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17. 伝わる気持ち
しおりを挟む──助けて! 私がそう求める相手はヒューズしか考えられなかった。
「助けて? ははは! 叫んでも無駄だ! ヒューズは来ない! 今頃シシリーと」
「それは絶対に無いわ!!」
私はヒューズを信じてるもの!
「はっはっはっ! どうだかな? さぁ、オリヴィア。もう強がるのはやめて大人しく私を受け入れて着いて来るんだ!」
「嫌だって言ってるでしょう!? ……痛っ……!」
バカ王子は声を荒らげると再び私の腕を掴んだ。
痛い、これ以上の抵抗は無理かも……
と、諦めかけた時、
「その汚い手を離してもらおうか? ヨーゼフ殿下」
「!」
「なっ!?」
(この声は!)
それは間違えようもない。私が待ちに待った誰よりも大好きな───ヒューズの声だった。
(本当に……本当に来てくれた……?)
私は慌てて顔を上げて声のした方を振り返る。
「ヒューズ……」
「オリヴィア……泣いてるのか!?」
「ヒューズ……」
私が涙を浮かべて情けない声を出すと、その様子に気付いたヒューズが急いで私に駆け寄ってくる。
「なっ!?」
そして、バカ王子が掴んでいた手を無理やり私から引き離すと、そのまま私をギュッと抱きしめた。
私の胸がトクンと高鳴る。
(ヒューズ……ヒューズの温もり……)
「オリヴィア!」
「……ヒューズ」
優しく労わるように抱きしめてくれるヒューズに私もギューッとしがみつく。
こんな時なのに、昔、ヒューズと過ごした時の会話を思い出した。
────……
『ヒーロー?』
『そうよ! 物語の主人公みたいにヒロインのピンチに颯爽と駆けつけるの! カッコイイと思わない?』
私が満面の笑みでそう話すと、ヒューズは呆れた顔をした。
『ヒロインのピンチって例えばどんなだよ?』
『うっ……と、とにかく危険なのよ!』
具体的な事を聞かれても困る。
ただ、本で読んでカッコイイと憧れただけだから。
『大雑把だな』
『と、とにかく! ヒロインが困ってたら颯爽と現れて助けてくれるの、私はそんなヒーローみたいな人が好みなの!』
『ヒーローねぇ……』
───……
確か、これはヒューズに“どんな男性が好みなのか”と聞かれた時の会話だったと思う。
あの時のヒューズはこれと言って興味なんて無さそうだったけれど……
(今、こうして助けに来てくれた姿はまさにヒーローそのものよ……!)
自覚した恋心と共に私の胸がおかしな事になりそうだった。
「……ヒューズ! 貴様、何でここに……!」
「何でと言われても。夫が実家に戻っていた妻を迎えに来る事に何か問題でも?」
「……くっ」
「ヨーゼフ殿下? 例え、どんな理由があっても涙を浮かべて嫌がる女性の腕を掴むなんて最低な男がする事だと俺は思いますが?」
バカ王子は悔しそうな表情を浮かべるけれど、正論なので言い返せない。
「……っ」
そんなバカ王子は無視して、私達は二人の世界に入り込む。
「ヒューズ、来てくれてありがとう」
「当たり前だろう? オリヴィアは、俺のあ……妻なんだから」
「ヒューズ……!」
私が嬉しくてもう一度ヒューズに抱きつこうとした所で、ヒューズが私の手に握られていた物に気付いた。
「オリヴィア……それは?」
「え? あ……! そ、そうよ、これ……手紙なの! ヒューズからの手紙」
「……手紙……って、まさか!!」
ヒューズの顔が驚きで一杯になる。目もまんまるだ。
私は微笑みながら答える。
「そうよ……ヒューズが私にくれた求婚の手紙よ」
「!!」
「遅くなってごめんなさい。ようやく、ようやく読めたわ」
「読ん……だ?」
「えぇ。ちゃんと全部……読んだわ」
「……」
私のその言葉にヒューズはぎこちなく笑う。そしてその目元は潤んでいた。
「ありがとう……ヒューズ」
「……オリヴィアが今日実家に戻った理由は……忘れ物って……」
「そうよ、忘れ物。あなたからの手紙を探すためよ」
「……っ!」
ヒューズの私を抱きしめる力がますます強くなる。
私も抱きしめ返しながら答える。
「知りたかったの。ヒューズの事。私は知らなくちゃいけないと思った」
「知りたかった……?」
「そうよ! だって……」
私はそこで一旦言葉を切り深呼吸をしてから笑顔で言う。
「私はヒューズの妻で…………今も昔もヒューズの事が大好きだから!」
「オリ……」
「あなたが言えない分、私がたくさんたくさん伝えるわ! 大好きよ、ヒューズずっとずっと大好…………!?」
と、そこまで言いかけた私は、その先の言葉が言えなかった。
───チュッ
ヒューズの唇で私の口が塞がれてしまったから。
チュッ……
一度目はすぐ離れてしまったけど、もう一度口付けされる。
(唇への口付けは初めて……だわ)
心臓が破裂しそうなくらいドキドキしている。
「オリヴィア……」
「ん……ヒューズ……」
ヒューズの顔が再び近付いて来たので私はそっと瞳を閉じた。
チュッチュと互いしか目に入らずに口付けを交わす私達をバカ王子が唖然とした顔で見ている。
そして、とうとう身体を震わせながら怒鳴り声を上げた。
「おい! いい加減にしろ! 何をしてるんだ!?」
「何って、あ……妻とのコミニュケーションをとっているだけだが?」
「そ、そういう意味では無い! ヒューズ、貴様!!」
(あ……妻って、愛する……妻と言ってくれているのかしら?)
バカ王子が激怒し始めたのに私の頭の中はヒューズの事ばかりだった。
騒いでる声が全然耳に入って来ない。
(口付けしても呪いは解けないのね……)
少しだけ期待したのだけど、どうやらそんなに世の中は甘くないらしい。
「ふざけるなヒューズ! そうだ! 貴様、シシリーはどうした!」
「!」
その声には私もハッとなる。
そうだった。すっかり忘れていたけれど、バカ王子はヒューズにシシリーさんを差し向けていた。
「置いて来た」
「は?」
「何だか、何もかも……全てが気持ち悪かったので置いて来た」
「貴様……っ!」
バカ王子が唇を噛んで悔しそうにしている。
「ヒューズ……」
私がヒューズの顔を見つめると、ヒューズは優しく私の頭を撫でながら微笑んだ。まるで、心配するな……そう言ってくれているみたい。
「オリヴィア……」
「……ヒューズ」
私達は自然と微笑み合い、もう一度唇を重ねる。
(互いの気持ちさえ分かっていれば、言葉なんてなくても平気……)
そんな風にお互いの気持ちを確かめ合っていると、バカ王子が再び叫んだ。
何故か今度は私に。
「えぇい! 目を覚ませ、覚ますんだ、オリヴィア!」
「…………はい?」
目を覚ます?
全く意味が分からない。
「オリヴィア……すまなかった。そんなにヒューズの事を好きだという妄想を抱くほど私との婚約破棄がショックだったなんて……」
「……? 何を言っているのですか?」
妄想を抱くほどショック? 私が??
このバカ王子は何を言い出したの? 頭、おかしくなっちゃった?
あ、元々ね。
「……オリヴィア。そこの殿下は、オリヴィアにヤキモチを妬かせようとして、あの気持ち悪い女を用意したらしい」
「…………え!?」
ヒューズの言葉に耳を疑う。
「オリヴィア……あの婚約破棄はオリヴィア、君の気持ちを試そうとしたものだ。私はあの場で言っただろう? 自分の胸に聞いてみろ、と。あれは素直になれ……そういう意味だ。だから、もうヒューズを好きなフリなんてして私に当て付けなくてもいいんだ、オリヴィア……私は君の事が……」
バカ王子がそう言って私に手を差し出す。
(ちょっと待って? ……これ、本気で言っているの?)
────バカ王子はバカどころではない王子だった。
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