【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea

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第4話 初恋が壊れた日、そして私の決意

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『君との関係は一時のものと決めていたのだろう。王太子妃になりたいと娘が言っている。だから娘とは別れてくれ』

  私の知らない内に、両親がフィリオにそう告げていたと私が知ったのは、フィリオと無理やり別れさせられてから、既に1年が経ったあとだった。


─────……


  アラン殿下の婚約者候補の1人として私が決定したと発表された直後、当然フィリオは我が家に事の次第を問い詰めにやって来た。

「エリーシャに会わせて下さい!  せめて話だけでもさせて下さい!!」
「くどい!」
「お願いします……!」

  フィリオの悲痛な声は部屋ここまで聞こえていた。

  今すぐ部屋ここを飛び出して私も話をしに行きたい。
  これは私の意思では無いのだと。
  私はフィリオの事が好きなのだと!


  ──なのに。


  私は、候補者に決定したと告げられた日から部屋に閉じ込められていた。
  おそらくフィリオの行動を見越していたのだと思う。
  外から鍵をかけられてしまい、私自身ではどうする事も出来ない。

  (そうまでして、私とフィリオを会わせたくないの……?)

  お父様とお母様は、とにかく私とフィリオを一切会わせようとしなかった。
  会わせてしまえば私の気持ちを無視して事を進めたと分かってしまうからだろう。

  無力で逆らえず、何も出来ない自分がただひたすら悲しくて、私は毎日部屋で泣く事しか出来なかった。

  それから何度もフィリオは我が家に訪ねて来てくれていたけれど、両親は私と会わせる事を許さないまま、そのうち彼の訪れは無くなった。


  そうして実感した。
  ……私達の関係はこれで終わってしまったのだと。


  その時の私は、両親が私を無理やり候補者になる事を受諾させた、とフィリオに説明してくれていたのだとばかり思っていた。それでフィリオは受け入れる事しか出来なかったのだろう、と。

  今、思えばそれは甘い考えだった。

  あの両親がそんな良心的な心を持っているはずが無いのに。

  私は、本当に馬鹿だった。







  無理やり事を進められた私はフィリオと過ごした時間を思って毎日涙を流していた。
  当人同士が話をすることなく、半ば強制的に関係を終わらされてしまったせいで、気持ちの切り替えが出来ずにいたせいだ。


  それでも、王太子妃教育は候補となった以上、逃げる事は許されない。
  王太子妃になりたいわけじゃないのに──
  私が好きなのは今でもフィリオだけなのに──


  心と身体が追いつかないまま、気が付くと1年が経っていた。
  この頃の私は、やる気が起きず王太子妃教育にさっぱり身が入っていなかった。





  そんなある日。
  それは本当に偶然だった。
  今までどんなに願っても、会う事が無かったフィリオと王宮で鉢合わせた。

  これまで不自然なくらい私とフィリオは全く顔を合わせる事が無く、たまに通う学院内でも王宮内でも会う事がない1年だったのに……




「……!」
「っ!」


  まさかの遭遇にお互いが動揺し、しばし無言の時間が流れる。
  私はとっさに俯いたまま、顔が上げられないでいた。

「……君は変わらず、元気そうだね」

  そんな無言の時間を破ったのはフィリオの一言だった。
  私は慌てて顔を上げる。
  そして、顔を上げた事を瞬時に後悔した。

  何故なら、彼──フィリオの表情は冷たく、目も全く笑っていない。

「……っ!!」

  もはや、そこに居たのは、1年前まで自分をいつも愛しさ溢れる目で見つめてくれていた彼ではなかった。
  両親に逆らえず、婚約者候補を辞退出来なかった自分がどれだけ彼に憎まれているのかを実感させられた。

「……君は俺を捨ててまで、王太子妃の座が欲しかったんだろう?  その割にはあまり身が入っていないみたいだけど。まぁ、せいぜい君が王太子妃に選ばれるよう俺も遠くから祈ってるよ、マクロイド公爵令嬢」
「……え?」

  フィリオを捨ててまで欲しがった王太子妃の座?
  彼はいったい何を言っているの?

  背中に嫌な汗が流れる。

  まさか……!

「……私が……いつ、王太子妃の座を望んだ、と……?」
「今更、何を言っているんだ?   1年前にマクロイド公爵からそう聞いたよ。あの時君が俺にそう伝えてと頼んだんだろ?  別れるにしてもまさか最後まで君と話が出来ないなんて驚いたよ。まぁ、それも仕方ないよね?  本当の狙いはアランの妃になる事で、俺との関係は君にとっては遊びのようなものだったみたいだし?」
「!?」

  ガンッと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
  もはやフィリオが何を言っているのか、全く理解出来なかった。

  ただ一つ分かったのは……フィリオが別れに至る経緯を誤解して受け止めている。
  それだけだった。

「それじゃ。せいぜい頑張って。2年後に君にとっていい結果が聞ける事を期待してるよ」
「……」

  動揺して震えている私の横を彼は刺々しい目を向けて去って行く。
  大好きだった、あの赤い目に冷たく射抜かれた事がショックだった。

  すでに、彼から発せられる言葉も、表情も何もかも私の知っていた大好きだった人のものでは無くなっていた──……





  そしてその夜、私は両親を問い詰めた。
  1年前にフィリオに対して両親がいったい何を告げたのか。私は知らなくてはいけない。

「『君との関係は一時のものと決めていたのだろう。王太子妃になりたいと娘が言っている。だから娘とは別れてくれ』と言ったがそれが何だと言うんだ?」

  お父様は悪びれもせずそう口にした。

「っっ!  本当にそんな事を……?」
「当たり前だ!  そうでも言わんとローラン公爵の息子は毎日毎日しつこかったからな!」
「そうよ!  毎日毎日エリーシャに会わせろってしつこかったわ。だから言ってやったのよ。娘はあなたの事なんて本当は好きじゃなかったのよって」

  お母様までそんな事を言い出した。

「!!」

  許せなかった。
  そんな嘘をついたお父様とお母様が。

  だけど、1番許せなかったのは自分自身。
  両親に逆らう事が出来ず、殿下の婚約者候補となる事を受け入れてしまった自分。
  フィリオと何一つ話す事も出来ないまま終わりを迎えてしまったこの状態。

  (これは、きっとただ泣くだけで何もしなかった私への罰なんだわ)

  フィリオはきっと私を許さない。1年前、私は酷く彼を傷つけた。
  今更、何を告げても遅い。
  失った時間も戻らない……

  私は、唯一愛した人に憎まれたまま生きて行くしかない。

  (だけど……)

  1番許せないのは自分自身だけど、両親に対しての怒りの感情も捨てきれない。

  (ならば……!)

  両親が望むような誰もが認めるような王太子妃候補になってやる!


  だけど。
  そのせいで、最終的に王太子妃の座を射止めてしまったとしても私は絶対にそれを受け入れない。
  今度こそ拒否を貫いてみせる。
  それこそ、この先の自分自身の人生を全てを賭けてでも。

  (だって、私にはもうこれ以上失うものなんて無いのだから)

  王太子妃の座に娘がつくだろうと信じて疑わない両親に、王太子妃の座につけない私を見せてやる───



  それが、私が密かに決意した復讐だった。



  そこから先の1年間、私はこれまでのやる気の無さが嘘のように王太子妃教育に全力を注いだ。
  その成果もあり、1年経つ頃には完璧な令嬢と呼ばれるようにもなった。

  そして名実共に婚約者の筆頭候補へと上り詰めた。
  傍目には王太子妃になりたくて必死な令嬢に見えた事だろう。
  おかげで両親も、満足そうだった。


  ……このまま行けばおそらく私が選ばれる。
  だけど、私は絶対に受け入れない。
  不敬と言われようとも、最終的にどんな罰が下されようとも構わない。

  けれど、絶対に拒否をすると決めているとは言っても、本音は別の令嬢が選ばれてくれればいいのに。
  そう思わずにはいられなかった。

  だって、両親あの人達に辞退する姿を見せるのもいいけど、やっぱり“私が選ばれない”姿を見せて悔しがる顔の方が見たいんだもの。


   ──そして、王太子妃候補決定まであと1年となった頃、マリアンナ様が現れた。


  彼女に惹かれていくアラン殿下を見ながら私は心の中で歓喜していた。

  きっと1年後に、選ばれるのは彼女だ。
  妃教育も始まったばかりだし、家格も伯爵家だけど、アラン殿下は絶対に彼女を選ぶ!
  私は心のどこかでそう確信していた。


  (これで間違いなくお父様とお母様の屈辱に歪む顔が見られるわ!)


  ──その見たかった顔と引き換えに失うものも沢山あるけれど。


  まず、王太子妃になれない私を2人は絶対に許さない。
  おそらく、家からは絶縁されるわね。

  今後、貴族の令嬢として生きていく事は出来ない。
  ならば身の振り方も考えていく必要がある。

  (貴族令嬢でいることに未練なんて無いわ)

  たった1人の愛した人と結ばれる事が叶わないのなら、こんな肩書きはいらない。
  むしろ、この貴族の世界に身を置いたまま、いつか彼が他の女性の手を取る姿を見ることの方が苦痛だから。

  (……国を出る方向で考えよう。そして、1人で生きていくにはどうすればいいのか考えなくちゃ……!)




  ──こうして、私は苦痛でしかない3年間を過ごし、今日という運命の日を迎えたのだった。



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