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24. 追い詰められた王子
しおりを挟む「やーん、いったい何なのぉ? どうして私が呼び出されるのぉ?」
「……」
やがて、相変わらずのシシリーさんと、魔術師と思われる人が謁見の間にやって来た。
(あの人が魔術師……?)
初めて見るその姿。黒のローブを被っていて顔は見えない。男か女かも不明だけれど、体格から言って男だと思われた。
「あいつが俺に呪いをかけた奴……」
隣でそう呟くヒューズの声が聞こえた。
(そうよね、ヒューズにとっては複雑な思いがたくさんあるわよね)
バカ王子の命令とはいえ魔術師は呪いをかけた張本人。
呪いをかけられた日のヒューズは話を聞く限り、薬か何かで眠らされていたようだから、きっとその姿を見ていない。だから会うのは初めて。
「ねぇってば! 聞いてるの? 私が何をしたのよぉ!」
シシリーさんは空気も読まず不満の声をあげるばかり。
陛下の御前だという事を全く分かっていない。
「静かにしろ! ここがどこか分かっていないのか!? 陛下の御前だぞ!」
「え? 陛下? 陛下って国王陛下!? ……嘘っ!」
シシリーさんを連れて来た侍従の声でようやく理解したらしいシシリーさんは今更だけどそのまま大人しくなった。
でも、小さな声で「何で私がこんな所に呼ばれなくちゃいけないのよぉ」と呟いているのは聞こえた。
そんな陛下は、シシリーさんを軽く一瞥した後口を開く。
「君達にここに来てもらったのは他でも無い。どうしても確認したいことがあったからだ」
「……」
魔術師は何も言葉を発せず、黙って陛下を見ていた。
「どうも我が息子、ヨーゼフが魔術師キールを使ってそこのヒューズ・カルランブルに“呪い”をかけていたという話があってな。それが本当なら黙ってはおられぬ」
「ち、父上……で、ですから、それは誤解でキールに話を聞くほどの事では……それにシシリーまで呼ばなくても」
バカ王子はチラチラとキールと呼ばれた魔術師の方に視線を向けながら陛下の追求をどうにかしようとしている。
「ヨーゼフ……清廉潔白なら堂々としていれば良いだけの話。何をそんなに狼狽える必要があるのだ?」
「うっ……」
これではやましい事がありますと言っているようなもの。バカ王子は自分で自分の首を絞めていた。
「して、キール? そちの言い分はあるか?」
「……」
魔術師は答えない。
「ふむ。それでは、ヒューズ・カルランブル。そなたの言いたい事は?」
「恐れながら、陛下。話すと長くなりますのでこちらを用意しました」
そう言ってヒューズは陛下に先程懐から取り出した書類を捧げる。
「それは?」
「5年前にヨーゼフ殿下が私と妻のオリヴィアにした事と、その後の私が辺境伯領に行ってから耳にした“ヨーゼフ殿下の評判”についてまとめたものでございます」
「ヨーゼフの評判?」
不思議そうな顔をする陛下にヒューズはにっこり笑って答える。
「何故か辺境伯領にはヨーゼフ殿下に、大変お世話になったという者が多くおりまして。今は皆、それぞれ辺境伯領からは離れましたが、今回声をかけたら喜んで協力してくれました。私に起きていた事も含め、他の者から聞いた話も全てまとめてあります」
「……ヒューズ! き、貴様っ!!」
そこに書かれている内容がどんなものなのか想像出来たらしいバカ王子が真っ青な顔をさらに悪くしながら声を荒らげる。
「ふむ、そうか。それは非常に興味深いな」
「ち、父上、や、やめろ! そんな物を父上に渡すな!」
「ヨーゼフ黙れ! 静かにしろ! ヒューズ・カルランブル、それをこちらに」
「はっ」
陛下に怒鳴られたバカ王子はぐっと口を噤む。
そしてヒューズは侍従に報告書を手渡し、侍従の手からそれは陛下へと渡った。
そして、陛下は静かにその内容に目を通した───
ヒューズの用意した報告書を読み進めている陛下の顔色がどんどん悪くなっていく。
そして、最後まで目を通すなり「ヨーゼフ!」とバカ王子を呼んだ。
「……ヨーゼフ。この提出された報告書には大変興味深い事が書かれているようだ」
「……」
「どうもキールを使って好き勝手な事をして来たようだな? 何か反論はあるか?」
「ち、父上は息子の私より、あいつ……ヒューズの持って来たそんな紙切れを信用するのですか!?」
バカ王子はそう必死に反論するけれど、陛下はその訴えを一蹴した。
「馬鹿者! この報告書は少なくともお前が訴えて来た主張より遥かに論理的にまとめられておるわ!!」
「くっ……」
バカ王子は悔しそうに唇を噛む。
「そこに書かれている証言者達は必要ならいつでも公の場で証人になってくれるそうですよ?」
「な、何!?」
ヒューズのその言葉にバカ王子の顔は真っ青から真っ白になっていく。
「ヨーゼフ殿下は随分と我々を甘く見ていたようですね。陛下、この提出した報告書を元にヨーゼフ殿下の調査をぜひ、お願いしたく存じます」
「ふむ……確かにこの内容は無視は出来ぬな。分かった調べさせよう」
「ありがとうございます。事の詳細が明らかになった際はぜひ、ヨーゼフ殿下に厳粛な処分をお願いします」
「……ヒューズ!! 貴様という奴はっっ」
「そして、そこの魔術師殿」
怒りの表情を見せるヨーゼフ殿下を無視してヒューズは魔術師に話しかける。
「……」
「あなた方、魔術師は対価を支払って魔術を使うそうですね」
「……」
「つまり、あなたはヨーゼフ殿下が何かしらの対価を支払って、私に呪いをかけるという命令に従ったと思われる。それが罪な事だと分かっていても」
「……」
「恐らく、そこのヨーゼフ殿下が自分の身分を笠に着せて無理強いをしたのだろうと思っていますが、罪は罪。あなたもそれ相応の処罰を受けないといけない」
「……」
魔術師はここまで言われても答えない。表情も分からないので本当に不気味。
それでもヒューズは続ける。
「それと、そこの気持ち悪い女!」
「へ? わ、私? 気持ち悪いって……ひ、酷いですぅ」
「お前もヨーゼフ殿下が何をしたのか知っていたな。それに、ヨーゼフ殿下と一緒になってオリヴィアを陥れた……」
「ひっ! そんな目で見ないで下さいよぉぉ、私はぜーんぶヨーゼフ殿下に頼まれただけでぇ」
シシリーさんはえーんと泣き真似をしたけれど、冷たい目が注がれるだけ。
「魔術師のあなたも気持ち悪い女も、このままヨーゼフの罪が確定すれば共倒れになる事は目に見えている」
「……」
「気持ち悪い女って何なのよぉー! あと、私は悪くないんだからぁ!」
「……少しは静かに聞け。だが、二人共。もしも、俺の頼みを聞いてくれたなら、カルランブル侯爵家からの訴えは取り下げてやってもいい」
「……?」
「は? 何言ってるのよ」
怪訝そうな様子の二人に、ヒューズはにっこり笑って続ける。
「こちらからの訴えが無くなれば少しは罪も軽くなると思うが?」
「……」
「あなた……」
バカ王子のした事は、公に調べられれば罪になるのはもう間違いない。
(ヒューズ以外にも好き勝手な事していたみたいだし……)
陛下の耳に入った今、容赦ない取調べが始まる。ヨーゼフ殿下はもう終わりだ。
そして、ヒューズは一緒に罪に問われるであろう魔術師とシシリーさんに罪の減刑を匂わせて、こちらに引き入れようとしていた。
(シシリーさんについては完全についでみたいだけど、ヒューズの狙いは魔術師をこちら側につかせる事)
「…………罪の減刑を対価として、お前は何を望むんだ?」
「!」
ここで初めて魔術師が口を開いた。
ヒューズはその言葉に再びにっこり笑って続けた。
「ヨーゼフ殿下の命令により、あなたからかけられた呪いで俺は5年間苦しんだ」
「……」
「ぜひ、ヨーゼフ殿下には俺の気持ちを知ってもらいたくてね」
「……つまり?」
この会話を聞いているバカ王子が「おい、ヒューズ……貴様っ! まさか私に……」と叫んでいるけれどヒューズはその声を無視して続ける。
「ヨーゼフ殿下に“とある呪い”をかけてもらいたいんだ」
ヒューズはとってもとっても黒い笑みを浮かべながらそう言った。
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