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27. それぞれの思いを抱えて
しおりを挟む❋❋❋
「え? 王宮筆頭魔術師だけでなく、お、お父様……だった人も一緒に来るのですか!?」
「ああ。ローウェル伯爵ってマルヴィナ……君の父親だった人だろう?」
(そっか。お父……あの人の持っている力は王族の護衛……)
短期間でという話なので、ずるずると大勢の護衛を引き連れて訪問するよりも特別な力を持ったあの人だけを連れていく方が身軽だからということね、と思った。
「マルヴィナ、大丈夫?」
「大丈夫です。ただ、その……濃いメンバーだな、と」
(……私と関わり深い人ばかりが集まろうとしているのは偶然……なのかしら?)
「クロムウェルとしては訪問をあまり派手にはしたくない、ということでしょうか?」
「……王子の婚約者が魔術を学ぶのが目的だし、それに……」
「それに?」
「いや……」
トラヴィス様は首を横に振ってその先は言わなかった。
「それから、これ」
「!」
これ、と言ってトラヴィス様が二通の手紙を私に見せてくれた。
それは私にとって見覚えのある文字───
「サヴァナとクリフォード様の字ですね?」
「うん。事前に送っていた手紙の返事が来た」
サヴァナたちの訪問の日が近付く中、トラヴィス様は一度、クロムウェルに手紙を出していたという。
目的は二人がどれだけルウェルンの文字を理解しているかを知るため、とのことだったけれど。
「どうでした?」
「うーん……まぁ、王子の方は最低限の理解はしている、という感じかな?」
「最低限の教育は受けて来ていますからね」
「そして、肝心の妹は───」
そう言ってトラヴィス様はサヴァナが書いたという返信の中身を見せてくれた。
「……」
「……」
(こ、これは……)
私もトラヴィス様も言葉を失う。
「サヴァナ……全く理解していませんね?」
「俺もクロムウェル語は話せるけど文字は苦手だから、人のことは言えないがこれで王子妃……未来の王妃に、というのは……ちょっと……」
……クロムウェルの妃教育のレベルを疑う。
トラヴィス様ははっきりそう言った。
「分からないなりに自分で調べてみる、勉強してみる、そんな気持ちすらもなく、適当に返信を書いたんだろうなぁ」
「……性別が“男”に〇がついていますからね」
「文字でこれなら、会話はもっと無理だろう」
「ルウェルン語は特に発音が難しいですから」
私がそう言うと、手紙を見ていたトラヴィス様が顔を上げてじっと私のことを見た。
分厚い眼鏡越しでも視線を感じる。
「どうしました?」
トラヴィス様はフッと優しく微笑むと手を伸ばして私の頭を優しく撫でた。
その仕草に胸がドキッとする。
「……初めて図書館で会った時も思ったけど、マルヴィナの発音は綺麗だ。俺は言われなかったら君がクロムウェル出身だとは思わなかった」
「あ、ありがとうございます」
私が照れながらお礼を伝えると、トラヴィス様の笑みはますます深くなる。
「マルヴィナがこれまで頑張って来た成果はきちんと出ている」
「トラヴィス様……」
(知らなかった……)
誰かに頑張りを認めて褒めてもらえるってこんなに嬉しいことだったんだ……
胸の奥がポカポカしてあたたかい。
そして、思う。
(褒めて認めてくれた相手がトラヴィス様なのが……もっと嬉しい)
私たちはしばらく微笑みながら見つめ合った。
「───コホンッ、そろそろいいかしら? お兄様もマルヴィナさんも私の存在すっかり忘れていません?」
「!」
「リ、リリー……!」
気まずそうに間に入って来たリリーベル様の言葉にハッとする私たち。
「仲良くすることはとっても良いことですけど、今は……」
「そ、そそそそそうだな! 話を進めよう!」
「はははははい!」
慌てる私たちの姿をリリーベル様は苦笑しながら見ていた。
「────それで、ご一行がルウェルンを訪問して来てからのマルヴィナなんだけど」
「あ……」
その件についても、私はとある覚悟を決めていた。
トラヴィス様もリリーベル様も、彼らのルウェルン国の訪問中、私は彼らと鉢合わせすることの無いよう屋敷から出ないようにしよう。
……そう言われる気がしている。
(でも……)
「それなのですが、トラヴィス様」
「うん?」
「……」
彼らの訪問は短期間なのだから、大人しくしているべきだとは分かっている。
それでも!
私はギュッと拳を握りながら口を開く。
「──私も、その場に同席したいです」
「「え!」」
トラヴィス様とリリーベル様の驚きの声が重なった。
❋❋❋
「──それじゃ、行くよ。サヴァナ」
「はい!」
その頃のクロムウェル王国では、クリフォード、サヴァナ、王宮筆頭魔術師、ローウェル伯爵の四人が馬車に乗り込んで雨の降る中、秘密裏に王宮を出発。
サヴァナは馬車に揺られながら内心浮かれていた。
(いよいよ、ルウェルン国ね~)
適当な返事を送っちゃったけどあれから、特に連絡ないし~
国一番の魔術師とか言ってるけど、案外チョロいのかも~
(楽しみ~)
あれ? でも、そういえば私、ルウェルン語、話せないけど……
クリフォード殿下もそのことは何も言っていなかったわね?
サヴァナは今になってようやくそのことに気付く。
「……」
ま、大丈夫よね!
通訳がいるか、向こうが私に合わせてくれるでしょ!
いざとなればこの人たちがいるもん。
そう思ったサヴァナは同行の三人をチラッと見る。
いつもと変わらない様子のクリフォード殿下。
(頭を抑えているから頭痛はしてるのかも)
顔色が悪く、どこか挙動不審な様子の王宮筆頭魔術師。
(すごいギュッと力を込めて荷物を抱きしめてるけど……何あれ)
疲れ切った様子のお父様。
(……未だに犯人が見つからないからお母様とも喧嘩三昧だものねぇ……)
何だか辛気臭い空気だわ、とサヴァナは思った。
空気を入れ換えたかったけど外……は、相変わらずの雨。
サヴァナはそっと窓の外を見上げる。
短期間とはいえ、私が留守にすることで、嵐になるとかもっと酷い天候になっちゃったりして……
(ん~、でも我慢してもらうしかないわよね!)
そうなったらなったで私の有難みがよーーく分かるってことだし~
それぞれの思いを抱えながら、馬車はルウェルン国へと向かった。
そして、サヴァナたちを乗せた馬車が無事に国境を越えてルウェルン国に入国し、少し経った頃……
クロムウェル王国の天候にとある変化が起きた。
───そのことは、サヴァナはもちろん、クリフォードも魔術師も伯爵も……まだ、知らない。
❋❋❋
───そして、いよいよクロムウェル王国ご一行様がやって来る日。
「えいっ───……と、こんな感じで大丈夫かしら」
着替えた私は自分の身体に術をかけた。
流した魔力が私の全身に流れていく感じがする。
(……上手く変身出来ているといいのだけど)
そう思って鏡を見ようとしたその時、部屋の扉がノックされた。
「マルヴィナ、準備は出来た?」
「マルヴィナさん、どんな感じになりました?」
「はい、ちょうど今、自分に術をかけ終えたところです───」
二人の声に私は振り向きながらそう伝える。
「……どうでしょうか。ちゃんと別人になれていますか?」
私はドキドキしながら二人に声をかけた。
トラヴィス様とリリーベル様が顔を見合せながら頷き合う。
「面影がさっばり…………完璧な変身魔法だ」
「ええ、お兄様。さすが、マルヴィナさんですわ……普通はどことなく“本来の姿”が残るものと聞いていますのに……」
「?」
二人が顔を見合せながら何かをブツブツと呟いているけれど、この様子なら私の変身には特に問題はなさそうなのでホッとした。
「……」
クロムウェル王国ご一行様の所に同席したいと申し出た私。
だけど、そのまま“マルヴィナ”としていきなり姿を見せるのは、さすがの私も抵抗がある。
だから考えた。
幻影魔法の応用として自身を変身させることは出来ないかしらって。
(幻影魔法って言ったらトラヴィス様、すごく驚いていたけれど……)
「……これなら(阿呆そうな)彼らはマルヴィナだとは全く気付かないだろうな」
「そうですか!?」
「ええ……間違いありませんわ(絶対阿呆ですもの)」
「良かったです!」
二人にそう言われて私は安心して微笑んだ。
こうして、私はいよいよ因縁のある“あの人”たちと、久しぶりの対面を果たすことになった──
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