21 / 38
20. 通じ合う気持ち
しおりを挟む「───本当の“あなた”は何者ですか? ランドール様」
「……ブリジット」
答えはもう出ている。
だって、顔を隠さないランドール様の顔はランドルフ殿下とこんなにもそっくりなんだもの。
けれど、どうしても彼の口から聞きたい。
だから、お願い。
ここまで来て許可がないから言えない……なんて悲しいことは言わないで?
「あなたとランドルフ殿下は……兄弟……いえ、双子ですか?」
「……」
ランドール様は答えない。
──そうよ、双子。
自分で口にして気付いた。
巻き戻り前の王妃教育の中に王家に関する“双子”について学んだ記憶があるわ。
確か……
「…………王家に双子が産まれたら、片方……後に生まれた方は“処分”されると学んだ覚えががあります。つまり、ランドール様は弟……なのですね?」
「っ!」
ランドール様の身体がビクッと跳ねた。
それが答えだ。
私はそっと彼の頬に触れる。
ランドール様の瞳が大きく揺れる。
「ブリジット……」
「でも、あなたは生きています。それは……何故ですか……?」
何故、影武者のような立場にされて生かされているの?
どうしてそんな酷い扱いを受けているの?
その私の疑問を感じ取ったランドール様が悲しげに目を伏せた。
「…………ランドルフが病弱、だったからだ」
「え? 病弱!?」
「幼い頃は特に酷くて……とても人前に出られる状態ではなかったんだ」
「!」
(──だから、代わりにランドール様が“ランディ”と名乗っていた……?)
そして気付く。
そうだ、あの日───……
「な、ならば、私とフリージアが街で倒れていた彼……ランドルフ殿下を助けたあれは……」
ランドール様がコクリと頷く。
「久しぶりの発作だったと思う……おそらくだけど、体調が安定して来たことでこっそり外に出て遊びに行こうとしたんだろう」
「え! 遊び?」
「護衛も付けなかったのは、反対されるからだろうと思われる」
「~~~~!」
───バカなの!?
それ、ただのバカでしょ!
私は必死で助けようとしたことを大きく後悔した。
「───だが、ブリジット」
「な、んですか?」
ランドール様が少し困惑した様子の表情になる。
「“過去”のランドルフは、その時の無理がたたって再び、体調を崩しがちになってしまったんだ」
「え?」
「なので、その後も僕が時々入れ替わって、婚約した君と会っていたりランドルフとして表に出たりしていた」
「え? あ……」
今の言葉で確信する。
やっぱり、最初の頃に会っていた“ランドルフ殿下”は彼、ランドール様だったのだと。
「けれど……今のランドルフは前のように体調を悪化させる様子がないんだ」
「……えっ!」
その言葉に驚く。
言われてみれば、街で倒れていた時の彼は苦しそうだった。
けれど、その後に呼び出しを受けるようになってから会う彼は元気そのものだ。
だから、病弱だと言われてもさっきはピンと来なかった。
「ブリジットも思っていることかもしれないけれど……おそらく、未来は変わっている」
「……!」
それは私もずっと思っていたこと。
だから私も力強く頷いた。
ランドール様はじっと私の目を見つめる。
「……ブリジット。前にも言ったが僕は君が何よりも大切なんだ」
「え? あ、は、はい……」
改めて言われると照れてしまう。
そんな赤くなった私の頬にランドール様の手がそっと触れてくる。
近付いた距離の分だけドキドキが止まらない。
「僕は、ここで会った時から君のことがずっと好きだったよ」
「そ、れは……私も…………です」
「!」
ランドール様が目を大きく見開くと嬉しそうに微笑んだ。
そして、
───チュッ
優しいキスが私の額に降って来る。
「ラッ……」
ますます私の頬がボンッと熱を持つ。
そういえば、ランドルフ殿下の婚約者として過ごした過去の二年間……
優しい言葉はくれたけど、こんな風に触れられたことは全くと言っていいほど無かった。
(せいぜい手を繋ぐ……くらい?)
あれがランドルフ殿下だったらお断りだけど、ランドール様だったのならもっと触れて欲しかったわ。
なんてことをついつい思ってしまう。
「ブリジット? どうかした?」
ランドール様が不思議そうに私の顔を覗き込む。
私は照れながらもしっかり見つめ返す。
「ラ、ランドルフ殿下のフリをしていた時のランドール様……あまり私に触れてくださらなかった……ですよね?」
ピタッとランドール様が固まる。
「なっ…………そ、そんなの! あ、当たり前だ!」
「当たり前、なのですか?」
「ブリジットが僕のことをランドルフだと思っているのにそ、そんなことをするのは……嫌だった!」
「あ……」
それもそうよね、と納得する。
「そ、そりゃ本当は、し、したかったけど!」
「!」
急に慌てて赤くなりながら、そう話すランドール様が急に可愛く見えてしまう。
(もう! なによ、それ……)
思わず笑みがこぼれる。
あと本音がダダ漏れしていて嬉しい。
「あれ? ……でも、愛の言葉に近い言葉はたまに──……」
「あぅ、ああ、あ、あれは!」
ますます、ランドール様の顔が赤くなる。
私はクスリと笑った。
「あれは?」
「ず、ずっと好きだった君……ブリジット……と過ごしていたら、そ、その……」
「過ごしていたら?」
あまりの可愛さになんだか意地悪してみたくなり、更に問い詰める。
「つ、つ、つい、うっかり……ほ、本音……が……ポロリと」
「本音!」
それって、“ランドルフ殿下”としての仮面が剥がれてしまうくらい私のことを……?
何だかそれだけで胸がいっぱいになってしまう。
(穢れてしまったと思って嘆いていたあの愛の言葉は、ランドルフ殿下からじゃなかった……!)
私が本当に好きだった人からの言葉だったんだわ!
「ランドール様!」
「ブ、ブリジット!?」
私が突然ギュッと抱き着いたので、ランドール様が慌てている。
「私……あなたが好きです!」
「ブリジット……?」
「……ランドルフ殿下との婚約は何があっても受けません! 私はこの先をあなたと……ランドール様と一緒にいたい……のです」
王子でなくてもいい。
ランドール様、あなたがあなたであれば。
そんな想いで私は自分の気持ちを告げた。
「お母様を亡くして、家での居場所も失くし始めていた私の心の支えはあなたでした」
「ブリジット……」
「ランドール様……私はあなたが大好きです!」
「───僕もだよ」
目が合って互いに微笑み合うと、私達はどちらからともなく顔を近付け───
そっと互いの唇が重なった。
「そうだ……ブリジット」
何度もお互いの温もりを確かめ合った後、ランドール様が私の目を見て訊ねてきた。
吸い込まれそうなくらい綺麗な青と紫の瞳に胸がドキドキする。
「……な、なんです……か?」
「僕は……こうしてやり直しの人生を貰えても……ずっと焦がれ続けた君がこうしてこの腕の中にいてくれても……それでもあの二人を許せそうにない」
「え?」
ランドール様は、ポカンとする私に素早くチュッと軽いキスをすると言った。
「!」
「僕はブリジットにはずっと明るい場所でキラキラ輝いていて欲しいんだ」
「キ、キラキラ?」
「だけど、ランドルフの影でしかない僕といると君はその輝きを失ってしまうだろう?」
「……!」
何だか不吉なその言葉に私の心がザワザワする。
(それって、まさか私のことは好きだけど、日陰の身では一緒にはなれない……とか言い出すのでは!?)
───そんなの嫌!
「ランドール様! そんなことはあ……」
「だからね?」
「……きゃっ!?」
ランドール様がギュッときつく私を抱きしめる。
心臓の音がハッキリ聞こえてきそうなくらいで抱き込まれた。
「───そろそろ、反撃……してもいいかなと思ってるんだ」
「え? はん……」
反撃と言った?
私は内心で首を傾げる。
「……ブリジットがランドルフのことを好きだと思っていたから、君が悲しむ姿を見るのが嫌で反撃することはずっと諦めてきた」
「え……」
「けれど、君が僕を選んでくれるのなら……もう遠慮はいらないだろう?」
「……えっと?」
私がランドール様の腕の中で目を瞬かせていると頭上から力強い声が降ってくる。
「だから───ランドルフには今の地位から降りてもらう」
「降り……?」
「……必ず、引きずり下ろしてやる」
もし、この時ランドール様の顔が私に見えていたらにっこりと黒い笑顔浮かべているのでは?
そう思えるくらいランドール様から感じるオーラは黒かった。
71
あなたにおすすめの小説
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。
buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ?
(完結)私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!
水無月あん
恋愛
辺境伯の一人娘ライラは変わった能力がある。人についている邪気が黒い煙みたいに見えること。そして、それを取れること。しかも、花の種に生まれ変わらすことができること、という能力だ。
気軽に助けたせいで能力がばれ、仲良くなった王子様と、私のことが嫌いなのに婚約解消してくれない婚約者にはさまれてますが、私は花の種をもらえれば満足です!
ゆるゆるっとした設定ですので、お気楽に楽しんでいただければ、ありがたいです。
※ 番外編は現在連載中です。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる