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3. 疑惑
しおりを挟む屋敷に到着して、私の顔を見ただけで結果が分かった両親二人は、これみよがしに大きなため息を吐いた。
「……っ」
分かっていても毎日、この失望したという顔を見るのは辛いものがある。
私も内心でため息をついていると、横からサヴァナが出て来て明るい声で言った。
「ただいま~! お姉様と偶然会えたから一緒に帰ってきたの!」
「あ、ああ、サヴァナ。おかえり、そうだったのか……」
お父様がどこかホッとしたようにサヴァナの頭を撫でる。
「そうよ~! あ、ねぇ、お父様? 今年の私の誕生日なんだけど~」
「あら? サヴァナ。あなた新しいドレスが欲しいってこの間、言っていたじゃないの。仕立て屋を呼んだこと忘れたの?」
「え~、他にねだっちゃダメ?」
さすが、サヴァナと言うべきか。
一気に屋敷の中の雰囲気が変わった。
そのまま三人はサヴァナの誕生日の話題で盛り上がり始めたので、私はそっと自分の部屋に戻った。
❋❋❋
「今日も無反応……じゃな」
「……はい」
そして、それからも、毎日毎日王宮に通い続けてみても、水晶が光ることはなかった。
(今日も、ダメだった)
いつもなら落ち込みながらもまっすぐ屋敷に戻るのだけど、その日はなぜか庭園に行きたい気分になった。
「そうね……綺麗な花たちを見たら少しは心の癒しになるかも」
このまま屋敷に戻っても、お父様とお母様にまた、大きなため息を吐かれるだけ。
それならばと気晴らしも兼ねて私は庭園に向かった。
「うわー、綺麗!」
たくさん植えられた色とりどりの花たちを見て思わずそんな声を上げていた。
「すごいわ! バラだけでも種類がたくさん! それからこっちの花は……」
さすが王宮の庭園。
本でしか見たことのなかった花がたくさん植えられていた。
「天気も良くて風も気持ちいいし……来てよかったかも」
下ばかり向いていたらダメよね! そう思った時だった。
「…………す」
「……だ…………」
(人の声……先客?)
庭園の奥の方から人の声がした。それも一人ではなさそう……
庭園はさらに奥に進むと王族のみのプライベートエリアになるけれど、その手前までは誰でも入れる場所。
だから、他に人がいてもおかしなことではない。
だけど、この時の私にはその聞こえてくる声に覚えがあった。
まさかねぇ……そう思いつつ、こそっと声のする方を覗くと……
「───サ!」
私は慌てて口を押さえる。
だけど、やっぱりそこにいたのは妹……サヴァナだった。
そして、サヴァナと一緒にいるのは───
(クリフォード様……)
どうして二人が?
庭園を散歩しようとして偶然出会った? え、そんなことある?
それに、この時間のクリフォード様は確か、いつも勉学の時間と聞いていたような……
もしかしたら、私と同じで息抜きにでも来てみたらサヴァナと会っただけ?
そんなこともあるわよね、と思おうとしたのだけど……
(……え?)
突然、サヴァナがクリフォード様に抱きついていた。
「…………で、…………す!」
「……」
二人の会話まではよく聞こえない。
ただ、クリフォード様が戸惑っている様子から、サヴァナがクリフォード様に何かを必死に訴えて抱きついた……そんな様子に見えた。
(ハッ……これでは単なる覗きだわ)
私は一旦二人のことを見るのをやめて深呼吸して心を落ち着かせる。
サヴァナはいつも誰とでも距離が近い子だ。これくらいは普通なのかも……
でも、さすがにこれは殿下相手に何をしているの! と怒らなくてはいけないところだけど……
そう思って私は再び二人にそっと視線を向けた。
「───!」
さっきまでは、サヴァナの行動に戸惑っている様子だったクリフォード様が、今はしっかりとサヴァナのことを抱きしめ返していた。
そんな二人の雰囲気はとてもじゃないけれど「何してるんですか!」と私が今から割って入れるような空気ではなかった。
そこから先のことは、あまりよく覚えていない。
気がついたら私は屋敷に帰っていた。
いつものように力が覚醒しなかったことで、両親からは冷たい目で見られて……サヴァナがいないからネチネチお小言を言われながらも部屋に戻って、そしてずっとぼんやりしていた。
(……怖いけれど、サヴァナが帰ってきたら聞いてみよう)
そう決心したすぐ後、サヴァナが帰って来た声がしたので、私は慌てて部屋を出てサヴァナの元に向かう。
「あら? お姉様、どうしたの~?」
「……サヴァナに聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと~?」
サヴァナが、不思議そうに、こてんと首を傾げる。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「サヴァナ……あなた、今日も王宮に行っていた……のよね?」
「そうだけど?」
「…………今日、クリフォード様にお会いした?」
「え?」
ほんの一瞬、サヴァナの目が大きく見開かれた。
けれど、すぐにいつもの笑顔に戻ってしまった。そして、サヴァナはそんなにっこり笑顔のまま私に言った。
「え~、どうしたの? お姉様。会ってないよ?」
「!」
サヴァナは堂々と私に嘘をついた。
「お姉様こそ、今日はお会いしなかったの~?」
「ええ……だから、サヴァナは見かけていないかしら? と思ったのだけど」
「ん~、知らないわ。きっとお忙しいのよ!」
「……」
(どうして嘘をつくのかしら? 抱き合っていたから?)
私の中にモヤッとした気持ちが生まれた。
その後、クリフォード様にお会いした時にも同じような質問をしてみたけれど、クリフォード様もサヴァナと会った記憶はないとはっきり口にされた。
(クリフォード様まで嘘を……)
「そんな質問するなんて、マルヴィナらしくないなぁ」
「そ……そうですか?」
「あれ? もしかして、何か疑っている?」
ギクッと私が身体を震わせると、クリフォード様は申し訳なさそうに言った。
「あれかな? この間、サヴァナ嬢の頭を撫でちゃったやつ……」
「え?」
「ほら、サヴァナ嬢を見ていると、なんだかもう一人妹が出来たみたいでさ───……」
───後から思えば、この時のクリフォード様はどこか様子がおかしかった。
こちらが聞いてもいないことを妙にペラペラと喋っていたし、目線も私とあまり合わなかった気がする。
でも、この時の私はそんなことには全く気付いていなかった。
こうして、少しのモヤッとした気持ちを胸に残しつつ、サヴァナの十八歳の誕生日がやって来た。
───私の運命が大きく変わることになる日、が。
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