【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea

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第5話 勘当を言い渡されました

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  冤罪でも何でもフィリオ、あなたが望むならどんな罰でも受け入れる──
  そう思ったのに。

  結局、その日は処分保留という事で私は一旦、家に帰る事になった。

  ──何故、処分保留なのかと言うと、
  被害者であるはずのマリアンナ様が、アラン殿下とフィリオに対して突然「エリーシャ様は犯人じゃありません!!」と怒り出したから。
  身体が震えていたのは、虐められた事を思い出して震えていたのではなく、私を責め出した事に対する怒りの震えだったらしい。

  (何故、マリアンナ様は私を庇うのかしら?)

  そんな疑問が浮かんだけれど、マリアンナ様は相当興奮されていて、

「エリーシャ様もエリーシャ様です!  やってもいない事を認めるなんて何を考えてるのですか!  確かに私は学院内で陳腐な嫌がらせを受けていましたが、私の知ってるエリーシャ様はそんな事する人じゃありません!」

  と、私まで怒られてしまった。

  アラン殿下とフィリオ、そして私までもがマリアンナ様に怒られるという事態になってしまい、会場内も“結局、何だったんだ?”という空気に包まれた。




  


「申し訳ないが……明日、迎えを寄越すからもう一度王宮に来て欲しい。そしてそこで改めて話を聞かせてもらえるだろうか?  本当にすまなかった……」
「アラン殿下……分かりました」

  一方的に、しかも公の場で疑いをかけた事を殿下とフィリオそれぞれに詫びられた後、殿下にそう言われたので私は頷いた。
  マリアンナ様が、絶対に黒幕は別の人だという主張を譲らなかった為、改めて調査を行うらしい。

  一応、調査を行った上で私が犯人と断定する証拠しか出なかったのに、意味があるのかな?  とも思ったけれど、よくよく考えれば犯人をこのまま野放しにするのは良くない事だった。
  
  (当たり前の事なのに……私も冷静では無かったわね……)

  明日、王宮に来た時はちゃんと話そう。
  信じてくれたマリアンナ様の為にも。
  そう決めた。



  


  そんなわけで、本日はこのまま帰宅するのだけど……
  けれど正直、問題はこの後だ。


「…………エリーシャ!  帰るぞ!」

  お父様の声だった。

  (これは、相当怒ってるわね……)

  当たり前よね。私が殿下の婚約者に選ばれなかっただけでなくこの騒ぎだもの。
  この人が怒らないわけが無い。

  (でもね、私は父親あなたの悔しそうな顔が見れてとても満足なのよ)

「……はい」
   
  (……だけど、屋敷に帰れば間違いなく怒られる)

  そう覚悟を決めて歩き出そうとした時、不意に腕を掴まれた。

「?」

  誰?  と思って振り返って私は心の底から驚いた。

  (フィリオ……!)

「…………な、何か?」
「え!  あ……すまない」

  動揺してしまって声が震えた。
  それはフィリオにとって無意識の行動だったのか、彼は自分自身の行動に驚いたかのように慌てて、私の腕を掴んでいた手を離した。

  (何なの……?  何でそんな顔をしてるの?)

  フィリオの顔は、さっき謝罪を受けた時と同じで何故か苦しそうな顔をしていた。
  

「何だか………………して」
「?」

  フィリオが俯きながら小さく呟いたけれど、何を言ったかは分からなかった。

  何より、さっきまで罪の追求されてた事を除けば、フィリオとこうして二人だけで会話する事が久しぶり。

  (フィリオと話が出来た……こんな、些細な事でさえも私は嬉しく思ってしまうんだわ)

  どこまでも未練がましい自分に呆れてしまう。

「いや…………何でもない。悪かった……」
「??」  

  どうしてかは分からないけど、その時のフィリオの顔が私の事を心配しているように見えてしまった。
  まさか、そんなはずないのに。
  …………これもきっと私の願望。


「おい!  もたもたするな!  エリーシャ!」

「は、はい!  あの、ごめんなさい、今日はこれで失礼するわ……」
「あ、あぁ……」

  様子のおかしいフィリオから離れて私はお父様達の元へと歩き出す。

「遅い!」
「申し訳ございません……」
 
  二人の元へ辿り着くと、お父様はひと睨みしてから私の腕を掴み、乱暴に引きずるようにして会場を後にした。

  フィリオに掴まれた時と違ってその腕はとても痛かった。
  



****




「ふざけるなっっっ!   お前という奴は!  この恥知らずがっ!!」
「……!!」

  屋敷に着くなり、お父様の平手打ちが頬に飛んできた。
  気性が荒いのは今に始まったことでは無いけれど、叩かれたのは初めてだった。

「そうよ!  しかも何なのよ!?  王太子妃になるどころか傷害事件の主犯だなんてっ!!」
「この恥知らず!  しかも王太子妃の座を奪った女に庇われやがって!!  どうせお前がやってたんだろう!  ……勘当だ!  もうお前のような奴は娘では無い。縁を切る!!」
「……」

  余りにも想像通りの事を言うので、思わず笑いそうになってしまった。

  思った通り。やはりこの人達は私を捨てる事に躊躇いなど一切無い。
  未来の王太子妃になれなかったあげく、令嬢に対する虐めの犯人だと追求されたのだから、この人達が容赦するわけが無いだろうと思ってはいたけど、ここまで予想通りだと逆におかしな気持ちになって来た。

「お前のような者、どこで野垂れ死のうと知った事か!  せいぜいあの世で自分のした事を後悔するがいい!  さぁ、今すぐ出て行けっ!」

  死ぬ事、確定ですか?
  そう思ったけど勿論、口にはしない。

  後悔?
  私は後悔なんてしない。
  王太子妃にはどんな事があっても……たとえ罰を受けてでもなるつもりは無かったし、この先も誰かと添い遂げるつもりだって一切無い。
  私が心を捧げたのは1人だけ。
  もう、成就する事の無いフィリオへの想いだけなのだから。


「……今すぐ出て行けと言いますが、殿下の話を聞いていましたか?  お父様」
「何だと?」

  私の言葉にお父様がピクリと反応を返す。

「明日私に迎えを寄越すから王宮に来るようにとの事でしたが?  殿下には私を追い出したと説明するのですか?」
「…………チッ!」
「何て口の減らない子なの……!」

  お父様は舌打ちをし、お母様はゴミを見るかのような目で私を睨む。

「ならば明日、王家からの迎えが来るまでは物置そこの部屋にでもいろ!  明日、迎えが来たらそのまま即出て行け!  二度とこの家に戻ってくるな!!」
「っ!  ………………はい」

  更にもう1発叩かれた。

  もはや、痛みなど感じない。
  本当にこの人達にとって私は娘などではなく、駒でしか無かったんだなと改めて思わされただけだった。





 

  帰宅するなり連れて行かれた応接間を出て、1人廊下を歩く。
  静かだな、と思った。
  使用人の姿が見えなかったので、お父様は私の前に姿を見せないように命令したのかもしれない。

  そんな事を考えながら与えられた物置部屋に入った。
  物置部屋故に窓も無く、もちろん身体をを休める為のベッドなんてものも無い。
  灯りをつけて、私は床に座り込む。
  貴族令嬢が床に直接座るなど本来なら有り得ないけれど、勘当寸前の私にとってはもはや些細な事だった。


「やっぱり勘当を言い渡されたわね……」


  王太子妃には絶対にならないと決意をしたあの日から、私はその後の自分の身の振り方について考えていた。
  けれどお嬢様として育てられた私が公爵家を出てやって行けるほど世の中は甘くない事が分かっただけだった。
  学院や王太子妃教育で受けた教養などあっても意味を成さないからだ。

  結局、頼る先は修道院しか無かった。
  行先も目処をつけた。公爵令嬢、更には王太子妃候補である特権が使える内に、ツテを使い隣国のとある修道院とこっそり連絡を取り、話はもう内々に済んでいる。
  基本、来る者拒まずの場所なので話は簡単だった。

  (後は無事に隣国に渡るだけ……)

  その先は、公爵家も王太子妃候補も……フィリオとも関わらない世界で生きて行く──
  そのつもりだったのに。

  (まさか、冤罪を着せられるとはね)

  放っておいても国を出るつもりだったのに。
  だけど、どうやらまだ国を出れそうにない。
  せめて、真犯人を見つけるまでは。


「……フィリオ」

  そうして私が思い出すのは彼のこと。

「……ふっ」

  最後の行動はよく分からなかったけれど、あの時、私を責めていた時の彼の歪んだ表情が全てを物語っている。
  何年経っても彼の中での私は憎悪の対象──なのだと。
  だから、彼の目の届く範囲に私は居てはいけない。

  私の知っている限り、彼に婚約者はまだいない。
  だけど、アラン殿下の婚約者が正式に決定した今、側近である彼も相手をそろそろ決めなくてはいけない時期のはず。
  そんな所に、かつての恋人がウロウロしていいはずが無い。
  ましてや、その女は酷い形で彼を裏切っているのだから。

  (フィリオ……私なんかに願われても迷惑でしょうけど、あなたの幸せを願っているわ)

  だけど、彼の選んだ女性を間近で見るのは、やっぱり辛くて耐えられそうにないから、もし、そんな人がいるのなら出来れば発表は私が国を出てからにして欲しいなとも思う。

「なんて我儘かしらね……」


  そんな事を考えながら痛む頬と身体を擦りつつ私はそのまま眠りについた。

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