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25. 全てを話すことにした
しおりを挟む(真実の瞳でマルヴィナの心の奥を見てしまったリリーが言っていた……)
───ずっとずっと……幼い頃から必死に手を伸ばしているのに……誰からも省みられない……そんな孤独が視えました。
───そして───愛されたかった、という思い……
それだけで、マルヴィナと家族の関係は想像がつく。
そこでトラヴィスは、ふと思った。
(彼らの目的は本当に“魔術を学ぶため”なのか?)
まさかとは思うが、マルヴィナがこの国にいると知って何らかの理由でマルヴィナを連れ戻そうなどと考えたり……?
それは許し難い。
俺はマルヴィナが望まないことは絶対にさせたくない。
(───何であれ……そのご一行は完全に邪魔だな。マルヴィナの幸せには不要なものだ)
「…………殿下、もう彼らの訪問と滞在は断れないんですよね?」
「ああ。申請に不自然な点はなく、もう許可を出してしまったそうだから」
「……」
殿下もあまり乗り気では無いようだが、勧めてくるのは色々と面倒な外交も絡んでくるからなのだろう。
「ちなみに、殿下はクロムウェルの王太子の魔力はどの程度かご存知ですか?」
「普通」
「……は?」
「可もなく不可もなく。我が国レベルからすればお子様レベルくらいの魔力と言えるが、クロムウェルでは至って普通くらいだな」
イライアスの即答にトラヴィスは面食らった。
「お子様レベル……」
(……それならば、やりようはある、か)
「───殿下。彼らは“国一番の魔術師トラヴィス”の教えを乞えられればよろしいのですよね?」
「ん? ああ。まぁ、向こうはそういう要望だが……」
「ならば、俺の教えに彼らがついて来れなくても、結果として俺には何の問題もありませんよね? だって彼らが望んだわけですから」
「ん? ……トラヴィス?」
やって来るのがもう止められないなら仕方がない。出迎えるだけ出迎えてさっさとお帰り願おう。
トラヴィスはそうするしかないと決めた。
(だが、問題はマルヴィナの気持ちだ───……)
❋❋❋
新しい居場所でようやく見つけた落ち着いた日々。
リリーベル様の家庭教師をしながら、美味しい物を頂いてちょっとトラヴィス様にドキドキして、フッカフカのベッドとポカポカのお部屋でゴロゴロして、また、トラヴィス様にドキドキして……何だかんだで幸せな……そんな日々。
けれど、幸せになるってそんな簡単なことじゃなかったと、その日のトラヴィス様の言葉で思わされた。
「ク、クロムウェルの王太子……とその婚約者が……や、やって来る?」
「婚約者が魔術を教わりたいそうだよ」
「え?」
サヴァナが?
あの勉強嫌いで何事からも逃げ回っていたようなあの子が? 信じられない!
クリフォード様とサヴァナがやって来ると聞いて最初に思ったのはそれだった。
けれど、もしかしたらローウェル伯爵家の力を継いだことで、サヴァナにもようやく自覚というものが芽生えたのかもしれない。
(いや…………ないかな)
この話は、クリフォード様が勝手に提案した可能性が高いかな。
当のサヴァナは外国に旅行に行けるわと単純に喜んでいるだけ……そんな温度差があるのではないかしら?
「……マルヴィナ。それで……」
「……!」
私はトラヴィス様の表情を見てすぐに悟った。
トラヴィス様はきっと私がどこの誰なのか知っている……
このたび、やって来るクロムウェルの王太子の婚約者が“私の妹”だと。
(それなら、いっそ……全部話して──)
ドクンッ……
そう思うも、心臓が嫌な音を立てる。
───私、怖いんだわ。
国と家から追い出された“出来損ない”“落ちこぼれ”
トラヴィス様やリリーベル様にそう思われてしまうことが。
そうしたら、せっかく手に入れたこの新しい幸せが壊れてしまいそうで───
「……!」
そこまで考えてしまって、自分がすごく後ろ向きになっていたことに気付かされた。
グッと拳を握る。
(──確かに私はローウェル伯爵家長子のお役目……特殊な力を授からなかったけど)
私は決して出来損ないでも落ちこぼれでもない。
これまでトラヴィス様から学んだ魔術の時間がそれを私に教えてくれていた。
様々な力の使い方を教わることで、私にはまだまだ色んな可能性があるのだと知れたから。
(それに、こんなに優しい人たちのことを私が信じなくてどうするの!)
何より、トラヴィス様は私に何も話さずに、この話を隠しておくことだって、しようと思えば出来たはず。
それなのに敢えて私に話すことを選んだ。
(それって私を信じてくれているってことよね?)
だったら、私は下を向いているべきじゃない!
そう思って顔を上げてみると、トラヴィス様もリリーベル様も心配そうな目で私を見ている。
───二人にはこんな顔……させておきたくないわ。
(サヴァナは私の妹……でも、もうすでに縁が切れた人。もう他人。他国の人! それだけよ!)
「……トラヴィス様、リリーベル様」
私は二人に向かって名前を呼び、声をかける。
二人もじっとこちらを見つめてきたので、私もしっかり見つめ返した。
(───大丈夫よ!)
「すでにご存知かもしれませんが、私はクロムウェル王国にいる時は、マルヴィナ・ローウェルと名乗っておりました。ローウェル伯爵家の長女、でした」
「!」
二人の反応は、私が語りだしたことに驚いているようで、語り始めた内容について驚いている様子はない。
やはり、ある程度の素性は知られていたのだと分かる。
「───私の生まれたクロムウェル王国でのローウェル伯爵家というのは……」
私はしっかり顔を上げて前を向いて、ここに来るまでにあったことを口にした────
「───以上が、私がルウェルン国に来た経緯で───……!?」
話している最中は夢中で気付かなかったけれど、私の話を静かに聞いていた二人は……
(く、黒い……! 二人から、や、闇のようなどす黒いオーラを感じる!!)
漏れだした魔力が冷たくて部屋もヒヤッとしている。
「……なぁ、リリー。今すぐクロムウェル王国に行って王宮とローウェル伯爵家を灰にして来てもいいかな?」
(灰にする!? トラヴィス様が物騒なことを言い出したわ!)
「ふ、ふふっ……奇遇ですわねぇ、お兄様。私も同じようなことを考えましてよ」
(リリーベル様まで!?)
私が戸惑っていると、若干 黒いオーラを残したトラヴィス様が無言で私の側までやって来て、そのまま突然ギュッと抱きしめてきた。
「……!? ト、トラヴィス様……!?」
「大丈夫だ、マルヴィナ。そして、辛いことを話してくれてありがとう」
「え、えっと……」
私が戸惑っているとトラヴィス様は続けた。
「俺とリリーは君を軽蔑することなんかしない。俺はむしろ、惚……」
「むしろ……?」
「……っ」
私は聞き返したけれど、トラヴィス様は更にギュッと力を入れて抱きしめてくれただけで、言いかけたその後は口にしてくれなかった。
「───それにしても、彼らの無知さがよーーーく、分かりますわね」
「そうだな。そして、おそらく未だに何も分かっていないのだろう」
「そうですわね……」
(……分かっていない? なんのこと?)
黒いオーラを撒き散らす二人の会話は続く。
そんな中でリリーベル様が、そういえば……と切り出した。
「お兄様から魔術を教わるのは結構ですけど──クロムウェルの王太子はともかく……マルヴィナさんの妹とやらは、ルウェルン国の言葉って理解出来ますの?」
(───ん?)
「何だかお話を聞いていて、阿呆そうな方ですわー……と思いましたけど?」
「……」
リリーベル様は包み隠さずそう言った。
「ははは、さすがリリー。俺と思うことは同じだね」
「あら、やはりお兄様もそう思いまして?」
「ああ。だから彼女たちには“特別な授業”をしてさしあげようかなと思ってる」
「まあ! 素敵! それはいいと思いますわ」
(───特別な授業?)
ははは、ふふふ……そう笑い合う最強の美しい兄妹は、とっても黒い笑顔を見せていた。
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