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32. 悪役にされた令息は、王女の言う“真実の愛”を試してみた
しおりを挟むディライト様の言葉に私も頷く。
会場にこっそり潜ませているマルセロ様を含めて全員揃ったわ。
(今日で全て終わらせる!)
私は顔を上げて何やら騒いでいるイザベル様の方を見る。私と目が合ったイザベル様はキッと私を睨みながら叫んだ。
「今のはどういう意味? マルセロは何処にいるの!?」
「そうよ! マルセロはわたくしの“真実の愛”の相手よ? どういう事なのよ!」
そんなイザベル様の声に加えてミンティナ殿下まで混ざって来る。
「だから、そのままの意味ですよ」
ディライト様が私の代わりに二人に向かってそう答えてくれたけれど、当然の事ながら、二人はそれで納得などするはずがない。
「マルセロが帰って来ないのは、てっきり……」
「……てっきり、何ですか? イザベル様」
「……っ!」
私がにっこり笑って聞き返すと、イザベル様は言葉に詰まる。
本当は、マルセロ様は我が家を何度も訪ねていたのだから、行方を知っているんでしょう!? そう問い詰めたいと思っているはず。
(残念ね……)
でも、それをここで口にすると、何故、マルセロ様が縁もゆかりも無い、格上の我が家を訪ねるに至ったか追求される事になる。
(こんな所で言えるわけないものね? マルセロ様は私を誘惑する事が目的で屋敷に押しかけていた……なんて)
適当な理由をでっち上げられ無かったイザベル様は悔しそうに口を噤んだ。
「チッ……上手くやったとばかり思っていたのに……しくってたのね、あの役立たず……」
イザベル様は舌打ちしながらとても小さな声でそう呟いた。
だけど、その声を拾ったミンティナ殿下も黙ってなどいられない。
「!? イザベルお姉様! 今のはどういう意味ですの!?」
「え……そ、それは」
「マルセロに何をさせていたんですの!? そう言えばマルセロは先日の舞踏会の後からずっと様子がおかしかったわ!」
ミンティナ殿下がイザベル様を睨みながら叫ぶ。イザベル様はミンティナ殿下から攻撃を受けるとは思っていなかったのか明らかにたじろいだ。
それは、イザベル様の“魅了”の力の効果もあり仲の良さそうだった二人の間に確実にヒビが入った瞬間でもあった。
「よ、様子がおかしかった、ですか?」
「そうよ! わたくしといる時も、時折、ボーっとして何かを思い出しては“ふわふわ”などと口にしていたわ!!」
(────ん? ふわふわ?)
最近、よく聞くようになったその響きに内心で首を傾げる。
「……ははは! ふわふわ……と口にしていた、ね……」
「ディライト……様?」
ミンティナ殿下の“ふわふわ”発言を聞いたディライト様から黒いオーラが出始めた。
「プリマデント男爵令息……あの男はやはりシャルロッテに懸想していたようだな」
「何ですって!? マルセロが悪役お…………うっ! ア、アーベント公爵令嬢に懸想していたですって!?」
ディライト様の言葉を拾ったミンティナ殿下がとても王女とは思えない顔を私に向ける。
ちなみに悪役女と言いかけて言葉が詰まったのはディライト様に睨まれたから。
「マルセロを誘惑するなんて! 本当にとんでもない女ですわ! お兄様もこんな女と婚約破棄して正解でしたわ!!」
「ミンティナ殿下、それは大きな勘違いですね。プリマデント男爵令息の方がシャルロッテを誘惑しようとしていたのですから」
「何ですって!?」
ミンティナ殿下の形相がますます凄いものに変わる。
同時にディライト様のこの発言は会場内の人達も大いに騒つかせた。
「あ、何で……どうして……や、バレ……」
その中でイザベル様が青白い顔のまま、何かをブツブツ呟きながらひたすら首を横に振っている。
「マルセロはどうして、わたくしがいるのに他の女……よりにもよってアーベント公爵令嬢を誘惑する必要があるというの!?」
「……殿下。それは、そこで青白い顔をしている双子の片割れに聞いたらどうですか?」
ディライト様がしれっとした顔で誘導する。
「……イザベルお姉様に?」
「はい。そこの女が、全て知っていますよ」
ディライト様はにっこりとした(黒い)笑顔でそう言った。
その言葉でミンティナ殿下は再び、イザベル様の方に顔を向ける。
顔を向けられたイザベル様は、ますます顔色が悪くなっていく。
「イザベルお姉様、何か知っていますの!?」
「そ、それはー……」
「どうしてわたくしの目を見てくれませんの? 何か疚しい事でもあるんですの?」
「……っ!」
答えてくれないイザベル様に業を煮やしたミンティナ殿下が叫ぶ。
「あぁ、もう! マルセロは何処なの!」
「……殿下、一つ確認させて頂いてよろしいでしょうか?」
「な、何よ……!」
ディライト様がますます(黒い)笑みを深めながら言った。
「殿下とプリマデント男爵令息……マルセロ殿は“真実の愛”で結ばれているんですよね?」
「ええ! そうですわ! 初めて会った時に“この人”だと分かったわ。だから、あなたとは……」
「あぁ、俺の事はお気になさらず。では、殿下……“真実の愛”ならば、たとえ相手がどんな姿でも、何をしていても分かるものですよね?」
「……そんなの当然でしょう! “真実の愛”ですもの!」
その言葉を聞いたディライト様が、嬉しそうににっこりと笑う。
(く、黒いわ……ディライト様!)
「そうですか。では、先程はプリマデント男爵令息とは二度と会えないと申しましたが、実はですね、彼は今、この会場にいるんですよ」
「えっ!?」
ディライト様のその言葉にミンティナ殿下を始め会場内が騒然となる。
どこだ、どこだ? と辺りをキョロキョロしている人もいる。
「“真実の愛”があるなら、当然、殿下は彼を見つけられますよね?」
「当たり前ですわ!」
ミンティナ殿下は得意そうな表情で即答した。
「では、その“真実の愛”とやらでどうか彼をこの会場の中から見つけてみせてください」
「わたくしが?」
「そうですよ。実はマルセロ殿は理由あって今、俺の元にいるんですよ。殿下が“真実の愛”でマルセロ殿を見つけられたなら……彼は殿下にお返ししますよ」
「本当ね?」
「はい、見つけられたなら。その時は」
「分かったわ! そんなの簡単ですわ!」
そう言ってミンティナ殿下は自信満々に会場内を見渡した。
───
「ディライト! どういう事ですの!? マルセロが何処にもいないわ!」
数分後、会場内の人物をチェックし続けていたミンティナ殿下が抗議の声をあげる。
「ディライト! お前、わたくしに嘘をついたのでしょう?」
「いいえ。本当に彼は会場にいるのですが……まさか、まだ見つけられない?」
「……っ! そんな事があるはずないでしょう!?」
そう言ってミンティナ殿下は、顔を真っ赤にして怒りながら会場内を歩き回って“真実の愛”の相手であるマルセロ様を必死に探す。
(あぁ、この様子だと絶対に無理ね)
ミンティナ殿下は、さっきからもう何度も何度もマルセロ様の前を通り過ぎている。
ちなみにイザベル様もずっとその場でキョロキョロしているけれど、見つけられないらしい。
(双子に絆なんてないのね……)
変な力を授かるくらいだから、よほど深い絆で結ばれているのかと思ったけれど、そんな事は無いらしい。
「マルセロ……どこ?」
あれだけ豪語していたはずのミンティナ殿下のこの様子を見た会場内のは人達は、
──あんなに自信満々だったのに。
──公務をさぼって常に側に侍らかす程だったのに。
──どうやら“真実の愛”は薄っぺらそうだな。
と、嘲笑し始めた。
「もう! どうしてなの!?」
と、苛立っているミンティナ殿下の元に一人の男性が近付く。
「あの、王女殿下……すみません」
「……?」
許可もなくわたくしに話しかけるなんて誰よ!? と言わんばかりにその声に振り向いたミンティナ殿下はその話しかけて来た相手を見るなり顔を歪めた。
「……使用人の分際でよくもわたくしに話しかけようと思ったわね! 邪魔よ! わたくしは忙しいのよ! あっちに行きなさい!!」
「……!」
そうして虫けらを見るかのような目で“その人”を追い払った。
「…………です」
追い払われた人がおそるおそる再び口を開く。
「は? 煩いわね? まだ、何か用かしら? 二度とわたくしに近付けないようクビにしてあげましょうか?」
「いえ………………僕ですよ、ミンティナ殿下」
「は?」
「僕がマルセロ・プリマデントです……」
「!?!?」
目の前の人物から告げられたその言葉にミンティナ殿下の目は大きく見開かれ固まった。
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