36 / 36
35. 望まれなかったはずの花嫁の幸せ
しおりを挟むその日は、とてもいい天気だった。
「──ルチア、綺麗だ! さすが俺の天使……」
「旦那様?」
支度を終えた私の元に、旦那様がやって来る。
笑顔で出迎えたら、旦那様も嬉しそうに笑う。
「俺の可愛いルチア…………俺の花嫁」
そして、すかさずチュッと軽く唇を奪われた。
「……だ、旦那様!!」
「ははは、一瞬で赤くなったな」
「だ、誰のせいだと思っているのですか!」
私がプンプン怒ってるのに旦那様は笑って軽く受け流してしまう。
「でも、ルチア。この後、人前でもこうしてキスをするんだよ? 大丈夫なの?」
「……うっ!」
「誓いのキスは絶対だからね?」
「わ、分かっています……!」
私は赤くなった頬を押えながらそう答える。
もちろん、分かっているわ!
────今日は私と旦那様……ユリウス様の結婚式。
諸々の騒動を終えて、私がずっと欲しかったドレスを旦那様が贈ってくれると知ったあの日、デザイナーさんに一緒に渡された物は“ウェディングドレスの依頼書”だった。
『こちらも、奥様の好みをふんだんに使用するように、と言いつけられているんですよ』
デザイナーさんは笑顔でそう教えてくれた。
ウェディングドレス……普通のドレスだって夢みたいな事なのに……まさか……
そんな夢のような話を受けて、その日の私は帰宅した旦那様に飛びついた。
旦那様は飛びついて来た私を当然のように受け止めてギュッと抱きしめながら言った。
『もう結婚の届けもとっくに出してるし、世間的には夫婦なんだけど……やっぱり“結婚式”をしたいと思ったんだ』
旦那様は甘く優しく微笑みながらそう言った。
『贈ろうとしているドレスも、ウェディングドレスも全部、全部“ルチア”の為だけのドレスだよ? 受け取ってくれる?』
『……!』
───私の為だけ。
私は上手く声が出せず、とにかく無言でコクコクと頷く事しか出来なかった。
過去の私が家族にされて来た事の話は沢山した。
その中の一つにあった“ドレスが欲しい”とねだったあの話をきっと旦那様は胸に留めてくれていた。だから……
『ルチア、愛してるよ。だから、皆の前でも君への愛をちゃんと誓いたい』
『ユリウス……様』
優しいキスと共に旦那様はそう言ってくれた。
今でもすでにあちらこちらで私達の事は噂になっているらしいのに……
そう思ったけど嬉しかったので黙っておく事にした。
───そうして、無事にドレスは完成し、今日という日を迎えた。
「本当に可愛くて綺麗で……俺の花嫁さんすごい……」
「旦那様は大袈裟だと思います」
「そんな事は無い!」
私達は二人で手を繋いで式場へと向かう。
本来なら式の前に新郎新婦は会わない。
新婦が家族(主に父親)の付き添いで式場に入場してから初めて対面を果たす。
だけど、私には参列する家族は誰もいない。
お父様もお母様もお兄様も…………そして、お姉様も皆、それぞれ処分を受けた。
結局、伯爵家はお取り潰し。
あの人達は貴族からただの平民となった。
そして、平民となった上で両親二人は私への育児放棄とも取れる姿勢が問題視されてそれぞれ刑務所へ。
貴族用の刑務所ではなく平民向け。
この二つには大きな差があると聞いた。
お兄様は刑務所にこそ入らなかったものの貴族籍は取り上げられ一平民として生きる事になった。
貴族の嫡男としてぬくぬく育ってきたお兄様にとっては、自分の力で住むところを探すのも、仕事を探すのもかなり大変だと聞いた。
今、どうしているかは知らない。
そして、お姉様──……
お姉様は、パーティーでの王太子殿下への暴言……と、殿下の婚約者候補の令嬢達を辞退させまくっていたという事実が大きく問題視された。
加えて人々を惑わしての私への加虐。
罪という罪が多すぎたので、当然野放しには出来ない。
結果として、一生外に出ることが叶わない最果ての地への牢獄送りとなっていた。
話によると死んだ方がマシと言いたくなるくらいの極悪環境なのだという……
処分が発表された時、お姉様は悲鳴をあげて卒倒したと聞いた。
そんなこんなで、家族が誰も居なくなってしまった私の為に、旦那様が式場に掛け合ってくれて、例外として新郎新婦並んで入場という形にしてくれた。
『……何故か王太子殿下が、俺が天使の父親役をやる! とか言い出し始めたので止めるのが大変だった……』
なんて旦那様は疲れた様子で言っていたけれど……王太子殿下はおちゃめな人だわ、と思った。
そんな殿下にも早く素敵な人が見つかる事を願っているのだけど……
コーヒーばかり飲んでいて話を聞いてくれない……と旦那様は言う。
「旦那様、私はあなたと入場出来て幸せです」
「ルチア……」
「……実家の没落で私には何の後ろ盾がありません。まぁ、もともとあって無かったようなものですけど……それでも……」
旦那様が優しく私を抱きしめる。
「俺はルチアがルチアらしく俺の隣にいてくれればそれでいい」
「……旦那様」
「君の笑顔が好きだ、あんな環境でも真っ直ぐ生きてきたその強さが好きだ、ちょっと小悪魔な所も、全部全部大好きだ」
「私も……大好きです!」
私が笑顔でそう答えたら、旦那様が抱きしめていた腕を解いて私を横抱きにした。
「……えっ!?」
「この方がルチアとの距離が近い。このまま入場しよう?」
「だ、旦那様……」
落ちないようにと、私が旦那様の首に腕を回すと嬉しそうに微笑んでくれた。
こうして、前代未聞の型破りな式場への入場を果たした私達の結婚式は、後に“天使がお姫様抱っこで運ばれて来た”と言って大きな話題になったという。
❋❋❋❋
「ルルルルルチアさん!」
「は、はい!」
そして、式の夜。
私と旦那様はベッドの上で何故か正座をして膝を突き合わせていた。
「君に質問です」
「はい!」
「こ、今夜の君のそのガウンの下は、フリフリですか? それともスケスケですか?」
「え! えっと……」
なんでそんな質問? と思ったけれど旦那様の顔は大真面目。
これはかなり大事な問題なのだと思われた。
「えっと……」
「……」
「りょ、両方です! フリフリしていてスケスケもしています!」
「りょっ……!?」
旦那様が両手で自分の顔を覆いながらベッドに倒れ込む。
「……まさか、今夜はそんな合わせ技だったなんて……危なかった、聞いていてよかった……」
「だ、旦那様……? 大丈夫ですか?」
「……ルチア……」
「きゃっ!?」
急に倒れ込んだので心配になり顔を覗き込もうとしたら、そのまま腕を取られて引っ張られ、私もベッドに倒れ込む。
「……」
「……」
そのまま旦那様の顔が近づいて来て、チュッと唇を重ねる。
「ルチア……今夜は、今夜こそは俺と……」
「……は、はい……」
旦那様の手がそっと私のガウンの紐を緩めた。
────……
これまで、ずっとずっと家族からいない者として扱われていた私。
美しいお姉様の陰に隠れて目立たなかった私。
ある日、そんな美しいお姉様と間違って求婚されて何も知らずに嫁いでみたら……
思いがけない旦那様からの愛情と幸せたっぷりな生活が私を待っていました───!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
しかし、また短編詐欺みたいになりました。すみません……
こんなに多くの人にお気に入り登録までして読んで貰えたのは、“無能な姫”以来ですかね?
ありがとうございます。
普段、どのランキングも見ていないのでコメントで教えて貰って知りましたが、どうやらHOTの1位になった時もあったそうで……!
とっても嬉しいです。
個人的にはお気に入り登録の『7777』が見たくて、あと一つってなった時は張り付いて画面を見ていました。昼間は仕事で見れないので、夜のタイミングで良かったです!
最後までルチアとユリウスを応援してくれてありがとうございました。
初夜が無事に出来たかは、皆様のご想像にお任せします!
鼻血アゲインでも悲願達成でもお好きなように……
王太子殿下の妃の事とか、幼馴染……大丈夫?
とか広げようと思えばもう少し話は広げられたかもしれませんが、元々短編のつもりで始めた話であり、既に長くなってしまっていますし、何より私は飽きっぽいのでダラダラ続けるのは性にあいません。
ルチアも幸せになってくれましたので、この辺りで。
それから、返信途絶えてしまったのに多くの感想コメントもありがとうございました!
全て楽しく読ませて頂いております。私の毎日の励みでした。
至らない面も多い私ですが、この話を最後まで楽しんで貰えていたなら嬉しいです。
また、最後までお読みくださった方に心より感謝を申し上げます!
最後に……新作も開始しています。
ご興味があれば、またお付き合い頂けたら嬉しいです。
『やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした』
ありがとうございました~!
738
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。