【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
12 / 36

12. デート

しおりを挟む


「旦那様、恥ずかしいです……」
「え?  何が?」

  約束通り、旦那様がお休みの日。私達は一緒に出かける事になった。
  馬車に乗って出発し、街に着いて馬車から降りて歩き出そうとした所で旦那様に手を取られた。

「ルチアが迷子になったら困るだろう?」
「なっ!」

  そう言った旦那様は意地の悪い笑いを浮かべる。

「だって、ルチアは公爵家の中を歩くだけでも迷子の危険みたいだからね」
「~~っ!  トーマスさんに聞いたのですね!?」

  迷子になりそう……と言ったのは決して冗談などではなく……あれから私は何度か屋敷内で迷子になっていた。
  その度に“若奥様がまた行方不明です”といって皆が探し出してくれて救出されている。

「屋敷内の迷子にそうそう危険は無いと思うけど、やっぱり外は危ないからね」
「……」

  そう言われて握られた手は、ただ握るだけではなく指がしっかり絡められていた。
  その事にもドキドキしてしまう。
 
「それに、俺たちは“夫婦”なんだからこういうのは普通の事だよ」
「普通の事……」

  私はじっと旦那様の目を見る。

「どうかした?」
「呆れていませんか?」
「え?」

  旦那様が驚いた顔をする。

「……私があまりにも何も知らな過ぎて呆れていませんか?」
「ルチア……」
「私、これからもっともっと頑張ります!  だから──」
「ルチア!」

  えっ?  と思ったら、繋いでいる手ごと引っ張られて旦那様に引き寄せられた。
  そのままギュッと抱き込まれる。

「いいんだ。ルチアのペースで構わない」
「旦那様……?」
「自由にやりたい事やしたい事もそうだ。勉強以外でもどんな事でもいい。見つけたらどんどん口にして思う存分やってくれ。未来の公爵夫人が……とか考えなくていいから」
「……!  で、でも呆れたりしませんか?」
「まさか!  どんな事でも俺は呆れたりしない。むしろ──」
「むしろ?」

  私が聞き返すと、旦那様は柔らかく微笑んだ。

「ルチアがそれで俺に可愛い笑顔を見せてくれれば、俺はそれだけで嬉しいし幸せだ」
「旦那様が……幸せ?」
「そうだよ」
「……幸せ」

  旦那様が私に向けてくれるその微笑みに胸がキュンとした。


───


「…………えっ!」
「ルチア?  大丈夫?」    
「全然、大丈夫ではありません!  ですが旦那様、ここは、このお店は……これが普通なのですか?」

  旦那様が私に贈りたいと言ってくださった装飾品の購入のためにお店にやって来た私達。
  何だか高級そうなお店だわ~なんて思っていたら。
  高級も高級!  私なんかでは手が届かないようなお店だった。

「これはこれは!  トゥマサール公爵家ご子息のユリウス様!  言ってくださればこちらから出向きましたのに!」

  旦那様の姿を見るなり、支配人が飛んできて、あれよあれよと特別部屋に案内された。
  そして今、私の目の前にはずらりと並んだ装飾品の数々……
  
「今日は可愛い妻への贈り物を選びに来たんだが」
「奥様!?  ご結婚をされたのですね?  おめでとうございます。奥様はどのような方──……」
  
  そう言って支配人さんが隣の私に視線を向ける。
  そして、ハッとした表情になった。

「……っ!  こ、これはまた……なんと……」

  支配人さんの身体が震えている。何故……?
  私は内心で首を傾げた。

「可愛いだろう?」
「はい!  ───あ、いえ、失礼しました。もう……これは何をつけても似合いそうな方ですね」
「だろう?  この美しさや可愛さに負けず、でも、もっと美しく映えるような宝石を頼む」
「かしこまりましたーーーー」

  ちょっと私には二人が何を言っているのか分からなかった。




「本当にあれで良かったの?」
「はい!」

  無事にお店での買い物を終え、私達はそのまま街の中を歩いている。
  あれでもないこれでもない、色々と吟味した結果、私が選んだのは空色の宝石を加工したネックレスとイヤリング。
  宝石そのものは高い石ではなかったそうなので、旦那様は本当にそれでいいの?  と何度も聞いてきた。

「俺はもちろん、ルチアが気に入ったのなら構わないけど」
「いいのです。だって……」
「だって?」

  私は微笑みながら答える。

「あの宝石がこれまで見せてもらった中で一番、旦那様の瞳の色に近かったんです!」
「…………え!?  っ、うわぁ!」
「え?  きゃっ!  旦那様!?」

  ドサッ!
  旦那様が一瞬目を丸くして驚いた顔をした……と思ったらそのままま足を滑らせてしまい、その場で転んでしまった。

「だ、だ、大丈夫ですか!?」
「…………け、けがはないよ」
「?」

  本当かしら?  何だか放心しているように見えるけれど……

「ほ、本当ですか?」
「うん。だいじょうぶだけど、だいじょうぶじゃない」
「……旦那様?」

  私がそっと旦那様の顔をのぞき込むと、私達の目が合う。
  その瞬間、私の胸がドキンッと大きく跳ねた。

   ドキドキドキドキ……

  やだ!  どうしてこんなにドキドキしているの?

「ルチア……」
「旦……ユリウス様」

  旦那様の手が伸びて私の頬に触れる。
  ますます胸がドキンッと跳ねた。

  私達の顔がそっと近付いた時───……


「…………あれ?  もしかして、ルチア嬢?  スティスラド伯爵家のルチア嬢ですか?」

  後ろから、どこかで聞いた事のある声がした。

「……!」

  その声に私と旦那様はハッとして慌てて離れる。
  こんな時にこんな所で……しかも、私の名前を知っているなんて誰かしら?  
  そう思って振り返ると、

「あなた……は」
「お久しぶりですね、ルチア嬢」
「……」

  そこに居たのは、かつてお父様が持ってきた縁談相手の一人。
  初めて二度会う事になったけど、お姉様の好き勝手な振る舞いでめちゃくちゃにされて、最後はお姉様に心奪われていた人……
  その男性が立っていた。

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

処理中です...