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26. 暗躍する(黒い)兄妹
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マルヴィナの“これまで”を聞いたその日の夜。
トラヴィスはリリーベルの部屋を訪ねた。
「リリー」
「あら、お兄様? どうしてこちらに? マルヴィナさんの所におやすみの挨拶に行かなくていいんですの?」
「なっ……!」
ボンッと音がしそうなくらいトラヴィスの顔が真っ赤になった。
リリーベルは兄のそんな顔を見て思わず顔がニヤけてしまう。
(……まさか、お兄様のこんな顔が見られる日が来るなんて……)
「な、何で、お、俺が毎晩マルヴィナの部屋を訪ねていることをお、お前が、知って……いるんだ!」
「なんでって……」
───お屋敷の者、全員知っていますわよ?
リリーベルはその言葉を飲み込んだ。
お兄様は必ず毎晩、マルヴィナさんのお部屋を訪ねては“おやすみの挨拶”をしている。
それも律儀に紳士ぶっているため、マルヴィナさんの部屋の中までは入らずに入口で話している。
これがまたあまりにも目立つせいで知らない人はいない。
また、二人が揃って頬を染めながら話している姿はとても微笑ましい光景だ。
「……まぁ、いい。話が終わったらもちろん今夜も行くとも」
「ふふ、そうですか」
真っ赤な顔のお兄様の気持ちはもう周囲にバレバレだ。
でも、きっとマルヴィナさんはお兄様の気持ちには全く気付いていない。
よって現在、イーグルトン男爵家では当主の恋の行方が使用人たち皆の最大の関心ごとになりつつあった。
「それで? なんの用です?」
「クロムウェル王国のご一行様がやって来て俺が彼らの相手をする時、リリーも一緒に来てくれないか?」
「ええ? どうして私が?」
リリーベルが不思議に思って訊ねるとトラヴィスは真剣な面持ちで言った。
「今日、マルヴィナが言っていただろう? 伯爵家の力を判定するという水晶の話……」
「え、ええ……マルヴィナさんではなく、妹さんを選んだという水晶ですわね?」
「リリー。俺はクロムウェルのご一行が来る前に、王子に同行するという王宮の筆頭魔術師宛に手紙を出そうと思っている」
「手紙?」
リリーベルは兄の意図が分からず首を傾げる。
「その手紙に俺はこっそりその“水晶”を持ってくるようにと書くつもりだ」
「え!?」
「水晶は妹を選んだはず──だけど、国は異常気象に襲われたまま。さぞかし王宮の筆頭魔術師は頭を悩ませているはずだ」
「お、お兄様……まさか、それを逆手にとって……」
「ああ、ルウェルン国一の魔術師の俺になら、貴殿の悩み……何か解決策を授けられるかもしれない……と匂わせておこうかな、と思ってね」
トラヴィスはニヤリと笑った。
「魔術師が水晶を持ち出して来てくれさえすれば理由はなんでもいい。そして、その水晶をリリー、お前が“真実の瞳”で見てくれないか?」
「!」
リリーベルは兄の言葉に目を大きく見開いた。
(本当にお兄様ったら……)
ルウェルン国の者達は知っている。
魔術師トラヴィスは絶対に敵に回してはいけないということを。
(クロムウェル王国の者達はお兄様を怒らせた……彼らは終わりね)
「───真実を突きつけられた時、無能だ出来損ないだと言ってマルヴィナを追放した彼らはどんな顔をするかな?」
「ですけどお兄様。どんな理由で私を一緒に連れていくつもりなのです?」
まさか魔術師の妹です。で、通用するとも思えない。
リリーベルの言葉にトラヴィスは、ふぅ……とため息を吐いた。
「……リリー? お前は自分の立場を忘れたのか?」
「はい?」
「───お前は俺の妹だが、この国の王子イライアスの婚約者……リリーベル・クゥオーク公爵令嬢なんだぞ?」
「……」
(……男爵家に身を移してそれなりに経つ。久しぶりにその名前で呼ばれましたわ)
「───つまり、お兄様は私にイライアス様の名代として彼らに挨拶をしろ、と?」
「そういうことだ」
リリーベルの言葉にトラヴィスは大きく頷いた。
❋❋❋
一方、クロムウェル王国では……
ルウェルン国訪問が決定し浮かれているサヴァナの元に、クリフォードがやって来た。
一応、サヴァナはあれから旅行ではなく魔術を学ぶための訪問だということも聞かされていた。
──は? 何で? どうして私が魔術を学ばなくちゃいけないの?
そう文句を言いたかったけれど、そんなのは勉強する振りをして適当にサボって遊んじゃえばいいわよね!
サヴァナは勝手にそう決めて遊ぶ気満々だった。
「殿下! どうしました?」
「うん……」
サヴァナは思った。
何だか歯切れが悪い返事ね。殿下は私と出かけられるのに楽しみではないのかしら?
そう思っているとクリフォードが真剣な顔でサヴァナを見た。
「?」
「サヴァナ。いいか? 君が向こうに滞在出来る期間はそう長くはないんだ」
「はい、分かってますよ~」
だって、私がいなくちゃこの国の守護の力は働かなくなるものね~
「なので出発は秘密裏に行う。だから当然、向こうに行っても盛大な歓迎は行われない」
「え~」
せっかくクリフォード殿下の婚約者になれたのに誰からも注目されないなんて!
サヴァナは残念に思った。
でも、こんな最悪な天気が続いている時に、私が大々的に国を出てしまったことが国民に知られたらもっと非難が集中する可能性があるという。
確かにまたごちゃごちゃ言われるのは御免だ。
「だから、追加で短期間でなるべく多くのことを学ばせて欲しいと、ルウェルン国に連絡したところ……」
「したところ?」
「それならばと、ルウェルン国一の魔術師から手紙が届いた。先に僕たちに魔術の知識がどれくらいあるのか知りたいそうだ」
「なるほど~」
時間短縮をはかったわけね? さすが国一番の魔術師ね~
(そうそう、確か噂では若い男ですごくかっこいい人……と聞いたわ)
そんな噂を聞いてしまったのでクリフォード様には悪いけど、実は会えることをこっそり楽しみにもしているのよね……
あまりの私の可愛さに一目惚れされちゃったら困るわ~なんてこっそり浮かれてもいる。
(ふふ、楽しみだわ)
ところで、クリフォード殿下は何をそんなに浮かない顔をしているのかしら?
「殿下、どうかしたのですか?」
「……いや、実はその手紙がこれなんだが…………いや、開封すれば分かるか」
「?」
何かを言い淀む殿下からサヴァナは手紙を受け取る。
そして、言われた通り中身を開け、目を通した─────
「……は? 何これ」
(全く読めないわ……な、なんて書いてあるの?)
どうしよう。さっぱり読めない。何この字。
あれえ? ルウェルン国ってこんな字だったっけ?
勉強嫌いだったからうろ覚えだけど、こんな訳の分からない文字ではなかったと思うわ……
(そっか。だから、殿下も浮かない顔をしているのね?)
そう思ったサヴァナは顔を上げて殿下の顔をじっと見つめる。
すると、クリフォードは頷きながら言った。
「そうなんだ。これ、いくらなんでも量が多すぎると思わないか?」
「え? 量?」
「全てルウェルン語で書かれているから翻訳するのに時間はかかるし、量は多いし……こんなものを事前に送り付けて来るなんて向こうの国一番の魔術師とやらはなかなかいい性格をしていると思うんだよ」
「……」
クリフォード殿下は激怒しているけれど、サヴァナとしてはそういう問題ではない。
(……そもそも私には未知の文字に見えるんだけど、これ、本当にルウェルン語なんだ……)
サヴァナは内心で冷や汗をかいていた。
だって全く……何一つ読めない。量とか以前にこんな状態の私に回答なんて出来るはずがない。
───殿下に助けてもらおう!
「あの、殿……」
「未来の王や王妃としてはこれくらい読めて当然だと言いたいのは分かるけど、限度というものを考えて欲しいところだ。サヴァナもそう思わないかい?」
「え? …………そ、そうですね~」
───み、未来の王妃としてはこれくらい読めて……当然……!?
(どうしよう! ……よ、読めないから助けてなんて言い出しにくくなっちゃった!)
王妃失格と言われるのは困るサヴァナは結局、助けを求めることが出来ずにこう結論付けた。
幸い、〇か✕かみたいな質問が多そうだし────適当に書いちゃおう、と。
───そしてその頃、王宮筆頭魔術師もルウェルン国一の魔術師からの手紙を受け取っていた───……
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