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35. 化けの皮が剥がれました
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(な、なんてこと!)
サヴァナが突然、立ち上がって暴言を吐いたと思ったら机の上にある物を手当り次第、トラヴィス様に投げ付け始めた。
「国一番の魔術師だかなんだか知らないけど、ただの地味ダサい眼鏡男のくせに、何様なのよーー!」
ブンッ
勢いの止まらないサヴァナはとにかく手当り次第何でもトラヴィス様に向かって投げ付ける。
(あ、危ない!)
「あんたは“たかが”魔術師でしょ!? こっちはクロムウェルの未来の王妃だっつーの! 敬う姿勢を見せなさいよーーーー!」
怒り狂ったサヴァナの暴走を、この場にいた全員が唖然として見ていることしか出来なかった。
特にクリフォード様や父親の伯爵はあんぐり口を開けてポカンとした間抜けな顔を晒している。
(サ、サヴァナ……何しているの! と、とにかく暴走を止めなくちゃ!)
「サ……」
今の自分の姿とか正体がバレるとか、そんなことよりもトラヴィス様を守りたくて止めに入ろうとした私をトラヴィス様が無言で制止してきた。
私はハッとしてその場に止まる。
そして、その間もサヴァナの暴走は止まらなかった。
「噂では魔術師は若くてカッコいいって話だったから、ウキウキして来てみれば……単なる地味ダサい眼鏡だし! ガッカリよガッカリ! あんた鏡見たことある?」
「……」
「本当は国一番の魔術師ってのも嘘なんじゃないの~?」
「……」
「どうせ、その眼鏡の下も人に見せられないくらいダッサい顔をしてるんでしょ!」
サヴァナが、ブンッと机の上にあったペンケースをトラヴィス様の顔に目掛けて投げ付ける。
(……あ!)
カシャーン
トラヴィス様が避けようとしなかったのでペンケースはトラヴィス様の顔に命中してしまった。
同時にトラヴィス様の眼鏡が弾け飛ぶ。
「……」
「ふふ、あ~ら、ごめんなさい? 顔を狙ったつもりはなかったんです~、でも、当たった方が少しはまともな顔にな…………ぁあっ!?」
クスクス笑いながらトラヴィス様を散々小馬鹿にし続けたサヴァナが、突然変な声を上げて固まった。
「……え?」
「……」
「は? はぁ!? ちょっと……だ、誰よ?」
「……」
トラヴィス様は、無言でサヴァナを見る。
だけど、先程までと違うのは、トラヴィス様が素顔ということだけ。
「う、嘘でしょ? キラキラ……眩し……えっ? めちゃ……」
トラヴィス様の美貌を目の当たりにしたサヴァナが激しく動揺し始めた。
「や、カッコいい……こ、好み……」
先程までの暴言三昧をすっかり棚に上げてそんな言葉を呟いたサヴァナ。
「殿下の数倍……ううん、数百倍は……カッコいいじゃないの!」
「───お、おい! サヴァナ! 今なんて言ったんだ!?」
呆然としていたクリフォード様も今の言葉は聞き捨てならなかったようで、サヴァナに向かって詰め寄る。
サヴァナはそんなクリフォード様を無視して、フラフラと吸い寄せられるようにトラヴィス様へと近付く。
そして、得意技でもある──瞬時に目を潤ませると上目遣いになってトラヴィス様を見上げた。
「え、えっと~……」
「……」
「ご、ごめんなさ~い……その、色々誤解があったみたいで……」
ここまでの暴言や物を投げつける行為のどこに誤解があるというのか。
それなのにサヴァナは堂々とそんなことを口にした。
「サヴァナ! 君は何を言い出してる!?」
「殿下は黙っていてください! ──それで、私……その、もう一度、私に魔術を教えてください。こ、今度は頑張ります、から、ね?」
クリフォード様を一蹴してサヴァナがトラヴィス様に迫ろうとする。
「……」
「……魔術師さま……」
「おい! サヴァナ!」
クリフォード様の声を無視してサヴァナがそっと自分の手をトラヴィス様に伸ばしたその時だった。
───パシンッ
「え?」
サヴァナの手は冷たく払い除けられた。
何が起きたのか分からず、固まるサヴァナに向かってとうとうトラヴィス様が口を開いた。
それは、私が知っている限り、トラヴィス様の口から聞く初めての“クロムウェル語”だった。
「───その汚い手で俺に触ろうとするな! ……まん丸女!」
「……ま?」
(───ん?)
「お前のようなまん丸女には、そこの泥んこわんぱく王子がお似合いだ!」
「……ど、ろ?」
(───んんん?)
トラヴィス様の言葉にサヴァナが首を傾げている。
まん丸女とか泥んこわんぱく王子って何?
(あ、これは言い間違いだわ!)
少し考えて私は理解した。
きっと、まん丸女は性悪女……泥んこわんぱく王子は色ボケ王子と言いたかったのだと思う。
「ま、まん丸ですって!? この、わ、私が!?」
「泥んこわんぱく!? 僕が、か!?」
二人がショックで言葉を失った。
本来言いたかった言葉を口にするよりダメージが大きそうなのは気のせいかしら?
そんなことを思いながら私はハラハラと続きを見守る。
「ああ、お前たちにピッタリの言葉だと思うが?」
「ひ、酷いっ!」
「ぼ、僕を子供扱いするつもりか!!」
「……」
「「ひっ!?」」
サヴァナもクリフォード様も抗議の声をあげたけれど、トラヴィス様に睨まれて小さな悲鳴を上げて縮こまる。
(美しい人に睨まれるのって迫力あるものね……)
キャンキャン喚いていた二人が静かになったところで、トラヴィス様は部屋全体を見渡した。
「サヴァナ様……」
「サヴァナ、お前はなんということを……」
サヴァナの豹変ぶりに頭を抱えている筆頭魔術師と伯爵に向かってトラヴィス様は冷たく言った。
「あれが、あなたたちが優れた女性だ国を護る女性だと崇めたサヴァナ・ローウェルの本性だ」
二人がぐっと言葉を詰まらせる。
トラヴィス様はサヴァナとクリフォード様にも視線を向けて更に言った。
「お前たちはこんな愚かな女の元に本当に国を守護する力が授かったと本気で思えるのか?」
「愚かですって!? 私は本当に───」
「黙ってくれ! サヴァナ!!」
クリフォード様が鋭い声でサヴァナを制止する。
「何で止めるのですか、殿下! 私、酷いことを言われてるんですよ?」
「───サヴァナ。言っていなかったが、君の力が本物かどうか怪しい……そんな声が今、国中に広がっている」
「は? 待ってください。そんなのって……」
「────今のこんな君の姿を見てしまっては僕も……そう思わざるを……得ない」
「はぁ?」
もちろん、そんなことを言われてすんなり納得するサヴァナではない。
サヴァナは殿下に喰いついた。
「それなら! 本当の力は? ローウェル伯爵家の力はどこにあるというんですかっ!」
「──マルヴィナだ」
(──!)
ここで、私の名前が出てきたことにドキッとした。
落ち着け、落ち着くのよ。今の私はマルヴィナの姿ではないのだから。
こっそり深呼吸をして心を落ち着かせる。
「何を言っているんですか! お姉様は出来損ないでしょ!?」
「だが、他にいない。なにかしらの理由があって水晶が光らなかった可能性が高い」
「嘘っ! そんなの有り得ない!」
半狂乱になって叫ぶサヴァナを横目にクリフォード様はトラヴィス様に顔を向けた。
「……魔術師殿」
「……」
「その、騒ぎ立ててすまない。実はこちらにいる伯爵の娘であり、サヴァナの姉でもある女性が、現在この国にいる可能性が高い」
「……」
「彼女の名前はマルヴィナと言う。その女性が我が国にとって重要人物である可能性が高いのだ」
「……」
「我々は彼女を捜索したい。図々しいことは承知で、その……捜索の協力をお願い出来ないだろうか?」
“私”に全く気づかないクリフォード様が、私の目の前で間抜けなことを言っていた。
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