【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

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29. 惨めな妹

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(─────は?  どういうこと?)

 噂のかっこいい魔術師と二人っきり~とルンルン気分で浮かれていたサヴァナを待っていたのは……

(あの野暮ったい地味ダサい眼鏡の男!  ここで何をしているわけ?)

 何故か部屋にいたのはあの冴えない男と冴えない地味女の二人。
 ま、まさか……
 サヴァナの頭の中で嫌な想像が一瞬過ぎったけど、必死で打ち消した。

(きっと……きっとこの人は助手かなにかよ……ね?  そうよね?  そうだと言って!)

 だって信じたくない。この野暮ったい地味ダサい眼鏡の男が国一番の魔術師だなんて!
 きっと“本物”はこのあと来る……来るのよ……!

(助手だろうと、とりあえず挨拶……くらいはしておくべき、よね?)

「こ、こんにちは~!」

 家族やクリフォード殿下がいつも可愛いと言って褒めてくれる笑顔で声をかけてみた。
 これまでも、この笑顔でニコニコさえしていれば、皆可愛いと言ってくれて大抵のことは上手く切り抜けられたから。
 だけど───

「●▽▲◆◇△」
「……」

(────は?)

「●▽▲◆◇△」
「え?  えっと……?」

(ど、どうしよう……!  何を言っているのかさっぱりなんだけど!?)

「●▽▲◆◇△」
「……っ」

 困ったことに他に“誰か”が来る気配もない。

(ま、まさか……この人が魔術師だというの……?  はっ!  そうよ、ダサくて地味な女性が一緒にいたわ!  彼女なら何か言ってくれるかも)

 そう思ったサヴァナは女性の方に視線を送る。
 パチッと目が合った。

「!」

 ニコッ
 彼女は静かに微笑むだけで何も言わなかった。

「~~~っっっ!」

(私には全く及ばない地味な女のくせに!  手伝いだかなんだか知らないけど、それなら私の役に立つことしなさいよ!)

 ダサい眼鏡男と地味女は何やら会話をしている。
 そんな会話も何を言っているのかさっぱり分からない。

「……」
  
 ───ゾクッ
 それに、なんなの?
 このダサい地味女……なんだか、
 初対面の知らない人のはずなのに……どうして?

 そんなことを思っているうちに、気づくとダサい眼鏡男がこちらにやって来る。
 机を指さしているから、座れと言っているんだと思う。
 サヴァナがそっと着席するとその男は頷いた。そしてまた、何かを喋りだした。

「◇●▽△▲▽◆」
「……わ、分からないです!  お願いですから、わ、私にも分かる言葉で喋ってくれませんか!?」
「▲△▲▽◇●」
「っ!  だからぁーーー」

 サヴァナはガタンと椅子を蹴って立ち上がる。
 もう!  こうなったら、こんなダサい眼鏡男に使うつもりじゃなかったけど、“可愛い私”のうるうる作戦よ!
 そう決めたサヴァナは、一旦、顔を俯けて目に涙を浮かべると、顔を上げてそっと上目遣いになる。
 そして地味ダサ眼鏡男を潤んだ瞳でじっと見つめた。

「わ、私にも分かる言葉で説明してくださいませんか?  お願いします~……」
「……」
「……」

 地味ダサい眼鏡男は無言のまま。
 分厚い眼鏡のせいで瞳の奥がよく見えないので表情すら分からない。

(ぶ、不気味……!)

 そう思った時、ダサい眼鏡男が大きなため息を吐いてパチンッと指を鳴らした。
 すると、サヴァナの身体の中に何かピリッとしたものが全身に走った。

「……え?」

 そして一瞬、身体の自由が奪われて無理やり着席させられる。
 何が起きたのか分からず、そのまま呆然としていることしか出来なかった。

(な、なに?  ……今のって魔術……?)

 全く抵抗も出来ないすごい力だった。
 そうなると、本当の本当にこのダサい男が……若くてかっこいいという噂の国一番の魔術師なの?
 嘘よ……ね?  お願いだから嘘と言って?

(こんなことならクリフォード様を別室で休ませるべきでは無かったわ)

 頭が痛かろうがなんだろうが一緒にいてくれたら少しは役に立ってくれたでしょうに……と悔やむ。

「▲◇●◆▽▲△◇」
「……」
「◇◇◆●▲」

(もうやだ、何を言っているのか、さっぱり分からない……!)


 ───こうして、サヴァナはその日、何一つ相手の言っていることを理解出来ぬまま最初の授業を終えることになった。



❋❋❋


 サヴァナが目に涙を浮かべて、ガックリ肩を落として退出したあと───

「トラヴィス様、お疲れ様でした」
「うん、マルヴィナも」
「いえ、私は何も……」

 サヴァナとは一度目が合ったから、微笑んで誤魔化しておいた。
 あれはいつもの誰かに助けを求めている目だったわ。

「思った通り、サヴァナ……全く理解していなかったですね」
「ああ。何回、席に着けって言ったかな……」
「少なくとも三回は」

 これで嫌になってさっさと帰ってくれればいいのだけど。

「ただ、残念だな。あの醜態は王子にも見せるつもりだったんだけど」
「……」
「明日は王子、現れるのかな?」

 聞いたところによるとクリフォード様は頭痛が酷いらしい。
 それで筆頭魔術師と伯爵はそちらに付き添ったのでサヴァナが一人で来る……と説明は受けていた。

(頭痛……これは偶然なのかしら?)

「───マルヴィナ」
「はい…………って、えっ!?」

 トラヴィス様に名前を呼ばれて顔を上げたと同時に腕を取られて、私はトラヴィス様の胸の中に飛び込んでいた。

「!?!?!?」

 そして、そのままギュッと抱きしめられる。

(……あたたかい)

 トクンッと私の胸が高鳴る。
 だけど、突然どうしたというの?  

「あ、あの……」
「今、マルヴィナ……あの王子のことを考えていただろう?」
「え?」

 そう口にするトラヴィス様の声がどこか不貞腐れているように聞こえた。

「えっと、それは……」
「……分かっている。マルヴィナは優しいから君を裏切ったような最低な男であっても、頭痛と聞いて心配しただけなんだと。でも!」
「で、でも?」
「面白くない!」
「お……」

 プイッと顔を逸らしながらそんなことを言うトラヴィス様がすごく可愛く見えてしまった。
 思わずクスリと笑ってしまう。

(トラヴィス様ったら……)

 私が自分でも驚くくらい穏やかに彼らの顔を見ることが出来たのは、あなたがいてくれているからなのに。
 こういうことって上手く伝わらないものなのね……

 そう思った私はギュッと抱きしめ返す。こうすることで“ありがとう”の気持ちが伝わればいいのにと思いながら。
 そんなトラヴィス様は少し戸惑いながらもしっかり私を受け止めてくれた。

「……心配と言うより、“頭痛”のことが気になっていました」
「気になっていた?」
「はい。私もしばらく頭痛に悩まされていた時期がありましたので」
「マルヴィナも?」

 そういえば頭痛の話はしていなかったかも。

「ええ、サヴァナが力を授かってから、ですかね。わりと頻繁にありました」

 私がそう口にしたら、トラヴィス様が何か心当たりがあるのかハッとした様子を見せた。

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