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12. 話の通じない王子様
しおりを挟むランドルフ殿下のその言葉に私とフリージアの表情が同時に凍りついた。
“未来の義妹”
その言葉が指す意味は一つしかない。
「ん? 何をそんなに二人揃って驚いている?」
ランドルフ殿下が不思議そうな顔をして私とフリージアを交互に見ながら首を傾げている。
それは完全に私のセリフよ……
(まさかランドルフ殿下はまだ私のことを望んでいる!?)
「え? ……ランドルフ殿下? わ、私は……い、義妹なの、ですか?」
先に口を開いたのはフリージアだった。
驚きいっぱいの表情で、しかも声が震えている。
フリージア自身、ここまで過ごした時間で自分の方を選んで貰える! という期待を抱いたのかもしれない。
だからこそ殿下今の発言に相当ショックを受けているように見えた。
(フリージア……)
そんなフリージアに殿下は首を捻り、さも当然のことのように頷いた。
「そうだが……他に何か理由があるだろうか?」
「───っ! な、何で、ですか! 殿下は、さ、さっき、私に……」
私に?
殿下はフリージアに何かしたのかしら?
(まさか、手を出したんじゃ……)
フリージアが叫ぶ。
「───“フリージア嬢はいい花嫁になりそうだな”と言ってくださったではありませんか!」
(え?)
「ああ。君は元気で明るくて積極的だからな。きっといい伴侶が見つかるだろうと思ったから口にした。まぁ、一般論だな」
「いっぱんろん!? ……そ、そんなっ!!」
(お、思っていたのとは違ったわ……でも……)
手を出したわけではないことにホッと胸を撫で下ろす。
しかし、どうやら殿下の言葉を真に受けて、フリージアは自分が見初められたと更に期待を強めてしまっていたらしい。
「ブリジット嬢」
殿下は私の名前を呼びながらフリージアから私に視線を変える。
「は、い……」
「私の気持ちは手紙にも書いた通りだ。君を妃にと望んでいる」
「……!」
その言葉に私は息を呑む。
そしてギリッと見えないように唇を噛んだ。
(なんでなのよ! あんなにフリージアと仲良くしていたじゃないの!)
「どうして……ですか……?」
「うん?」
どうしても聞かずにはいられなかった。
だって、倒れていたあなたを“助けた”だけが理由ならフリージアだっていいじゃない。
フリージアはあなたを励ましていたのよ?
あれは助けた部類には入らないの?
過去のあなたは、それでフリージアのことを妃にと望んだじゃないの!
「……どうして私なのですか?」
「ははは、何を今更? 手紙にも書いたが、君は倒れている私を助けてくれただろう?」
私は首を横に振る。
「その場にはフリージアだっていました。殿下に声をかけて元気づけていたはずです!」
ランドルフ殿下の顔がうーんと困り顔になる。
何でそんな顔をするの!?
「……それは、さっきフリージア嬢からも少し聞いたんだが……実はあまり覚えていない」
その言葉にガンッと大きな衝撃を受けた。
「覚えて……いない?」
「ああ。唯一はっきり聞いた、と記憶にあるのは、“ダメよ。そんなもたもたしている時間はないのよ。どきなさい! フリージア!“と怒鳴っていた女性の声……だった」
「……!」
「あれは、あの声は君だろう? ブリジット嬢」
「!」
その問いかけに冷たい汗が背中をつたう。
何でそんな所だけ記憶しているのかと悔しく思った。
ランドルフ殿下は、私から視線を変えてフリージアの方に視線を向けると首を傾げながら言う。
「……それに、実はずっと気になっていたが、“どきなさい、フリージア”ってどういう意味なのだろう? そういう言葉が出るということは──」
「…………ひっ!? そっ!それは……」
ランドルフ殿下のその言葉にフリージアが小さな悲鳴を上げる。
それを見た殿下が再び私に視線を向ける。
そして笑顔を浮かべた。
「だから私は“君”がいいと言っているんだよ? ブリジット嬢」
「……っ!」
「ははは………………まぁ、理由はそれだけじゃないけどね?」
殿下が意味深に笑う。
それだけじゃない?
「ど、どういう意味ですか?」
「ん? あぁ……まあ、こっちの話だよ」
(……?)
何やら意味深な言葉が聞こえて来たので聞き返したけれど、ランドルフ殿下は笑みを浮かべているだけで、答えてはくれなかった。
「そうだなぁ……王家の力を使って今すぐ君を無理やり“婚約者”にすることも出来るよ?」
「い、嫌! 絶対に嫌です!」
反射的にそう答えてしまい、しまった! と思う。
私は慌てて手で口を押さえた……けれど、すでにばっちり聞かれてしまっていた。
(激昂する……かしら?)
おそるおそるランドルフ殿下の顔を見ると、何故か彼は涼しい顔をしていた。
それはそれで怖い!
私の顔が恐怖で引き攣る。
「…………あははは! 好かれていないだろうなという気はしていたけど、まさか即答されるとはね」
「……っ」
「あぁ、君のその絶望の顔はいいね」
また笑顔。
何だか怖い!
「うん、そうだなぁ……とりあえず今はまだ、無理やりな手段は使わないでおこうかな。そうそう正式な返事も待ってあげよう」
「え?」
ここで何故か猶予をくれようとする殿下。
もしかして少しは話を分かってくれる人……? と期待をしたけれど……私の耳にはすぐに氷のように冷たい声が聞こえた。
「だけど、よーーく考えるといいよ? ブリジット嬢」
「……っ!」
───その、笑っているのかいないのかよく分からない目に背筋がゾッとする。
「君はまだ私の正式な“婚約者”ではないけれど、一応“婚約者候補”だからね。もし、王宮から呼び出しがあった際は……分かっているよね?」
「───っ!」
ランドルフ殿下は、王家の力……無理やりな手は使わないと言っておきながら、明らかに矛盾したことを口にしていた。
この時、私は大きく後悔した。
(……あの時、苦しんでいるこの人のことなんて、放っておけばよかったんだわ……)
過去と同じ行動をしておいて、フリージアから婚約者の座を奪うことだけをしなければ大丈夫だ……と甘くみていた。
それがこの結果。
(もう、やだ。逃げたい……)
───一緒に逃げますか?
(ランドールさん……)
また、私の頭の中に彼の顔が頭に浮かんだ。
ランドルフ殿下のことは殴ってやりたい!
けれど、なんとなくだけど今、彼を殴ったら───
牢屋行き、ではなく……
「この私を殴るとはいい度胸の女だ! ますます君が欲しい」
くらいのことを言い出してますます執着される気がする。
そんなのはもっと嫌だ。
「ふっ、今日はもう、帰るといい。ブリジット嬢は倒れてしまったわけだし、家で休みたいだろう?」
「……はい」
とにかく今はもう帰リたい。
この場から今すぐ去りたい!
こんな奴の顔をこれ以上見ていたくない!
そう思って私は頷く。
「ああ、そうそうフリージア嬢。今回は同行を認めたけれど、次から君は呼ばないから」
「えっ!?」
急に話を振られたフリージアが驚きの声を上げる。
しかもその内容が次から君は呼ばない?
「もう、君に用事はないからね。あぁ、あまりお姉さんを困らせるのは良くないと思うよ? フリージア嬢」
「そ、そんな……!!」
フリージアが殿下には分からないような角度で私を睨んで来た。
そんな目で見られても、困惑しているのも寒気がしているのも私の方なのに。
───過去と違って、私が殿下に望まれてしまった。
それなのに、嬉しさなんか欠片もなくてあるのはただただ恐怖のみ。
私は自分の両手を見つめる。
(手が震えている……)
───ランドールさんの手の温もりが欲しいな。
そうしたら、この手の震えは直ぐに止まる気がするのに……
絶望の気持ちしかない中、この時の私はランドールさんのくれた温かさだけを心の支えにしてなんとかその場に立っていた。
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