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4. 好きな人の豹変
しおりを挟むサヴァナの十八歳の誕生日はとても天気のいい日だった。
朝からサヴァナはずっと機嫌がよくはしゃいでいて、それを私は今夜、我が家で行われるパーティーがそんなにも楽しみなのね、くらいにしか考えていなかった。
「サヴァナ。そういえば“すごく欲しかったもの”は貰えそうなの?」
「え~?」
「確か、特別なのよって言っていたわよね?」
「あ~」
王宮に出かける前、私がそう訊ねるとサヴァナは、ふふふと嬉しそうに笑った。
「もちろん! いい感じよ!」
「……いい感じ?」
私はその欲しかった物とやらを買って貰えそうなのかと聞いたつもりだった。
だから、その受け答えの意味がよく分からなくて聞き返したけれど、サヴァナはふんふん~と嬉しそうに鼻歌を歌っていて答えてくれなかった。
───
(十八歳の誕生日……かぁ)
サヴァナの誕生日だろうとなんだろうと、今日も私は測定に行く。
今日は力が発言するかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。
そんな王宮に向かう馬車に揺られながら、自分の誕生日の時のことを思い出していた。
あの日は、朝からドキドキが止まらなかった。
だって、ずっとずっと私はこの日を待っていた。
私の力ってなんだろう? この国や、クリフォード様の助けになれるような力だったらいいな。
そして──
……お父様とお母様が喜んでくれて……サヴァナに向ける笑顔みたいに私に笑いかけてくれたら…………嬉しいな。
ようやく、私が欲しかったものが手に入る───
そんな期待を胸に私は水晶に触れた。
(ピカッどころか、水晶はうんともすんとも反応しなかった……)
最初は意味が分からなかった。
あれ? 話に聞いていたのと随分と違うなって。
触れる時に何か祈りを込めるんだったっけ?
でも、ただ触れるだけでいい……お父様からも王宮魔術師からもそう聞いたはず──?
なら、どうして光らないの?
(何度も何度も色々な箇所を触って試してみたけれど、水晶は結局、最後まで無反応だったわ)
私はそっと自分の左頬に触れる。
「……初めてお父様とお母様に叩かれたのもこの日だったわ…………」
痛みと悲しさと虚しさでいっぱいになってしまった私の十八歳の誕生日。
家族からも、そしてその数日前に恋人になったばかりのクリフォード様からも……誰からも祝われることなく終わった。
「ううむ…………今日も何も反応がないのう」
「……」
今日も水晶は私が触れても静かだった。
「……いつも、付き合わせてすみません」
「マルヴィナ嬢……」
私が頭を下げると魔術師も困惑していた。だけど、私を見る目はどこか同情的だ。
(そろそろ、諦めるべきなのかな?)
私に特別な力なんて無いんだって認めなきゃいけない時が───
「────失礼します。少しよろしいでしょうか?」
「え?」
突然のノックの音と共に部屋に人が入って来た。
顔を上げて、よくよく見るとクリフォード様だった。
「クリフォード様……? どうされたのですか?」
「……」
私がそう訊ねてもクリフォード様はチラッと横目で私を見るだけだった。
──ドクンッ
(なに? なんだかすごく嫌な感じがする)
クリフォード様は私を無視して、王宮魔術師に視線を向けると訊ねた。
「……マルヴィナは今日も?」
「はい、無反応でした」
「そうか……やはりな」
───やはりな?
これでは、まるで私が失敗するのを分かっていたかのような言い方に聞こえる。
どうしてこんな言われ方をしなくてはいけないのかが分からず、呆然とする私をクリフォード様は大きなため息を吐きながら睨んだ。
(どうしてこんな目を向けてくるの……?)
「───君にはすっかり騙されてしまったよ、マルヴィナ」
「え? だ、騙され……た?」
話が見えない。
私が一体いつ彼を騙したというの?
「もう、隠さなくていい……全部、サヴァナ嬢から聞いたよ」
「サヴァナ……から?」
クリフォード様は大きく頷いた。
「君はずっと十八歳の誕生日……あの日を迎えるまで、家の中では家族や使用人相手にかなり傍若無人に振舞っていたそうじゃないか」
「ぼ、傍若……無人?」
「それが君の本性なんだよね? 僕の前ではいつも賢くて大人しい知的な女性の振りをしていたんだろう?」
本当に本当に何の話か分からない。
私は油断するとこぼれ落ちそうになる涙を懸命に堪えながら首を横に振って訴える。
「──クリフォード様! は、話が見えません。それは何かの誤解です、私は───」
「うるさい! その手で僕に触れようとするな!」
パシッ
(────っっ!)
私が伸ばした手は冷たく払いのけられてしまった。
「マルヴィナ……君はあの日、力が発現しなかったあとはとにかく八つ当たりでサヴァナにかなり辛く当たっていたそうだな?」
「え!?」
「この間、サヴァナ嬢は僕に泣きながら訴えていたよ」
(……! この間って、まさか……)
あの疑惑の密会の日の光景を思い出す。
「どんなに辛く当たられても、君のことが大好きだから我慢するつもり! でもそろそろ明るく振る舞うのは辛いの……そう泣いていた」
「違っ……違います……! 私はそんなことしていません! まさか……クリフォード様はサヴァナの話だけを聞いて全て信じたのですか……?」
将来、この国を統べる立場になろうという方が、片方の訴えだけを聞いて決めつけているなんて信じられなかった。
「もちろん他にも確認したさ。だが、君の両親も伯爵家の使用人も皆、口を揃えてこう言ったよ」
「……え?」
「──全てその通りです、と」
その言葉を聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になった。
(皆……が、口を揃えて……そう証言をし、た……?)
「それを聞いてだからかと僕は思ったよ。君は心が醜いから、特別な力を授からなかったんじゃないかってね」
「……こ、心、が醜い? わたし、の?」
クリフォード様は冷たい目で私を見る。
「残念だがそんな目で僕を見ても無駄だよ。もう、君には騙されない」
「クリ……」
「さて────そういうことだからさ、マルヴィナ。試してみないか?」
「た……めす?」
もう、頭の中がごちゃごちゃで何を言われているのかすらよく分からなくなって来た。
(試すって何を……?)
「君の酷い仕打ちにこれまで長年耐えて来た可哀想な令嬢───君の妹のサヴァナ嬢がそこの水晶に触れたらどうなるか、だよ」
「え?」
ドクンッ
また私の胸が嫌な音を立てた。
「……時代は変わってもはや長子ではなく、本当に力を持つに相応しい者の元に力は与えられるのではないかな?」
「ク、クリフォード……様」
それは、明らかに私は力を持つのに相応しくない。そう言っている……
「そういうわけで、今日はここにサヴァナ嬢を連れて来たんだ」
「えっ?」
クリフォード様は先程までの冷たい目が嘘のようににっこりと微笑んだ。
私は彼のこの優しい微笑みが好きだった……好きだったけど───
「今日、サヴァナ嬢は十八歳の誕生日だと聞いたからね────さぁ、どうぞ」
そう言ってクリフォード様は部屋の扉を開けた。
「すまない。待たせてしまったね」
「いいえ、大丈夫です。お邪魔します」
そう言って部屋に入って来たのはサヴァナだった。
(……ほ、本当に呼んでいた)
サヴァナは呆然とする私を見てクスリと笑った。
「どうして……」
私が小さな声でそう呟くと、その声を拾ったらしいサヴァナはとっても可愛い笑顔を私に向けた。
「あれ~? お姉様ったらもう忘れちゃったの?」
「わ、すれた?」
「────ふふ、言ったでしょう? 私、誕生日にすご~く欲しいものがあるのよって!」
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