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7. 裏切りを知った夜
しおりを挟む────私はこの先、どうなるのかしら?
急遽、セッティングされたサヴァナの為のパーティー会場の隅で壁にもたれながら、私はそんなことを考えていた。
ズキンズキンズキン……
まだ、頭だって痛い。本当はパーティーになんて参加したくなかったのに。
なのに、サヴァナは私の腕を掴んで離さなかった。
『あのね? お姉様にもパーティー参加して欲しいの』
『え……でも、さすがにそれはちょっと……私も疲れた、し』
『そんなぁ! 絶対にダメよ、お姉様~』
サヴァナは目をうるうるさせて首を横に振った。
そんな顔をされても嫌なものは嫌だった。
『でも、私がいない方が皆も……楽しめる……でしょ? その、気を遣わせたくないもの』
理由なんてなんでもいい。とにかく一人になって休みたかった。
『サヴァナ。それに私、今ちょっと頭が痛……』
『大丈夫よ~誰もお姉様に気なんて遣わないわよ! ね? だから、安心して!』
『……』
サヴァナは全く私の話を聞こうとしない。
そんなサヴァナは目を潤ませたまま言った。
『それに~、ここで不参加だと、お姉様もっと周りに色々言われちゃうかも』
『え……?』
そう言われてから周りを見ると、皆の視線が私たちに集中していた。
これはどちらを選んでも地獄のようにしか思えなかった。
パーティーが始まっても、誰も私に声をかける人はいなかった。
遠巻きにチラチラされるばかり。
だからこそ、ひとりぼっちの私は余計なことばかり考えてしまう。
十八歳の誕生日にローウェル伯爵家の特別な力を授かって、クリフォード様と正式な婚約をして皆の幸せのために生きていく───
そのための努力もしてきたつもりだった。
どんな“力”を授かるのかは分からないのだから、私自身が将来の王妃として相応しい人間にならなくちゃって。
(クリフォード様に言わせれば、もともと私にはそんな資格なかったようだけど)
だけど、その可能性の全てが消えた今……私って無力で“空っぽ”だわ。
何も無い。
そう思った時、はっと気付いた。
“守護の力”を手に入れたサヴァナがクリフォード様の婚約者となってこの国の王妃になることは、既にもう決まったも同然。
そうなると、ローウェル伯爵家は?
サヴァナが婿をとって継ぐはずだったローウェル伯爵家はどうなるの?
(長子が力を受け継ぐ……は変わってしまっていたとしても、伯爵家の血を継いでいくことは必要よね?)
つまり、私が婿を取ってローウェル伯爵家を継ぐことになる?
「……そうなったら、お父様とお母様も……少しは私に笑ってくれるかしら?」
国と王家のためにと生きるつもりだった道が、今度は家のためにと変わるだけ。
クリフォード様のことはまだ少し胸が痛むけれど……
それでも、新たな居場所があると思えるだけで少し元気が出た。
(んー……少し、風に当たりたい……)
そう思った私はそっと会場から庭園に繋がる道を通って外に出た。
「……うーん、こっちの庭園は暗くて花がよく見えないのが残念だわ。でも、風が気持ちいい」
パーティーの会場となっている部屋からしか抜けられない場所にあるこちらの庭園は、あまり知られておらず人気がない。
「この場所は、クリフォード様が教えてくれた……のよね」
人の目を気にせず二人きりになれるから、と。
だから、よくここに来ては二人で過ごした。
「……振られてしまったのにここに来るのは何だか虚しいものがあるけれど」
でも、そんなことよりも今は風に当たって一人になりたかったので、この場所はとても心地よかった。
それに、外に出て気分がよくなったせいか頭痛もようやく治まってきた。
私は大きく息を吸って吐く。そして思いっきり自分に喝を入れた。
「───よし! しっかりしなさい、マルヴィナ!」
身に覚えがないから、クリフォード様の言っていたような理由でなかったのだとしても、私が特別な力を授からなかったことは事実。それはもう受け入れるしかない。
「……それでも、私はこれでも他の人より魔力量は多いし、ローウェル伯爵家の為に生きることは出来るはず! 気持ちを切り替えて頑張るわよ──……」
そんな気合いを入れた時だった。
「あ、待ってください~、クリフォード殿下」
「はは、こっちはあまり人の来ない穴場なんだ」
ビクッ
その声に私の身体が震えた。
(サヴァナとクリフォード様……? まさかこっちに来る?)
私は慌てて茂みの影に身を隠す。
こんな所で二人との鉢合わせなんて本当に勘弁だ。
(失念していたわ……この場所を私に教えたのはクリフォード様だもの……)
だけど、パーティーの主役ともいえるサヴァナがこんな所に抜け出してきて大丈夫なのかしら?
ついついそんな心配までしてしまう。
(とりあえず、二人に見つからないようにここから離れて───)
「サヴァナ。先程、正式に父上から僕らの婚約の承認がおりた」
「本当ですか! 嬉しい~」
「このパーティーの最後に皆の前で発表する」
───サヴァナ……と、今、呼び捨てにした?
気のせいかしら? 随分と呼び慣れていたように感じたけれど。
(それより、婚約……決まったのね)
───正式な婚約前で良かったよ。こんな最低な女を妻に……この国の将来の王妃にするなんて絶対に御免だ。国が傾く。
クリフォード様に言われた言葉を思い出す。
守護の力を持ったサヴァナがいるんだもの。きっと国が傾くことはないのだと思う。
「ふふ、私、今日は本当に幸せです」
「サヴァナ……」
「これまで、ずっと辛いことばっかりでしたけど、努力して頑張っていれば、報われる時って来るんですね!」
(────なっ!)
サヴァナのその言葉に、その場から離れようとしていた私の足が止まる。
「……そうだな。しかし、驚いたよ。これまで一生懸命頑張ってくれていると思っていたマルヴィナが実は影で遊んでばかりだったなんてさ……」
「ごめんなさい、私、口止めされていたの。その、お姉様には……逆らえなくて……」
(……なんの話?)
「あぁ、だからサヴァナはいつも僕と二人きりで会う時はどこか脅えていたんだな」
「……お姉様に私たちの関係がバレてしまったら……と思うと怖くて……」
そう言ったサヴァナがクリフォード様に抱きついた。
クリフォード様もしっかりもサヴァナのことを抱きしめ返した。
「毎回、妹をダシにして僕に会いに来ていた子がよく言うよ」
「ふふ、だって………」
「───全く、しょうがない子だな。サヴァナ、君を愛しているよ」
「殿下、私もです……」
そう言って抱き合っている二人の顔が近付いて──……
(……どういうこと?)
覗きと立ち聞きをしてしまった私の身体は震えていた。
毎回、妹をダシにして会いに来ていた?
妹って王女殿下のこと、よね?
サヴァナは王女殿下と会うふりをして実際は……
(……私、ずっと騙されていた?)
二人の親密な関係はあの日の密会からなんかではなく、もっと前からで───……
力が抜けた私はヘナヘナとその場に座り込む。
ドレスが汚れてしまうとかそんなことはもう頭になかった。
(酷い……こんなの酷い)
それなら、あの交際の申し込みはなんだったの?
クリフォード様は私の気持ちを弄んでいたの?
二人して、ずっと私のことを間抜けな女だと笑っていた?
「……バカみたい……ずっと、私……」
そう口にして、今日一日ずっと耐えて来た涙が零れそうになったその時。
───ポツ
冷たいものが空から落ちて来た。
(……雨?)
顔を上げるとポツポツと雨が降り出していた。
「───え? きゃっ、雨?」
「サヴァナ! 濡れてしまう! 中に入ろう!」
「はい!」
熱いキスを交わしていた二人も突然の天候の変化に戸惑いながら慌てて会場へと戻って行く。
「……」
残された私はそっと空を見上げる。
これは間違いなく雨。
(今日は一日晴れと聞いていたのに……珍しいわ)
「……って、私も戻らないと! 泣いている場合ではないわ」
そう言って立ち上がり、涙を拭って私も会場へと戻ることにした。
会場に戻りながらもう一度、空を見上げて思った。
(────雨、まるで私の代わりに泣いてくれたみたい)
この悲しい気分を雨が全て流してくれたらいいのに……
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