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33. ドキドキの夜 ~リベンジ~
しおりを挟むパーティーでの出来事は、長かった悪夢から切り離されたようなそんな気持ちになれた。
あの時の私が、お父様やお姉様に言い返す事が出来たのは……
全部、全部、旦那様がいてくれたから。
私を好きだと愛してるとあんな大勢の前で告げてくれた。
だから、私は旦那様にもっと私の事を知って欲しくてこれまでの事を話した。
そうしたら───……
───チュッ
「…………」
「……ルチア?」
初めて私の唇に触れた“ソレ”はすぐに離れてしまった。
今まで旦那様からされたキスは額ばかりで……でも今のは。
「キ……キス……?」
「…………ずっとずっとずっとずっとしたかった。前に試みたこともあったけど、二度くらい殿下の邪魔が入った気がする」
「そ、そうですか……」
何となく心当たりが……ある気がする。恥ずかしい!
そして、どうしましょう。顔から火が出てしまいそうなんだけど!
「ルチア、キスは初めて?」
「……!」
───な、なんて事を聞くのかしらね、この旦那様は!
そう怒りたい所だけど、これは旦那様のヤキモチだという事を私はもう知っている。
「……当然です」
「ははは…………良かった。ルチア……」
「っ!」
安心したように笑った旦那様の顔がもう一度近づいて来る。
ドキンッと胸が高鳴って、私はそっと目を瞑った。
すると、目の前で少し息を飲む気配がしたと思ったら、そっと再び私の唇に柔らかいものが触れた。
───あぁ、今、私……とっても幸せだわ。
旦那様……ユリウス様の元に嫁いでから、たくさんの幸せを感じてきたけれど、まだまだ幸せだと思える事って色々あるんだわ……
───あぁ、そうだ。うっとりしていないで言わなくちゃ!
私、まだ旦那様にちゃんと自分の気持ちを言えてない。
「あ、あの! ユリウス様!!」
「ル、ルチア?」
旦那様……ではなくて名前で呼んだからか、旦那様は頬を赤く染めたまま、ちょっと驚いた顔をして私を見る。
「────私、ユリウス様の事が大好きです」
旦那様がピシッと音を立てて固まった。
「あの場ではお姉様に邪魔をされてしまって、私の気持ちを口に出来ませんでしたけど……大好きです!」
「……」
「だ、だから、これからもずっとずっとあなたのお側に居させてください!」
「……」
「だ、旦那様?」
旦那様がピクリともしないので、肩を揺すったり頬をつんつんしたりしてみたけれど、全然動いてくれる気配が無い。
どうしましょう!
旦那様が完全に石像のように固まってしまったわ。
これ、どうやったら動いてくれるの?
そこでふと頭の片隅で思い出した。
あれは子供の頃、お姉様が読んでもらっていた絵本。
私はその光景がただただ羨ましくてこっそり聞いていたわ。
細かい話は覚えていないけど、眠ったままの愛する人を起こすにはキスをする、という話だった気がする!
旦那様、厳密には眠っていないけど今は、きっと似たような状態よね?
───ならば!
「ユリウス様……愛しています」
そう言って私は、旦那様にそっと近付いて自分から旦那様の唇に自分の唇を重ねた。
──チュッという音を立てて顔を離すと旦那様の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
あ、動いてくれたみたい! と、嬉しくなった。
「ルルルルチア!」
「は、はい!」
「いいい今! き、き、君は……おおおお俺の、くくくく唇に……」
「はい! チュッてしました!」
旦那様がボンッて音が聞こえそうな程、一瞬で真っ赤に茹で上がった。
「ルチア……俺……を、好き?」
「はい! 大好きです!」
「あ、愛して……る?」
「はい! 愛しています!」
「……っ!」
私が笑顔で元気よく答えたその時だった。
ぐるっと自分の視界が反転した。
あれ? と思った時には何故か私はベッドに沈んでいた。
「……え、あれ?」
「ルチア……」
そして、そんな私の上に被さるようにして熱っぽい目で私を見つめる旦那様……
───あれれ? これって───?
「……はっ!」
自分が今、旦那様に押し倒されていると気付くのに数十秒かかった。
「全く! …………俺の可愛い妻は、無邪気に俺の理性を試しているらしい!」
「だ、旦那様?」
「しかもこの間と違うのは……愛の言葉と愛のキス付きだ!」
「えっと、だ、ん……」
「ルチア」
…………チュッ
旦那様からの甘いキスに私の発しようとした言葉は飲み込まれてしまう。
「ねぇ、ルチア…………今夜はギュッ……だけ?」
「……は、い?」
「俺と……」
旦那様がそう言って、私の着ていたガウンに触れる。そして、脱がせようと紐を緩めた。
「ルチア……俺はルチアのフリフリの格好は克服した! 毎晩、ルチアと手を繋いで寝ながらたくさんシミュレーションをしていたからね。だから、今日はもう平気だ!」
「フリフリ……」
その言葉を受けて、あっ! ……と思った。だって……
「だ、旦那様……待って……ください! 今日の私は───」
「…………!?」
今日の私は、フリフリじゃなくてスケスケなのーーーー!
という声を届ける前に旦那様はガウンを脱がしてしまう。
そして、今日の私の格好を見た旦那様が目を剥いた。
「なっ!? …………フ、フリフリ……じゃ、な、い!?」
「きょ、今日は……違うんです……」
「ル、ルルルルチアさん、いっぱい……透けてるけど……え、何これ……」
「えーっと……メイド曰く、見えるか見えないかのギリギリがそそるらしい、です!」
私はメイド達に教わったがままに答える。
「……そそ!? ……うっ……!」
───ポタッ
「あっ!!」
「っっ!」
興奮した旦那様の鼻からまたしても赤いものが……
「だ、旦那様!」
「……くっ……フリフリは、克服……したのに……これは反則だろう……」
旦那様は悔しそうに鼻を押さえていた。
────いつかの夜のように、再びメイドを呼ぶ事になったのだけど、何故か前回と違ってメイド達は慌てる様子もなく「……お待ちしておりました」と言って素早く寝具を交換してくれた。
────
「…………旦那様、大丈夫です?」
「……血は止まった。だが、一度ならず二度までも……情けない」
旦那様が落ち込んでいる。
いつもは格好良い旦那様だけれど、こういう姿を見ると可愛いわ、なんて思ってしまう。
それに……
(こんな姿を見る事が出来るのも、妻の特権なのよね……)
「ユリウス様、大好きです」
「ルチア?」
「鼻血を流していても、えーっと、ムッツリスケベ? でも!」
「!?」
私がそう伝えたら、旦那様が急に慌てだした。
「待て待て待て待て! 鼻血……は……仕方がない。だが、なんだムッツリスケベとは!」
「メイド達が教えてくれました!」
「なっ!? 教える事が違うだろーーーー!? うちのメイド達は俺の天使に何を吹き込んでいるんだーー!」
旦那様は頭を抱えて色んな事を言っていたけれど、なんだかんだでちゃんと朝までギュッと抱きしめてくれていたので私は大満足だった。
それから数日後の夜……
帰宅した旦那様は夕食時、ほんのり頬を赤く染めて、どこか照れた様子で私に向かって言った。
「……ルチア、明日なんだけど出かける予定とかある?」
「明日ですか? 特に何も無かったと思いますが……何かあるのですか?」
「うん……それならいいんだ……ちょっと、ね」
「?」
旦那様は意味深に笑った。
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