10 / 66
10. もう、戻らない
しおりを挟む❋❋❋
(───ああ、やっと出て行ってくれたわ!)
ずっとずっとずっと自分にとって目障りだった姉、マルヴィナが小さな鞄一つ“だけ”を手に持って屋敷を出て行ってくれた。
その後ろ姿を見つめながら、私、サヴァナはニヤリとした笑みを浮かべる。
お姉様にずっと私の近くでウロウロされるのは目障りだと思っていた。
だから、一日でも早く家から……いえ、この国から出て行って欲しかった。
(うふふ……あんな小さな鞄のみでいったい何時まで生き延びられるのかしらね?)
お父様にさり気なく進言した甲斐があったわ~
お姉様は質素に過ごすのが好きみたいだから鞄も小さくていいのではないかしらって。
そうしたら、本当に小さな鞄を用意してくれたわ。さすが、お父様!
(あんな鞄では持ち出せたものは、せいぜい着替えとお金と換金用の宝石が数点って所かしらね~)
それくらいなら、いくら換金したとしてもほんの数日でお姉様の手持ちのお金はすっからかんになるはず。
(でも、ドレスに隠すとかしてコソコソ隠し持って行った可能性も捨てきれない!)
そう思った私は、念の為にどれくらい持ち出したのかを確認しようとお姉様の部屋へと向かってみる。
「なぁんだ、すごくたくさん残ってるわ~」
お姉様の部屋の扉を開けてみると、お姉様の持ち物はかなり残っていた。
「ふふ、やっぱり! そうよね……あんな鞄には全然入りきらないわよね~」
私はこの光景にとても満足した。
お姉様の使っていた物のお下がりなんて冗談でも要らないので、中を物色するという気持ちにもならなかった。
(──せいぜい長生き出来るといいわねぇ? お姉様)
「本当に……今日まで長かったわぁ」
ずっとずっと目障りで嫌いだった。
ローウェル家の長子──そんな理由だけで王子の婚約者候補、すなわち!未来の王妃候補になるとか信じられない!
「王子様の横に立つのは、可愛くて優れた人間がなるべきでしょ? 私みたいに」
お姉様が十八歳の誕生日に力を授からなかったと知った時、私は歓喜した。
同時にもしかして……とも思った。
だから、私は自身の十八歳の誕生日には何がなんでも水晶に触れる必要があったのよ。
そして、触れた結果が───
「……当然の結果よね! ……ただ、なんでお姉様は最後、笑っていたのかしら……」
絶望する顔が見たかったのに。
何故かお姉様はどこかすっきりとした顔をしていて、更には微笑みを浮かべて出て行った。
それがなんだかずっと心に引っかかる。
「ま、きっとお姉様の単なる強がりよね!」
これから先、お姉様がどこでどうなろうと、もう、私には関係ない。
私はクリフォード殿下と結ばれてこの国の王妃となる。
まさかの守護の力を手にしたせいで、皆、私を敬ってくれるのですごく幸せ!
(ずっとずっとずっとこうなりたかったんだもの~)
目障りなだけのお姉様が消えてくれて、これからは自分の時代がやって来る!
そう信じていた私は、お姉様が出ていってから数時間後にポツポツ降り出した雨がだんだん嵐のように強くなっていても全く気にも止めなかった。
❋❋❋
「よーし、無事に王都からは出られたようね……!」
家を出た私は馬車を乗り継ぎながら、とりあえず隣国を目指すことにした。
そして、ひとまず無事に王都から出られたことに安堵する。
実は追放だ! とか言っておきながら、秘密裏に始末されるのでは……?
なんて少しだけ危惧していたから。
もし、そうなると使い慣れていない攻撃魔法を駆使しないといけなかったから……本当に良かったと思う。
「私のことを無能だの出来損ないだのと言っていたから、始末する必要は無いと思われたのかもしれないわね……」
そう考えると複雑ではあるけれど、そう思い込んでくれていて良かったのかもと思った。
そして、空を見上げる。
「……かなり、どんよりしているけれど、天気もギリギリもってくれているようで良かったわ。万が一嵐とかになってしまっていたら、先に進むのは危なかったもの」
そんなことを思いながら、さて……と一息ついた私はこれからどうしようかを考える。
貴族令嬢ではなくなった私に宝石やドレスはもう必要ない。
隣国に着いたら即、換金してお金の足しにする。
収納魔法のおかげでかなり持ち出せたから、それなりのお金にはなるはずだ。
そのお金でしばらくは宿に止まりながら、早急に新しく住むところと仕事を探す──
けれど、それが一番の問題でもある。
「……勉強ばっかりしかして来なかった貴族令嬢の私に出来る仕事って何かしら?」
きっと何かあると信じたい。
「救いは言葉を理解出来ることよね……」
私が行こうとしている隣国は、ルウェルン国は隣同士であっても我が国とは言語や文字が違う。
だけど、私は言葉と文字に関しては子供の頃からずっと勉強してきたので、ルウェルン国に限らず周辺国なら困ることはない。
「私が王妃になることはもう無いけれど…………これまでの私が頑張ってきたことは決して無駄じゃなかった、ということよね……?」
これまで誰も褒めてくれる人なんていなかったけれど、私だけは自分を褒めてあげようと思った。
(そして……これからは、誰も私のことを知らない新しい場所で、今度こそ“幸せ”を見つけてみせるわ!)
そうして、私の隣国、ルウェルンまでの旅は順調に進んでいく。
だけど、国境を超えるときは少しだけ緊張した。
(───もう、この国には戻らない)
そんな決意を込めて私は生まれ育ったクロムウェル王国に別れを告げた。
隣国───ルウェルン国に無事に入国した私は、王都に向かうことにした。
地方よりはきっと仕事があるはずと考えたことと、国境付近の町をウロウロするのは何となく嫌だった。
────
そうして、入国してから約一週間。
なかなか仕事が見つからない私は息抜きを兼ねて、街の大きな図書館へと向かった。
(連日、職探しばかりで疲れちゃったから、少しくらいならいいわよね……?)
───ただただ息抜きをしたくて立ち寄ったこの場所で、私の運命が大きく変わる出会いがあることを、この時の私はまだ知らない。
391
あなたにおすすめの小説
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる