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第1話 未来の王太子妃が決定しました
しおりを挟む王宮主催のパーティー会場。
今日ここに集まっている人々は今か今かと“その発表”を待ちわびていた。
今日はこの国の王太子である、アラン殿下の婚約者が発表されるパーティーだ。
いったい何処の令嬢が王太子妃の座を射止めたのか。
やはり、当初から筆頭候補と噂のご令嬢か、はたまた、候補者の中でも抜群の美貌を誇る令嬢か。
集まった貴族達はそんな想像と噂話に花を咲かせていた。
そんな会場の中心に、私、エリーシャ・マクロイドは立っていた。
次から次へと声を掛けられるのは、私がその殿下の婚約者の筆頭候補だから。
「エリーシャ様! 今日の装いも素敵ですわ」
「……ありがとう」
「こんにちは、エリーシャ様!!」
「こんにちは」
「エリーシャ様……」
私はマクロイド公爵家の娘。
公爵家の令嬢という家柄、容姿、教養……今、年頃の娘で、全てにおいて私の右に出る者はいない。
だからこそ誰もが、私がアラン殿下の婚約者に選ばれると思っている。
なので今のうちに擦り寄っておこうという魂胆が見え見えだ。
「……はぁ」
(もう、無理! 作り笑いし過ぎて頬がつりそうよ。お願いだから早く終わってくれないかしら?)
私は人知れずこっそりため息をついた。
そしてようやく、パーティー開始の時刻になり、国王陛下、王妃、そして本日の主役であるアラン殿下が会場に入って来た。
皆一斉に頭を下げ彼らを迎える。そして会場内の緊張も一気に高まった。
……私の足も微かに震えているのは緊張のせいかしら?
この、婚約者発表の結果は分かっているとはいえ、やはり発表の瞬間を迎えると思うと緊張してしまうらしい。
まさかとは思うけど、ここで大どんでん返しなど起きないでよ?
そんな事を願っているからかもしれない。
陛下の挨拶が終わり、アラン殿下が一歩前に進み出た。
会場もいよいよだ! という空気に包まれる。
そして、ついにアラン殿下が口を開いた。
「───私の婚約者は、マリアンナ・ミッドランド伯爵令嬢に決定した事をここに宣言する!」
アラン殿下のその発表に、多くの人達が唖然呆然とする。
「え? ミッドランド伯爵令嬢?」
「候補にいたか?」
「確か1年ほど前に候補に加わったばかりだったような……」
「……どういう事だ!? マクロイド公爵家の令嬢はどうなったんだ??」
本来なら真っ先に祝福の声が上がるべきなのに広がるのは動揺ばかり。
私の側に陣取っていた人達が、1人また1人と青白い顔をしながらそっと離れて行く。
(……あらやだ。面白いわ。何て分かりやすい人達なのかしら)
ふふ、私が婚約者だと発表された後、すぐにお祝いの声をかける為に側にいたのにね。
彼らからは当てが外れてかなり動揺しているのが伝わって来た。
「さぁ、マリアンナ。私の隣に来てくれるかい?」
「は、はい!」
そんな会場の空気も諸共せず、アラン殿下は件の婚約者となった令嬢に声をかける。
ミッドランド伯爵令嬢──マリアンナ様は、殿下からの呼び掛けに嬉しそうに返事をし、照れくさそうに殿下の隣へと並んだ。
何とも初々しい2人だわ。
壇上で、うっとりと見つめ合う2人。
その姿は本当に互いを想い合う幸せな恋人同士そのもの。
そんな2人を見ながら私は過去を思い出してしまい胸がチクリと痛む。
そうね。かつての私もあんな風に──……
(だけど本当に良かった。──あの日から今日まで本当に長かったわ……)
そんな物思いにふける私の耳には、近くの令嬢達のヒソヒソ話が聞こえてきた。
「ビックリだわ。まさか、選ばれたのがエリーシャ様ではないなんて!」
「筆頭候補でしたのにね……」
「エリーシャ様もショックをお受けになってるのでは? だって絶対、ご自分が選ばれると思ってたはずですもの!」
こちらをチラチラ見ながらそう話す令嬢達。
ヒソヒソ話は聞こえないようにするべきだと思うのよね。
だけど今、このような会話は会場内のあちらこちらで起きているに違いない。
だって──誰もが思っていた。
婚約者に、未来の王太子妃に選ばれるのは、私、エリーシャ・マクロイド公爵令嬢なのだと。
チラリと会場内にいるお父様とお母様の様子を見る。
当然、両親も私が選ばれると思っていた。朝から嬉し顔で「ようやく決まるな! これで我が家のこれからも安泰だ!」などと言っていたものね。
なのに、お父様とお母様の顔色は、真っ青を通り越して、もはや真っ白。
呆然としたまま突っ立っており、周囲の人々はそんな2人に気の毒そうな顔を向けつつも、私にしたのと同じ様にやはり距離をとりながら離れて行く様子が見てとれた。
そんな様子を見ながら私は、ふぅ……とため息をつく。
……これはこれで見ていて大変面白い。
けれど今はこの展開に呆然としている両親だけど、おそらく気持ちを持ち直した後、2人が私に対して怒り狂う事は目に見えている。
エリーシャを王太子妃に!
3年間その言葉だけを言い続けてきた人達だから。
私が王太子妃に選ばれなくて、さぞ悔しいに違いない。
(でも、私、両親のその顔がずっと見たかったのよ)
また、先程の丸聞こえのヒソヒソ話をしていた令嬢達もそうだけど、きっと会場にいる人達は、みんな私が婚約者に選ばれなかった事を悔しがっていると思っているのでしょうね。
そのため、私が何か言い出さないだろうかと、チラチラと気にしながら様子を伺い、こちらに何度も何度も視線を向けられているのが分かる。
(誰がそんな事を思うものですか!!)
婚約者に選ばれなかった文句? 不満? 悔しさ?
そんなものあるはずが無いでしょう?
だって、私は3年間苦渋に耐えながらずっとこの瞬間を待っていたのよ。
──私以外の令嬢が、婚約者に選ばれるこの瞬間を!
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