【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea

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第15話 動き出した犯人

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  ───その日、事態は急変した。




「マリアンナ様が狙われた!?」

  フィリオが青白い顔をして私の部屋を訪ねて来たと思ったらそんな報告を聞かされた。

「アランと共に摂るはずだった食事に毒が盛られてた」
「!」
「毒味役が気付いたから二人は無事だ。マリアンナ嬢は部屋で休んでる」

  アラン殿下もマリアンナ様も無事だと聞いて安心はしたけれど……でも。

「嫌がらせの犯人の仕業なのかしら……」
「まだ、断言は出来ないが……」
「クレア様……もし本当に彼女が犯人なら……私も狙われる?」

   私のその言葉にフィリオは眉間に皺を寄せる。
   そして私の肩を掴み叫んだ。

「冗談じゃない!!  そんな事させるかっ!」
「……っ!」

  咄嗟に出たであろう言葉とは言え、フィリオが私を傷付けられるのは嫌だと思ってくれているようで泣きそうになった。

「フィリオは、私の事を憎んでて嫌いなくせに心配はしてくれるのね……」
「……は?」

  だから、私もついついそんな言葉を口にしてしまった。

「憎む……?  嫌い?」

  どうしてだろう?  フィリオが、私の言葉に困惑しているように見えてしまう。
  これは私の願望かな……??

「だってそうでしょ?  フィリオは3年前から私の事をずっと許せなくて恨んでる。それは別れのきっかけとなった真実を知っても変わらないわよね?」
「……!?  待て。エリーシャ?  何を言ってる……」

  フィリオが動揺しているのが分かった。
  何に動揺してるのかは知らないけど、もう私も止められない。

「私はもうフィリオにとっては消してしまいたい過去の憎い元恋人に過ぎないじゃない!  だって私と違ってフィリオにはもう他に大事な人がいるんだもの……宝飾店に通いつめて贈り物している人が!」

  思わずそう叫んでいた。

「……なっ」

  フィリオの反応が怖くて私は顔が上げられない。
  怒る?  怒鳴る?

  そんなフィリオが何か言おうと口を開きかけた時、部屋をノックする音が聞こえて、その言葉は遮られてしまった。

「フィリオ様!  王太子殿下がお呼びです!  至急とのこと!」
「あ、あぁ……今、行く」

  フィリオはそう言いながらも視線はチラチラと私へと向いていた。
  私は顔があげられず俯いたまま。

「……エリーシャ」
「なに?」
「……戻って来たら話がある。大事な話だ」
「……話?」

  その言葉におそるおそる顔を上げた。
  フィリオは怒るどころか悲しそうな……今にも泣き出しそうな顔をしていた。

  (何でそんな顔を……)

「……悪かった。俺達はもっと早くにお互い向き合って話をしなくちゃいけなかったんだ」
「フィリオ?」
「ずっと怖くて……向き合う事から逃げてた俺が悪い」


  フィリオはどこか苦しそうな顔をしたまま私の頬にそっと触れる。
  その手つきはとても優しかった。
  

「本当は……いつだってそんな顔をさせたかったわけじゃなかったんだ……」

  (え?)

「フィリオ様、早くして下さい!」
「あ、あぁ。今、行く!」

  あとではなく今、続きの話が聞きたいけれど時間がそれを許してくれない。

「行ってくる。エリーシャ……お願いだ。俺が戻ってきたら話を聞いてくれ……頼む」
「わ、分かった……わ」


  私は頷き、
「……ありがとう」とだけ言って出て行くフィリオの背中を静かに見送った。





「何だったの……?」

  部屋に取り残された私の口からはそんな言葉がもれる。
  話ってなんだろう?  正直、聞くのは怖い。


  ──3年前のあの日から嫌いでずっと憎んでた。

  ──誤解は解けたけど、もう過去は過去だ。俺は今大切に想ってる人が別にいる。


  なんて話を聞かされた時、私は正気でいられるかな?


  どうしてもそんな暗い方向に考えてしまう。
  けど……と、思い直して首を横に振る。

  マリアンナ様も言ってたもの。私とフィリオにはちゃんと話す事が必要だと。
  だから、覚悟を決めないと。

「でも、戻って来たら……」

  フィリオ、あなたの事が忘れられない、今でも好きだって伝えてもいいかしら?
  応えてもらいたいなんて思わない。
  ただ伝えておきたい、それだけ。
  ……それで、バッサリ振ってくれても構わないから。
 

  机の引き出しを開ける。
  その中には、ユリアが必死に渡してくれたあの髪飾りがしまってある。
  そっと取り出し、自分の髪に差した。


  (これはあの頃のフィリオの想い……今のフィリオは……)



「……」


  フィリオは気付くかな?  この髪飾りに。
  そして、どんな反応を見せてくれる?



  拒否? それとも……



  怖いけれど、どんな反応を見せられても私は受け止めないといけない。





****





  コンコン



  ───しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえた。

  フィリオが戻って来たのかと思ってドキッとした。

「──はい?」
「あぁ、エリーシャ。良かったわ。部屋にいたのね?  マリアンナ様があなたを呼んでるの。出てこれるかしら?」
「……」

  フィリオかと思ってドキドキしたけど、違ったわ。さすがに戻って来るのが早すぎるものね……
  訪ねて来たのは仕事仲間で王宮侍女の一人カレンだった。

「え?  でも、私」

  フィリオだって戻って来るし、私だって狙われるかもしれない立場なのだから一人で出歩くのは危険だと思うので躊躇う。

「マリアンナ様が呼んでるのよ!  どうしてもエリーシャに急いで話さなきゃいけない事があるからって!」

  まさか、毒の事で犯人に関する事かしら?
  それなら聞いておいた方がいい、のかな?
  でも、今はやっぱり出歩くのはー……

  そう思って断ろうとしたけれど、カレンは引かなかった。

「早く来てよー、今、王宮はバタバタしてるし、私も忙しいんだから!」
「ちょ、ちょっと!  カレン!」

  と、強引に部屋から連れ出されてしまった。





  マリアンナ様の滞在している部屋と私の部屋は距離も遠くない。
  無事な顔も見たいし、話だけ聞いてすぐ戻ればフィリオともすれ違いにならずにすむ、かな?
  もしかしたら、マリアンナ様の所にフィリオや殿下もいる可能性もあるし。

  なんて思いながらカレンに着いて行ったのだけど……向かってる先がマリアンナ様の部屋ではない気がして足を止めた。

「ねぇ、カレン。マリアンナ様は何処にいるの?  部屋はこっちでは無いわよね?」

  カレンはニッコリ笑って言った。

「さてね。私の役目はあなたをマリアンナ様の元に連れて行く事じゃないもの。私はあなたの事も邪魔だから消えて欲しいっていう願いを叶えようとしてるだけよ?」
「え?」

   ──クレア様?
  その名前に胸がドキッとした。

  

「ねぇエリーシャ、あなたクレア様の“お願い”断ったでしょう?」
「何を……」
「クレア様は、王太子妃になるマリアンナ様が憎いから消したいのよ。だからエリーシャにも協力して欲しかったそうなのに……あなた断ってしまったんでしょ?」

  それは、あの顔を合わせた時の……?

「バカよねぇ。素直に従っておけばこんな事にはならなかったのに。だからクレア様の為に消えてちょうだい、エリーシャ」

  カレンが酷く醜い笑顔を浮かべてそう言った。

「あなたは、この後マリアンナ様の毒殺未遂の犯人としてここから身を投げるのよ」
「は?  何、言って……」
「筋書きは簡単。マリアンナ様の教育係として接するうちに、“王太子妃”という立場に未練を感じてしまったエリーシャがマリアンナ様を排除しようと事を起こした。だけど、それがバレてしまい逃げられず身を投げる。私は様子のおかしいエリーシャを見かけて追求した人間役よ」

  何て無茶苦茶な事を言っているの!?

「そんな事、殿下は信じないわ!」
「信じる、信じないはどうでもいいのよ。今頃、マリアンナ様の毒殺未遂の犯人の証拠が出て来て、その犯人がエリーシャと分かって大慌てしているはずだし」

  カレンはニッコリ笑って言う。
  私の顔は真っ青になった。
  フィリオがさっき殿下に呼ばれて慌てて出ていったのはそういう事……!

「殿下達も酷いわよねぇ……あの密告書だって、わざわざ陛下達に直接届けてエリーシャを極刑にしてもらう手筈だったらしいのに台無しにされたそうよ」
「え?」
「あら、知らなかったの?  王太子妃の最有力候補として目をかけていた“エリーシャ様”のしたとされる証拠ばっちりの行いに怒り狂ってあなたを極刑にしようとした陛下達を止めるために、殿下はあの場を設けたのよ?  公の場で罪を問うからそれで勘弁してくれ、せめて命だけはってね。“エリーシャ様”は人知れず始末されるはずだったのに、計画が狂ったとクレア様は嘆いていたわ」
「……!」

  極刑?  陛下達の命令……?  始末?
  混乱していて頭がうまく回らない。

「どうせ、殿下もフィリオ様も今回もどうにかしてあなたを庇うに決まってるわ。だから、私が急いでこうしてここに来たのよ。本当は、もっと確実な場所で身投げさせたいけど仕方ないわよね。外には出れないし。まぁ、階段ここでも充分でしょ」

「!!」

  (──しまった!!  ここはっ!)

  カレンにわざと人気の無い階段ここに誘導させられたのだとようやく気付く。

「それじゃ、さようなら。エリーシャ。あの世でクレア様に逆らった事を後悔するといいわ」

  カレンは醜い笑みをさらに深めてトンッと私を突き飛ばした。

  (……あ)


  そして、そのまま私の身体は宙に投げ出された。



  (…………フィリオ)



  フィリオの話、どんなに辛い話でも構わないから聞きたかったな……
  でも、聞けそうにないや。
  それに、殿下にももう一度話を聞かないと……
  って、これももう無理かぁ。




  ───ごめんね、フィリオ……

  元恋人が変な死に方する事になって。
  変なダメージを負わないといいなぁ。
  でも、きっと新しく出来た大切な人があなたを癒してくれるわよね?



  (どうか、フィリオのこれからが幸せでありますように)




  こんな時まで私が心に浮かべるのは、最後までやっぱりフィリオの事だった───


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