【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea

文字の大きさ
12 / 18

憧れていた二人 (シルベスト殿下(弟王子)視点)

しおりを挟む

「えっと……どうしてあなたがここに?  ─────シルベスト殿下」
「こんばんは、シャロン義姉さん」

  本日、離宮に移った義姉になるはずだったその人は、訪ねて来た自分の姿を見て驚いていた。

  (訪問者は兄上だと思ったのかな……?)

  突然、義理の弟になるはずだった自分───第二王子、シルベストが訪ねてきたのだから当然か……
  シャロン義姉さんがランドゥーニにやって来て挨拶をしてから自分達は時々、お茶をする間柄だ。
  自分は素直で可愛らしくて努力家で……何より兄上の事を懸命に想っている未来の義姉を気に入っていた。
  この方が義姉になる日が楽しみで、気が早いけれど“義姉さん”と呼ばせてもらっていた。

「……兄上でなくてすみません」
「え?」

  つい口から出てしまったその言葉に“しまった”と思った。
  泣いてしまうだろうか?  それとも、こんな環境に追いやった兄上に対して怒っているだろうか……
  そう思ったのに。

「ふふ、どうしてシルベスト殿下が謝るんですか?」

  シャロン義姉さんの反応はどちらでもなかった。ただ、静かに微笑みながらそう言った。
  それで分かった。この人は自分の運命を受け入れてしまったんだ、と。

「エミリオ殿下が来るわけな……いいえ、殿下は来たら駄目なんです」

  それでも、窓の外を見ながら寂しそうに呟くその姿を見て、自分の方が泣きそうになった。

  (どうしてこうなった?)

  あんなに幸せそうで、政略結婚だなんて感じさせない程、お互いを大切に想い合っていた二人だったのに……自分はずっとそんな二人に憧れを抱いていたのに!

  (だけど……どうして……こんな事になってしまった?)

  こっそり部屋を見回す。
  離宮でシャロン義姉さんの与えられた部屋や待遇を見て思った。

  (あぁ、きっと兄上は諦めていないんだ)

  そう思った。
  兄上は父上に殴られていたのに、それでもシャロン義姉さんを守ろうとしているんだ。



  
  レヴィアタンが奇襲を仕掛けて来た事が分かった後の事だった。
  自分は偶然、父上と兄上の会話を聞いてしまった。

『エミリオ、レヴィアタンの王女とは婚約破棄をして今すぐ国に送り返せ』
『嫌です』 

  兄上は即答していた。

『馬鹿を言うな!  こたびの奇襲にはレヴィアタンの王女だって裏で───』
『シャロンは何も知りません!  今回のことに誰よりもショックを受けているのが彼女です!』

  シャロン義姉さんが奇襲の話を聞いたショックで倒れてしまって目覚める前、兄上は時間がある時は何度も何度も義姉さんの元に通っていた。
  
『だとしても、このままあの王女をお前の妃に据えることは出来ん。それくらい分かっているだろう?』
『……』

  兄上が悔しそうに唇を噛む。それでも兄上は反論した。
  
『ですが、父上!  今回のレヴィアタンの奇襲には不審な点が!  ……これは絶対、裏に何か……』
『黙れ、エミリオ!』

  呻き声と共に人が倒れこむような音と、ガシャーンと何かが割れる音……
  兄上が殴られたのだと分かった。

『反論は許さん!  これ以上逆らうならあの王女を今すぐ処刑しても構わんのだぞ?』
『なっ!』
『送り込んだ王女の変わり果てた姿を見たレヴィアタンの王はどうするだろうな?』
『それだけはやめてください!  シャロンの……命だけは……どうか……』
『ならすべき事は一つだ、エミリオ』

  父上は兄上の反論や言い分を何一つ聞こうとせずにそう命令すると、一方的に話を打ち切っていた。



  (兄上はシャロン義姉さんを返す振りをしてここに匿うつもりなんだ……)

  シャロン義姉さんが離宮に移ったこと。
  国に帰る準備をしている間だけ、身を移す期間限定の滞在だと自分は聞いていた。
  だが見るからにこの部屋は……

  (兄上……あなたは)

  本当に兄上はシャロン義姉さんの事が好きなんだろう。
  父上に反論する姿も、こうして命令に逆らおうとする姿も始めてみた気がする。

「シャロン義姉さん……」
「シルベスト殿下、私はもうあなたの義姉ではないわ」

  シャロン義姉さんは悲しそうに目を伏せながらそう言った。

「いえ、あなたは今でも私の義姉です。私はそう思っています」
「え……?」

  兄上があなたを諦めない限り、シャロン様、あなたは義姉です───そんな意味を込めて口にしたけれど、残念ながらその意図は伝わっていなさそうだ。

「シャロン義姉さん」
「はい」

  兄上はきっと一番大事な事は伝えていないのだろう。
  自分がそれを代わりに口にするわけにはいかない。
  今、言えることは───

「兄上を……兄上のことを信じて貰えませんか?」
「……信じる?」

  シャロン義姉さんは不思議そうに首を傾げた。

  兄上はあなたの事が大好きなんです。
  今もきっとあなたを救うために……動いているんです!

  (父上は聞こうとしなかったけれど、兄上はレヴィアタンのこの突然の奇襲には何か裏がある……そう言いかけていた)

「お願いします!  兄上を……どうか」
「シルベスト殿下……」

  シャロン義姉さんは最後まで戸惑いの表情をしていたけれど、「信じる事は出来ない」とは言わなかった。

  (シャロン義姉さんだって兄上の事が好きなはずだ!)

  きっとシャロン義姉さんも心の奥では兄上の事を信じたいと思っているはずだ。
  だから、兄上がこの奇襲の裏に隠されてるものを明らかにすることさえ出来れば……そして、シャロン義姉さんが兄上を信じて待っていてくれれば……
  二人が再び結ばれる未来がきっと来る……!

  ───そう信じていた。心から願っていた。
  
  でも、それは……
  自分のその抱いた希望はそれから数日後、呆気なく壊された。

  ───あの“紅い瞳”をしたイラスラー帝国の王女のせいで。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった

白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...