23 / 36
22. 優しい人達
しおりを挟む❋❋❋❋
「パーティーはもうすぐ……かぁ」
今日の昼間にパーティー用のドレスが届いた。
今回は時間がなかったので既製品のドレスを手直ししたものだけど、さすが公爵家。伯爵家で着ていたドレスとの着心地が全然違う。
「……私の為だけに作られたドレスではないけど、それでも嬉しいわ」
旦那様はフルオーダーで用意出来なかった事をずっと悔やんでいたけれど、お姉様のお下がりだけで過ごしていた頃を思えば幸せ。私にとっては充分すぎるくらい。
「この幸せがずっと続きますように……」
久しぶりの社交界は緊張と怖さもあるけれど旦那様がいてくれれば大丈夫!
心からそう思えた。
───
私が、今夜から夜は同じ部屋で……とお願いしたので、今日から私の寝室は移動になった。
新しい部屋はちょっとドキドキする。
そして、寝支度を終えて部屋に現れた旦那様は、隣に腰を下ろすと私の顔を見て言った。
「ルチア、ドレスが届いたと聞いたよ」
「はい! とても素敵でした。ありがとうございます」
私が微笑んで答えると旦那様も嬉しそうに笑ってくれた。
「可愛いルチア? いや、この場合は綺麗なルチア? が見られると思うと楽しみだ」
「!」
そう言って旦那様が私を抱き寄せる。
「装飾品も出来上がったと連絡を受けたから、取りに行って来るよ」
「そうなんですね! 楽しみです!」
「きっと似合うと思う」
旦那様の瞳の色を身につけられると思うと嬉しくて自然と顔が綻んだ。
「うん、後は───……か。ちゃんと……かな……」
「旦那様?」
「いや、こっちの話」
旦那様が優しく微笑む。
私はそんな旦那様の微笑みを見ているだけで幸せで胸がキュンとする。
「……」
「……」
しばらく私達は無言で見つめ合った。
すると、旦那様が急に照れくさそうにしながら口を開く。
「ト、トコロデ、オヒメサマ!」
「?」
「コ、コンヤハ……」
またお姫様?
それに、旦那様の喋り方が急にぎこちなくなったような……?
「テ……テヲツナイデ……ネマスカ? ソレトモ……」
「手! 今日も繋いで寝てくれるのですか? 嬉しい! 旦那様、ありがとうございます!」
まさか、今夜も手を繋いで寝てくれるなんて!
旦那様ったらなんて優しいの!
私は喜んだ。
「あ、でも、もし旦那様が寝にくかったら……」
「イヤ、ダイジョウブ………………デスヨネ」
その日、私は嬉しさと幸せのホクホクした気持ちで眠りについた。
それから旦那様は、本当に毎晩優しく手を握ってくれるようにり……一つ気付いた。
旦那様とこうして眠ると、伯爵家で過ごして来た頃の……誰にも顧みられなかった頃の自分の夢を見る事が無いという事に。
❋❋❋❋
そして、いよいよパーティーの日。
「若奥様、お綺麗です……!」
「素敵です」
「あ、ありがとう」
鏡に映った自分の姿を見て本当に驚いた。
ドレスのデザインは派手なわけではなく、どちらかと言うとシンプルなデザイン。
なのに不思議と華やかな印象を与える。
こんなのまるで、自分じゃないみたい!
……それから、ユリウス様の瞳の色のネックレスとイヤリング……
ちゃんと似合っている……と思う。
それだけで嬉しいという気持ちが溢れて来た。
「ルチア、支度は出来た?」
「旦那様……? はい、先程終わりまし……」
部屋を訪ねて来た旦那様に向かって振り返って微笑んだら、その後ろに人がいる事に気付いた。
誰なのかは一目で分かった。
私は慌てて頭を下げて挨拶をする。
「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません。初めてお目にかかります。スティスラド伯爵家から参りましたルチアと申します」
「ああ、ユリウスから話は聞いている」
「初めまして。ルチアさん」
部屋に入って来た旦那様の後ろにいたのは、
────トゥマサール公爵家の当主夫妻。
つまり、この度、私のお義父様とお義母様はなられた方達だった。
私がこの家に嫁いで来た時には領地にいたお二人だけど、今回はパーティーの為に王都に戻ってきたという。
正式な婚姻の届けの書類のサインをした時、旦那様に公爵様達にご挨拶しなくて良いのですか? と聞いたら「大丈夫。そのうち向こうからやって来るよ」と言われていて正式な挨拶は出来ていないままだった。
私は頭を下げながら、ふと思う。
───そういえば、当主夫妻は私が旦那様が本来望んだ“ルチア・スティスラド”では無い事を知っているのかしら?
伯爵令嬢なんて! と求婚に反対されて、それを跳ね除けての私……いえ、お姉様への求婚話だと思っていたけれど、それも旦那様に聞いたところ「そんなことは無いよ。婚姻に関しては一任されているから」と言われてはいたけれど……やっぱり気になる。
「トーマスからも連絡は受けている」
「ユリウスがメロメロだって聞いたけど……」
……メロメロ?
二人の視線が私に向けられる。
私は次に何を言われるのかとドキドキしながら次の言葉を待った。
実は少し怖い。
だって、どうしても“父親”と“母親”という存在を思うとあの人達の顔が浮かんでしまうから───……
「ルチア」
「?」
私の隣に立った旦那様が、優しく声をかけてくれて微笑む。
そして、そっと私の手を握ってくれた。
「大丈夫だよ」
「……旦那様?」
旦那様のその言葉を受けて、真っ直ぐ公爵夫妻の事を見る。
彼らは私に向けて微笑んだ。
「頼りない息子だが呆れずに寄り添ってやってくれ」
「ユリウスから聞いていたよりも可愛らしい子だわ!」
「……!」
その言葉に驚いた私は、涙が溢れそうになる。
でも今は泣いたらダメだと必死に耐えた。
───旦那様……いえ、ユリウス様の周りはこんなにも優しい。
「ユリウス」
「はい」
公爵夫人……お義母様に呼ばれたユリウス様が何かを渡される。それは小さな箱。
何かしら? と思っていると、ユリウス様がその箱を開けて見せてくれる。
「ルチア。これは我が家に伝わる代々公爵夫人が持つ指輪の一つなんだけど」
「え?」
「今日はこの指輪も指にはめて欲しいんだ」
「……!」
旦那様はおそらく今日の私が、嫌でも皆から注目を集めてしまう事を分かっている。
だから、敢えてこれを用意してくれた。
私がユリウス様の妻であるという証を……
「……ありがとうございます、ユリウス様」
「うん」
私が手を差し出すと、旦那様は嬉しそうに指輪をはめてくれた。
あぁ、大丈夫! 何も怖くなんてない! 不思議とそう思えた。
「ルチア、行こうか?」
「────はい!」
────こうして、私達は手を取りパーティーへと向かった。
335
あなたにおすすめの小説
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います
***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。
しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。
彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。
※タイトル変更しました
小説家になろうでも掲載してます
(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~
マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。
その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。
しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。
貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。
そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる