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28. 久しぶりに会った彼らは
しおりを挟む「───皆様、本日は、ようこそいらっしゃいました。私は──」
そして、無事にルウェルン国に到着したご一行様。
代表してリリーベル様がクロムウェル語で彼らに挨拶を始めた。
二人は挨拶だけは、クロムウェル語で行うと決めていたそうだ。
クロムウェル語はルウェルン語に比べたら会話は難しくない。
それでも、リリーベル様は完璧を望まれたので発音、言葉遣いは全て私が事前に入念にチェックを行った。
──緊張しますわ、震えますわ、人前で話すのは苦手なんですの……と直前まで震えていたリリーベル様だけれど、話し始めてしまえば、その姿は立派で堂々としたものだった。
(それよりも……)
私は横にいるトラヴィス様と挨拶をしているリリーベル様を交互にチラチラ見る。
(……まさか、二人が公爵家の子息令嬢だったなんて!)
失礼ながら、前に高位貴族の空気を感じていてトラヴィス様が男爵位であることに驚いた私は間違っていなかった!
イーグルトン男爵はもともと公爵が持つ爵位の一つで、“真実の瞳”のせいで思い悩んで苦しむリリーベル様の為に、先に男爵位だけ継承したのだと説明された。
(トラヴィス様って、本当に妹思いのお兄さんだわ)
そう思ったら私の胸がトクンッと鳴った。
そんなトラヴィス様はつまり……
(次期公爵閣下!)
改めてモテるはずだわ、と再認識する。
あの美貌に加えて国一番の魔術の腕を持ち……性格も優しくて格好よくて……果ては未来の公爵だなんて、令嬢たちが黙っているはずがない。
(リリーベル様もルウェルン国の王子殿下の婚約者だというし……)
本当に恐ろしい兄妹だと改めて思う。
(でも、男爵だろうと公爵だろうとトラヴィス様もリリーベル様も何も変わらないわ)
改めてそんなことを考えていたら、隣に立っているトラヴィス様が小声で話しかけてきた。
「……(マルヴィナ、キョロキョロしてどうかした?)」
「……(いえ、リリーベル様が立派に挨拶されているなと……)」
「……(ああ、なんだかんだ言ってリリーは度胸があるからね)」
「……(そうですね)」
私たちはこっそり目配せしながらそんなことを話した。
───何であれ、このリリーベル様の挨拶で、この人たちはクロムウェル語で接してくれるのだと安心したに違いない。
特に言語に不安が残るサヴァナは……
そうして、私はやって来たご一行様に目を移す。
妹だったサヴァナと、ほんの一時だけ恋人だったクリフォード様、私を無能で出来損ないだと追放宣言したお父様だった人、何度も何度も魔力測定に付き合わせてしまった筆頭魔術師。
懐かしいといえば懐かしい顔触れ。
(“私”を見てもなんの反応もない。変身は大丈夫そうね)
「……」
サヴァナは少し化粧やドレスが派手になったかしら?
クリフォード様は少しやつれた……ように見える。
時々、頭を押さえているみたいだけれど、どうしたのかしら? 頭を押さえる度に魔術師がクリフォード様に向かって何かを施している様子が見て取れた。
(んん? あれはいったい何を?)
そんな筆頭魔術師も顔色はあまり良いとは言えない様子だ。
そして、何故かお父……伯爵は、この中で誰よりも面変わりしていてげっそりしているんだけど!?
これにはかなり衝撃を受けた。
軽く十歳くらいは老け込んで別人みたいになっている! いったい何があれば人間こんなに一気に老け込むわけ?
(けれど、全く気の毒とは思えないわ。案外、何かの天罰だったりして…………なんてね)
「……(ねぇ、マルヴィナ)」
「……(はい)」
「……(約一名を除いて全体的に覇気のない人たちだね)」
トラヴィス様のその言葉に同意しかなかった私は大きく頷いた。
そして、リリーベル様の挨拶が終わると全員で別室に移動し、いよいよ、ルウェルン国一の魔術師トラヴィス様による魔術を教える時間となる───
❋❋❋
(はぁぁぁ? 到着して休む間もなくいきなり勉強に入るの~?)
ルウェルン国に到着して挨拶が終わり次第、直ぐに魔術師による授業が開始すると事前に聞かされていたサヴァナは不満でいっぱいだった。
(普通、ここはまず休憩でしょ~!? じっくりもてなすところよ!?)
ルウェルン国って常識が無いんじゃないの!?
これで、噂通りに魔術師が若くてかっこいい人じゃなかったら本当に最悪。勘弁だわ!
サヴァナはそんな気持ちでルウェルンの王宮へと足を踏み入れた。
───
「───皆様、本日は、ようこそいらっしゃいました。私は、リリーベル・クゥオークと申します」
代表して挨拶に出て来たのは、ルウェルン国の王子の婚約者と名乗る公爵家の令嬢だった。
(……び、美少女!)
断然、私の方が可愛いけれど、なかなかの美少女だった。
けれど、こっちは王子とその婚約者の私。未来のクロムウェル王国の王と王妃なのに、いくら公爵令嬢と言っても何で婚約者の挨拶なわけ? ここは王子が出てくるところでしょう?
と、思っていたら……
「今回、魔術を教えることになる我が国一の魔術の使い手は、私の兄でございます」
(この美少女の兄が魔術を教えてくれる魔術師なの!?)
サヴァナはその言葉を聞いて大興奮した。
妹でこれならこれは、間違いなく噂通り……!
しかも、公爵令嬢の兄ということは……未来の公爵!
(ふふ、これはもう絶対に仲良くなっておかなくちゃ~)
ところで、その肝心のかっこいい魔術師はどこにいるのかしら?
そう思ってキョロキョロと視線を動かしたけれど……
(あれぇ?)
おかしい。それらしき人がいないわ。
もしかして魔術師は後から登場するのかしら?
だって、若そうな男性といったら、隅っこにいる野暮ったくてダサい眼鏡をかけた人くらいなんだもの。
(なにあの風貌……とってもダサ~い)
よくあんな格好で外を出歩けるわね。
と、思わず笑いが込み上げてきて吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
(それに、ダサい男の側にはこれまたダサい女がいるじゃないの~……)
そのダサい眼鏡男の横にいる女のこれまた野暮ったいことと言ったら! 笑えるわ~。
だけど、この二人は何者なのかしらね?
そんなことを考えているうちに公爵令嬢の挨拶は終わっていた。
サヴァナはそこで、そういえば……と思い出す。
今の挨拶はクロムウェル語で喋っていた。
と、いうことは……これから行われる魔術師の授業とやらもきっと……
(な~んだ! 心配して損しちゃった! 良かったぁ~)
「……サヴァナ、大丈夫かい?」
別室に移動中にクリフォード殿下が心配そうに声をかけてくれた。
言語の心配が無くなったサヴァナは浮かれ気味で答えた。
「大丈夫ですよ~!(かっこいい魔術師に会えるのが)楽しみですし!」
「そ、そうか……そう言ってくれて嬉しいよ。さすが、サヴァナだな」
クリフォード殿下はそう言って微笑みを浮かべたけれど、どこか元気がない。
「殿下こそ大丈夫なんですか?」
「あ、ああ……ただ、ルウェルン国に入国した辺りから頭痛の頻度が突然、増えて……」
「まあ!」
「王宮入りして挨拶を受けていたらますます、酷っ…………くっ」
辛そうな殿下を見て私はそうだ! と思った。
「クリフォード殿下、そんなに辛いなら別室で休ませてもらったらどうですか?」
「だ、だが、しかし……魔術の」
「授業は今日だけではありませんから大丈夫ですよ~! あ、心配なら、後で私が今日教わった分は殿下に教えますから! ね?」
「そ、そうか? ん……それなら……その言葉に甘えて……」
そう言ってお父様と筆頭魔術師に話をするクリフォード殿下を見ながら、私はほくそ笑む。
お父様は殿下の守護者。
筆頭魔術師も殿下に力を送る役目がある。
つまり……
(ふっふっふ……やったわ! 殿下には悪いけれど、これでかっこいい魔術師と私の二人っきりの授業となるのね~~!)
頭が痛そうな殿下をしおらしいフリをして見送ったあと、ルンルン気分で魔術の授業が行われるという部屋に入った。
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