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12. デート
しおりを挟む「旦那様、恥ずかしいです……」
「え? 何が?」
約束通り、旦那様がお休みの日。私達は一緒に出かける事になった。
馬車に乗って出発し、街に着いて馬車から降りて歩き出そうとした所で旦那様に手を取られた。
「ルチアが迷子になったら困るだろう?」
「なっ!」
そう言った旦那様は意地の悪い笑いを浮かべる。
「だって、ルチアは公爵家の中を歩くだけでも迷子の危険みたいだからね」
「~~っ! トーマスさんに聞いたのですね!?」
迷子になりそう……と言ったのは決して冗談などではなく……あれから私は何度か屋敷内で迷子になっていた。
その度に“若奥様がまた行方不明です”といって皆が探し出してくれて救出されている。
「屋敷内の迷子にそうそう危険は無いと思うけど、やっぱり外は危ないからね」
「……」
そう言われて握られた手は、ただ握るだけではなく指がしっかり絡められていた。
その事にもドキドキしてしまう。
「それに、俺たちは“夫婦”なんだからこういうのは普通の事だよ」
「普通の事……」
私はじっと旦那様の目を見る。
「どうかした?」
「呆れていませんか?」
「え?」
旦那様が驚いた顔をする。
「……私があまりにも何も知らな過ぎて呆れていませんか?」
「ルチア……」
「私、これからもっともっと頑張ります! だから──」
「ルチア!」
えっ? と思ったら、繋いでいる手ごと引っ張られて旦那様に引き寄せられた。
そのままギュッと抱き込まれる。
「いいんだ。ルチアのペースで構わない」
「旦那様……?」
「自由にやりたい事やしたい事もそうだ。勉強以外でもどんな事でもいい。見つけたらどんどん口にして思う存分やってくれ。未来の公爵夫人が……とか考えなくていいから」
「……! で、でも呆れたりしませんか?」
「まさか! どんな事でも俺は呆れたりしない。むしろ──」
「むしろ?」
私が聞き返すと、旦那様は柔らかく微笑んだ。
「ルチアがそれで俺に可愛い笑顔を見せてくれれば、俺はそれだけで嬉しいし幸せだ」
「旦那様が……幸せ?」
「そうだよ」
「……幸せ」
旦那様が私に向けてくれるその微笑みに胸がキュンとした。
───
「…………えっ!」
「ルチア? 大丈夫?」
「全然、大丈夫ではありません! ですが旦那様、ここは、このお店は……これが普通なのですか?」
旦那様が私に贈りたいと言ってくださった装飾品の購入のためにお店にやって来た私達。
何だか高級そうなお店だわ~なんて思っていたら。
高級も高級! 私なんかでは手が届かないようなお店だった。
「これはこれは! トゥマサール公爵家ご子息のユリウス様! 言ってくださればこちらから出向きましたのに!」
旦那様の姿を見るなり、支配人が飛んできて、あれよあれよと特別部屋に案内された。
そして今、私の目の前にはずらりと並んだ装飾品の数々……
「今日は可愛い妻への贈り物を選びに来たんだが」
「奥様!? ご結婚をされたのですね? おめでとうございます。奥様はどのような方──……」
そう言って支配人さんが隣の私に視線を向ける。
そして、ハッとした表情になった。
「……っ! こ、これはまた……なんと……」
支配人さんの身体が震えている。何故……?
私は内心で首を傾げた。
「可愛いだろう?」
「はい! ───あ、いえ、失礼しました。もう……これは何をつけても似合いそうな方ですね」
「だろう? この美しさや可愛さに負けず、でも、もっと美しく映えるような宝石を頼む」
「かしこまりましたーーーー」
ちょっと私には二人が何を言っているのか分からなかった。
「本当にあれで良かったの?」
「はい!」
無事にお店での買い物を終え、私達はそのまま街の中を歩いている。
あれでもないこれでもない、色々と吟味した結果、私が選んだのは空色の宝石を加工したネックレスとイヤリング。
宝石そのものは高い石ではなかったそうなので、旦那様は本当にそれでいいの? と何度も聞いてきた。
「俺はもちろん、ルチアが気に入ったのなら構わないけど」
「いいのです。だって……」
「だって?」
私は微笑みながら答える。
「あの宝石がこれまで見せてもらった中で一番、旦那様の瞳の色に近かったんです!」
「…………え!? っ、うわぁ!」
「え? きゃっ! 旦那様!?」
ドサッ!
旦那様が一瞬目を丸くして驚いた顔をした……と思ったらそのままま足を滑らせてしまい、その場で転んでしまった。
「だ、だ、大丈夫ですか!?」
「…………け、けがはないよ」
「?」
本当かしら? 何だか放心しているように見えるけれど……
「ほ、本当ですか?」
「うん。だいじょうぶだけど、だいじょうぶじゃない」
「……旦那様?」
私がそっと旦那様の顔をのぞき込むと、私達の目が合う。
その瞬間、私の胸がドキンッと大きく跳ねた。
ドキドキドキドキ……
やだ! どうしてこんなにドキドキしているの?
「ルチア……」
「旦……ユリウス様」
旦那様の手が伸びて私の頬に触れる。
ますます胸がドキンッと跳ねた。
私達の顔がそっと近付いた時───……
「…………あれ? もしかして、ルチア嬢? スティスラド伯爵家のルチア嬢ですか?」
後ろから、どこかで聞いた事のある声がした。
「……!」
その声に私と旦那様はハッとして慌てて離れる。
こんな時にこんな所で……しかも、私の名前を知っているなんて誰かしら?
そう思って振り返ると、
「あなた……は」
「お久しぶりですね、ルチア嬢」
「……」
そこに居たのは、かつてお父様が持ってきた縁談相手の一人。
初めて二度会う事になったけど、お姉様の好き勝手な振る舞いでめちゃくちゃにされて、最後はお姉様に心奪われていた人……
その男性が立っていた。
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