【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea

文字の大きさ
35 / 66

35. 化けの皮が剥がれました

しおりを挟む

❋❋❋


(な、なんてこと!)

 サヴァナが突然、立ち上がって暴言を吐いたと思ったら机の上にある物を手当り次第、トラヴィス様に投げ付け始めた。

「国一番の魔術師だかなんだか知らないけど、ただの地味ダサい眼鏡男のくせに、何様なのよーー!」

 ブンッ
 勢いの止まらないサヴァナはとにかく手当り次第何でもトラヴィス様に向かって投げ付ける。

(あ、危ない!)

「あんたは“たかが”魔術師でしょ!?  こっちはクロムウェルの未来の王妃だっつーの!  敬う姿勢を見せなさいよーーーー!」

 怒り狂ったサヴァナの暴走を、この場にいた全員が唖然として見ていることしか出来なかった。
 特にクリフォード様や父親の伯爵はあんぐり口を開けてポカンとした間抜けな顔を晒している。

(サ、サヴァナ……何しているの!  と、とにかく暴走を止めなくちゃ!)

「サ……」

 今の自分の姿とか正体がバレるとか、そんなことよりもトラヴィス様を守りたくて止めに入ろうとした私をトラヴィス様が無言で制止してきた。
 私はハッとしてその場に止まる。
 そして、その間もサヴァナの暴走は止まらなかった。

「噂では魔術師は若くてカッコいいって話だったから、ウキウキして来てみれば……単なる地味ダサい眼鏡だし!  ガッカリよガッカリ!  あんた鏡見たことある?」
「……」
「本当は国一番の魔術師ってのも嘘なんじゃないの~?」
「……」
「どうせ、その眼鏡の下も人に見せられないくらいダッサい顔をしてるんでしょ!」

 サヴァナが、ブンッと机の上にあったペンケースをトラヴィス様の顔に目掛けて投げ付ける。

(……あ!)

 カシャーン
 トラヴィス様が避けようとしなかったのでペンケースはトラヴィス様の顔に命中してしまった。
 同時にトラヴィス様の眼鏡が弾け飛ぶ。

「……」
「ふふ、あ~ら、ごめんなさい?  顔を狙ったつもりはなかったんです~、でも、当たった方が少しはまともな顔にな…………ぁあっ!?」

 クスクス笑いながらトラヴィス様を散々小馬鹿にし続けたサヴァナが、突然変な声を上げて固まった。

「……え?」
「……」
「は?  はぁ!?  ちょっと……だ、誰よ?」
「……」

 トラヴィス様は、無言でサヴァナを見る。
 だけど、先程までと違うのは、トラヴィス様が素顔ということだけ。

「う、嘘でしょ?  キラキラ……眩し……えっ?  めちゃ……」

 トラヴィス様の美貌を目の当たりにしたサヴァナが激しく動揺し始めた。

「や、カッコいい……こ、好み……」

 先程までの暴言三昧をすっかり棚に上げてそんな言葉を呟いたサヴァナ。

「殿下の数倍……ううん、数百倍は……カッコいいじゃないの!」
「───お、おい!  サヴァナ!  今なんて言ったんだ!?」

 呆然としていたクリフォード様も今の言葉は聞き捨てならなかったようで、サヴァナに向かって詰め寄る。
 サヴァナはそんなクリフォード様を無視して、フラフラと吸い寄せられるようにトラヴィス様へと近付く。
 そして、得意技でもある──瞬時に目を潤ませると上目遣いになってトラヴィス様を見上げた。

「え、えっと~……」
「……」
「ご、ごめんなさ~い……その、色々誤解があったみたいで……」

 ここまでの暴言や物を投げつける行為のどこに誤解があるというのか。
 それなのにサヴァナは堂々とそんなことを口にした。

「サヴァナ!  君は何を言い出してる!?」
「殿下は黙っていてください!  ──それで、私……その、もう一度、私に魔術を教えてください。こ、今度は頑張ります、から、ね?」

 クリフォード様を一蹴してサヴァナがトラヴィス様に迫ろうとする。

「……」
「……魔術師さま……」
「おい!  サヴァナ!」

 クリフォード様の声を無視してサヴァナがそっと自分の手をトラヴィス様に伸ばしたその時だった。

 ───パシンッ

「え?」

 サヴァナの手は冷たく払い除けられた。
 何が起きたのか分からず、固まるサヴァナに向かってとうとうトラヴィス様が口を開いた。
 それは、私が知っている限り、トラヴィス様の口から聞く初めての“クロムウェル語”だった。

「───その汚い手で俺に触ろうとするな!  ……まん丸女!」
「……ま?」

(───ん?)

「お前のようなまん丸女には、そこの泥んこわんぱく王子がお似合いだ!」
「……ど、ろ?」

(───んんん?)

 トラヴィス様の言葉にサヴァナが首を傾げている。
 まん丸女とか泥んこわんぱく王子って何?

(あ、これは言い間違いだわ!)

 少し考えて私は理解した。
 きっと、まん丸女は性悪女……泥んこわんぱく王子は色ボケ王子と言いたかったのだと思う。

「ま、まん丸ですって!?  この、わ、私が!?」
「泥んこわんぱく!?  僕が、か!?」

 二人がショックで言葉を失った。
 本来言いたかった言葉を口にするよりダメージが大きそうなのは気のせいかしら?
 そんなことを思いながら私はハラハラと続きを見守る。

「ああ、お前たちにピッタリの言葉だと思うが?」
「ひ、酷いっ!」
「ぼ、僕を子供扱いするつもりか!!」
「……」
「「ひっ!?」」

 サヴァナもクリフォード様も抗議の声をあげたけれど、トラヴィス様に睨まれて小さな悲鳴を上げて縮こまる。

(美しい人に睨まれるのって迫力あるものね……)

 キャンキャン喚いていた二人が静かになったところで、トラヴィス様は部屋全体を見渡した。

「サヴァナ様……」
「サヴァナ、お前はなんということを……」

 サヴァナの豹変ぶりに頭を抱えている筆頭魔術師と伯爵に向かってトラヴィス様は冷たく言った。

「あれが、あなたたちが優れた女性だ国を護る女性だと崇めたサヴァナ・ローウェルの本性だ」

 二人がぐっと言葉を詰まらせる。
 トラヴィス様はサヴァナとクリフォード様にも視線を向けて更に言った。

「お前たちはこんな愚かな女の元に本当に国を守護する力が授かったと本気で思えるのか?」
「愚かですって!?  私は本当に───」
「黙ってくれ! サヴァナ!!」

 クリフォード様が鋭い声でサヴァナを制止する。

「何で止めるのですか、殿下!  私、酷いことを言われてるんですよ?」
「───サヴァナ。言っていなかったが、君の力が本物かどうか怪しい……そんな声が今、国中に広がっている」
「は?  待ってください。そんなのって……」
「────今のこんな君の姿を見てしまっては僕も……そう思わざるを……得ない」
「はぁ?」

 もちろん、そんなことを言われてすんなり納得するサヴァナではない。
 サヴァナは殿下に喰いついた。

「それなら!  本当の力は?  ローウェル伯爵家の力はどこにあるというんですかっ!」
「──マルヴィナだ」

(──!)

 ここで、私の名前が出てきたことにドキッとした。
 落ち着け、落ち着くのよ。今の私はマルヴィナの姿ではないのだから。
 こっそり深呼吸をして心を落ち着かせる。

「何を言っているんですか!  お姉様は出来損ないでしょ!?」
「だが、他にいない。なにかしらの理由があって水晶が光らなかった可能性が高い」
「嘘っ!  そんなの有り得ない!」

 半狂乱になって叫ぶサヴァナを横目にクリフォード様はトラヴィス様に顔を向けた。

「……魔術師殿」
「……」
「その、騒ぎ立ててすまない。実はこちらにいる伯爵の娘であり、サヴァナの姉でもある女性が、現在この国にいる可能性が高い」
「……」
「彼女の名前はマルヴィナと言う。その女性が我が国にとって重要人物である可能性が高いのだ」
「……」
「我々は彼女を捜索したい。図々しいことは承知で、その……捜索の協力をお願い出来ないだろうか?」


 “私”に全く気づかないクリフォード様が、私の目の前で間抜けなことを言っていた。

しおりを挟む
感想 417

あなたにおすすめの小説

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。

まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。 私に絶対似合うから、と言って。 …て、え?婚約者まで!? いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。 私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら? ☆★ ごくごく普通の、お話です☆ まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。 ☆★☆★ 全21話です。 出来上がっておりますので、随時更新していきます。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...