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11. 新しい出会い
しおりを挟む(あぁ、本がたくさん、癒しだわ……!)
図書館に入った私はうっとりしていた。
本当は一日でも早く職探しと住むところを見つけないといけないのは分かっている。
けれど、身元の保証もない十代後半の娘が闇雲に職を求めてきた所で「はい採用!」となるはずもなく……現実は厳しかった。
書架の間をウロウロしながら、どんな本があるのかを物色していく。
(すごい! 魔術関連の本もたくさんあるわ)
ルウェルン国はクロムウェルよりも魔術が栄えている国。
そのせいなのか、並んでいる本は向こうでは見たことの無い本ばかり。
そんな本たちを眺めているだけでも楽しくて、私はひたすら館内を歩き回っていた。
そして、とある一画まで来た時だった。
「はぁぁぁ、駄目だ……さっぱり分からない」
(───うん?)
本の背表紙を眺めながら大きなため息を吐いている人がいた。
何冊かを手に取ってみてはうーんと唸っている。
何に困っているのかしら? なんとなく気になってしまい思わずその人を目で追ってしまった。
(あら? あの方が手にしているのは……)
クロムウェル王国関連の本ばかりだった。
私にとっては見慣れた文字がたくさん並んでいる。
「本当に人使いが荒い……」
その人はブツブツと文句を言いながら、本を手に取ってみているようだけれど、かなり途方に暮れていた。
(……誰かに頼まれてクロムウェル関連の本を探しに来たけれど、文字が読めなくて困っている?)
キョロッと辺りを見回すと図書館員は忙しそうだった。
───クロムウェル王国に関することなら、私にでも何かお手伝い出来るようなことがあるかもしれない。
そう思った私は、ちょっとドキドキしながらその人の元へと近付き声をかけた。
「───あ、あの! なにかお困り……ですか?」
「……え?」
突然、声をかけられたものだから、相手もびっくりした顔で振り返って私を見る。
(すごく綺麗な髪だわ!)
最初に目に飛び込んできたのは、その人の髪の綺麗さだった。
あまりにも綺麗な銀の髪で思わず見惚れてしまった。
(優れた魔術師には銀の髪が多いと聞くけれど……この人もそうなのかしら?)
ただ、大きな分厚い眼鏡をかけていたので、表情がはっきり読み取れない。
当然だけど、その人は警戒し怪訝そうな様子で私に聞き返してきた。
「確かに困っていますが……えっと、あなたは図書館の方ですか?」
「──いいえ、通りすがりのただの図書館利用者です」
「……へ? 通りすがり……?」
私の返答に表情はよく見えないけれど、その人は明らかに動揺していた。
(いけない……これではただの怪しい人!)
私は慌てて弁解する。
「……な、何かお困りのようでしたので、お声かけさせていただきました」
「え?」
「私は、クロムウェル王国出身なので何かお手伝い出来ることがあるかもしれない、と思いまして……すみません、突然で怪しかったですよね……」
「クロムウェル……の出身?」
最初はどこか怪訝そうだったその人は、私のクロムウェル王国出身という言葉を聞いてハッとした。
「はい。あなたが、手に持っていらっしゃる本はクロムウェル王国関連の本ばかりでしたから気になってしまいまして」
「……」
「もし、文字を読むのが苦手なら、簡単なお手伝いくらいなら出来ますよ?」
「!」
私のその申し出にその人は天の助けとばかりに言った。
「そ、それなら助けてくれないだろうか? 実は頼まれてクロムウェル王国関連の本を集めているのだが……」
「ええ」
私が頷くと、その人は眼鏡のせいではっきりした表情こそ見えないものの、少し照れた様子で言った。
「そ、その、お察しの通り自分はクロムウェル王国の文字が……あ、あまり得意ではないんだ」
「やはり、そうでしたか」
「それなのに強引に本探しを頼まれてしまって断れず……困っていた」
(得意ではないのに……それは、大変)
「分かりました! それなら 一緒に探すのをお手伝いしますね」
「え」
「時間はあるのでお気になさらず! さて、どんな内容の本をご希望ですか?」
「……あ、ありが、とう……!」
はっきりした表情まではやっぱり分からなかったけれど、その人が嬉しそうなのはしっかり伝わって来た。
─────
「え? 依頼されたのは妹さんなのですか?」
「……そうなんだ。ちょうど今、クロムウェル王国について学んでいるようで、より詳しい本が読みたいとか言いだして……」
「それで、わざわざお兄さんのあなたが本を探しに?」
私が聞き返すと彼はバツの悪そうな顔をした。
「妹は人使いが荒いんだ……笑顔で押し付けてくる……」
口では文句を言いながらも、どこか妹さんへの愛が溢れているのを感じるわ。
優しいお兄さん、と思わず他人事ながら感心した。
また、同時に兄妹の仲がいい証拠なのね、とほっこりもする。
「仲の良い兄妹なのですね! それで、えっと? 妹さんの求めている資料はこの辺ですかね」
「あ……ありがとう」
やっぱり表情はよく分からなかったけれど、照れているのだけは何となく伝わって来た。
「……クロムウェル出身と言っていたけど、君のルウェルンの言葉はどこで学んだんだい?」
「え?」
彼のその質問に本を見繕っていた私は振り返る。
「…………あ、もしかして私のルウェルンの言葉、変だったりします?」
ルウェルン国の言葉は発音が少し厄介だ。
同じ言葉でもアクセントの位置やイントネーションで意味が変わってしまうので、気を付けなくてはいけないことが多い。
(隣国だから、今後も交流が多かろうと思ってかなり叩き込んだつもりだったけど甘かった?)
「いや! 違う。逆だ」
「逆……ですか?」
私は首を傾げる。
「それにしてはルウェルンの言葉をかなり流暢に喋っていたから……その、驚いただけなんだ」
「では、私の発音はおかしくはありませんか?」
「全く」
「!」
きっと、この時の彼は素直にそう感じたことを口にしてくれただけ。
“流暢に喋っていた”
だけど、今の私にはその言葉がとても嬉しかった。
(やっぱり無駄じゃなかった……)
「───あ、ありがとうございます」
私は嬉しくて少し照れながらはにかんだ。
────一方、その頃の祖国、クロムウェル王国では───
「クリフォード殿下ったら、そんな暗い顔をしてどうしたんですかぁ?」
「……」
今日も王宮でクリフォードとお茶をしていたサヴァナは、なぜか目の前のクリフォードの様子がおかしかったので訊ねた。
いつもなら私のことを愛しそうに見つめてくるのに。今日はため息ばかり。
(せっかく目障りなお姉様が消えてくれたのに……)
「いや、連日、雨が続いているだろう?」
「あ~……そうですねぇ……」
サヴァナはそっと窓の外を見る。
クロムウェル王国ではかれこれ一週間、ずっと雨が降り続いていた。
「でも、酷い嵐は収まりしたし……」
「……そうだけど」
「今のところ、災害の話は聞こえて来ませんから、大丈夫ですよ~」
「うん……」
サヴァナは更にとびっきりの笑顔で続ける。
「それに、“守護の力”を持った私がいるんですから、大丈夫ですよ~」
「……あ、ああ」
(殿下ったらどうしたのかしら? 今日は本当に元気がないわねぇ……)
何だか時々、頭を押さえているし……
ん~? もしかして雨のせいかしら?
ま、それなら、そのうち元気になるわよね!
だって、私の力は“最強”なんだから────
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