまりにも気になったので、ディライト様が5位と口にした時に睨んでいた人をこっそり試しに見てみた。
(あの方は──)
確か、前回の舞踏会で……
“いや~、まさかアーベント公爵令嬢がこんなに美しい方だったとは!”
“以前から美しいとは思っていたんですよ、特にその身体とか……”
“どうですか? 婚約者に内緒で今度私と一晩……”
ディライト様と少しだけ離れた時に、すかさず近寄って来ていやらしい目で私を見て暴言を吐いていた人だわ!
(ディライト様が戻ってくる前にさっさと追い払ったけれど、もしかしてディライト様はそれを知っていた……??)
私がまさかと思い無言でじっとディライト様を見つめると目が合った。
ディライト様は甘く微笑んだ。
「どうかした? シャルロッテ」
「い……え!」
私は照れながら首を横に振る。
(守られている……)
ディライト様ったら“抹殺”なんて物騒な表現を使っているけれど、要するに私に危害を与えそうな人を警戒しているという事みたい。
(なるほどね! そういう意味だったのね! 心配性なんだから)
その気持ちが嬉しくて微笑んだら、ディライト様は小さく息を呑み少しだけ固まる。
そんなディライト様の後方では何故か数人の男性が苦しそうに蹲っていた。
「シャルロッテ」
「はい?」
後方のおかしな様子の人達に気を取られてしまっていたら、ディライト様が私の名前を呼ぶ。
……チュッ!
そして、そのまま抱き寄せられ額にキスをされた。
思っていた以上に私達は注目されていたようで、その瞬間、会場内に大きな騒めきが起きる。
「!?」
「こんなに美しいシャルロッテが誰のものなのか……牽制しておかないとね」
そう言って甘く微笑むディライト様。
その瞬間、今度は悲鳴と共に自分の後方からバタバタと人が倒れる音がした。
最初に会場にやって来たのはミンティナ殿下だった。
ミンティナ殿下はとても機嫌が悪そうで、ギロリとした目で会場内を見渡していた。
(マルセロ様を探しているのね)
「お目当ての人物がいなくて相当、苛立っているな」
「ええ、怖いくらいです」
あの変な力──マルセロ様がディライト様による(脅しという名の)取り調べの時に“魅了”と呼んでいた力。
マルセロ様は観念したようにその魅了についてポツポツ話をしてくれたけれど、正直よく分からない事が多かった。しかも、困った事にマルセロ様自身もよく分からない事ばかりなのだと言う。
(イザベル様と力を使いながら二人で色々と面白おかしく確かめて来たって……最低!!)
「それだけ殿下は深く“魅了”されてしまっているんですね」
「ミンティナは気に入るととことん自分の側にその人を置きたがるからな。影響を受けすぎたのかもしれない」
「……」
なるほど……という思いと共に心の奥がモヤっとする。
「シャルロッテ? 可愛い顔が曇ったよ?」
「え? あ……」
ディライト様には何でもお見通しのようで、すぐに見透かされてしまう。ディライト様には隠し事なんて絶対に出来ない、そう思った。
「……ミ、ミンティナ殿下はディライト様の事もずっとお側に置いていた、と思ったら……こう、私の中でですね、黒い気持ちが……」
「……!」
私が包み隠さずに言葉にすると、何故かディライト様は嬉しそうに笑う。
「……何で嬉しそうなんですか?」
「はは、ごめん。自分でも不謹慎だなとは思うけれど、シャルロッテが嫉妬してくれてると思うと……うん、こう勝手に頬が緩む」
「……」
「俺は忙しかったしそこまでじゃなかったよ。そもそも、ミンティナの為に時間を作ろうとはあまり思わなかったな。シャルロッテの為ならどんな事をしても時間を作るけど」
「ディライト様……」
そんな風にディライト様が嬉しそうに話す顔を見ていたら、単純な私はそれだけでモヤモヤが薄れていく。
(……ディライト様には何度か確認したけど、やっぱりミンティナ殿下に未練はなさそうだわ)
「───さて、面倒だけどさっさと片付けようか」
「ディライト様……本音がだだ漏れています。ここは“挨拶に行ってこよう”という場面ですよ……」
ははは、と笑いながら私達はミンティナ殿下の元に向かった。
ミンティナ殿下はかなり苛立っていた。
その怒りのオーラが怖くて、実はさっきから誰一人として挨拶に向かった者はいない。
なので、挨拶に向かう私達を猛者が現れた! というような目で他の人達は見ていた。
「王女殿下、ご無沙汰しております。ご機嫌いか……」
「……煩いわよ! ご機嫌いかがですって? そんなの見れば分かるでしょう!! 最悪よ、さ・い・あ・く!」
挨拶を遮ってのこの態度。かなり荒ぶっている。
(王女殿下なのに、こんな姿を周囲に見せたらどう思われるのかも、分からなくなっているのかもしれない)
「殿下、王女殿下ともあろう方がそのような態……」
「黙りなさい! ディライトのくせに! わたくしに偉そうに意見を述べるなんて許される事ではな……」
「いいえ、殿下。その言葉、後で後悔する事になりますよ?」
「…………え?」
ディライト様が含みを持たせてそう言うと、ミンティナ殿下の顔色が変わる。
「あなた……ディライトのくせに……! あの時のお兄様を蹴落として王位継承を狙う言葉は本気で言っていたというの!?」
「当然ですよ。あの場で嘘をつく必要がどこにあります?」
「あぁ! そうなのね? つまりその為に、そこの悪役女と婚約を。おかしいと思っていましたの……よ…………ひいっ!?」
ディライト様が無言で睨み、その顔を見たミンティナ殿下は更に脅えだした。
「ミンティナ殿下。訂正してください」
「な、何をですの……」
「決まっていますよ、悪役女です。俺の大事な愛するシャルロッテをそう呼ぶ事は許さないと申し上げたはずです。あぁ、どうやら目の検査は受診しなかったようですね?」
その言葉にミンティナ殿下はカッとなる。
「あ、当たり前でしょう? わたくしはそこの女など……」
「シャルロッテを侮辱するな!」
「……ひっ!?」
「前にも言った! 俺はシャルロッテを愛している!!」
ミンティナ殿下は誰かにこんな風に怒鳴られる事は普段から無いのかもしれない。
“何で怒鳴られなくてはならないの?”という顔をしている。
そんなミンティナ殿下の様子を見ながらディライト様は、小さなため息を吐いた。
「以前はここまで愚かでは無かったのに。よほど、プリマデント男爵姉弟に影響を受けたんだな」
「はっ! そうよ! マルセロ。マルセロはどこ? 何でいないのよ!?」
ミンティナ殿下は、マルセロ様の名前を聞いてハッとしたように取り乱す。
「もう、何日も会ってない! こんなの初めてよ……今日だってマルセロの為のパーティーなのに! 何で来ないのよ!?」
(いえ、居るんですけどね)
変装したマルセロ様は誰からも気付かれていない。
真っ先に目に入るあの特殊な髪色を封印するだけでこんなにも違うのかと正直驚いた。
あれだけ格好良いと騒がれていた容姿も、髪色あっての事だったのか、マルセロ様はありふれた色に変更させただけで……“普通”のどこにでもいそうな人になった。
(今なら魅了とやらの力を使っても効き目薄そう)
「……ミンティナ殿下。残念ながらマルセロ・プリマデント男爵令息は二度と貴女の手を取る事はありません」
ディライト様がきっぱりとそう告げる。
「……はぁ!? 何を言っているの!? 冗談はやめなさい!」
「いえ、冗談などでは……貴女は“真実の愛”の相手を失いました。残念ですね」
「ふざけないで! どう……」
ミンティナ殿下が更に大きな怒鳴り声をあげようとしたその時、その声に被せるかのようなもっと大きな声が会場内に響き渡った。
「待ちなさいよ! ────ちょっと今の話、どういう事よ!?」
(……来た!)
その声の持ち主は、もちろんマルセロ様の姉、イザベル様。
以前とは違い、お互い極力触れたくない……そんなギスギスした雰囲気を醸し出しながらジョーシン様のエスコートを受けて会場へと入って来た所だった。
「……これで揃ったな」
ディライト様が私の横で小さくそう呟いた。
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