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38. 見抜かれる妹の本音
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(何で私たちがこんな目にあうのかさっぱり分からない……)
クリフォード殿下なんて電流を流されていたわよ?
誓約魔法とやらを用いて何かの誓いを立てている、私にはちょっと劣るけど、かなりの美少女である公爵令嬢の様子を見ながら、サヴァナは内心で焦っていた。
(真実の瞳? 何よそれ……)
なんなの? この魔術師の兄妹はいったいなんなのよ……!
地味ダサい眼鏡男だと思っていたら、実はあんなにもクリフォード殿下よりも素敵な美貌を隠し持っていたので、お近づきになろうとしたら、冷たく手を振り払われた。
確かにちょっと暴れちゃったけどちゃんと誤解だって言ったのに!
そして、人をまん丸呼ばわりしたかと思えば、性悪と呼んでた?
───どうして私が“性悪”なのよ!!
性悪っていうのは、なんの取り柄もなくて実は無能だったくせにただ、ローウェル伯爵家の長子だというだけでクリフォード殿下の婚約者候補にちゃっかり上がっていたお姉様みたいな人を言うのよ!
(しかも、まさかしぶとく生きているなんて……)
ああ、でも、あのお姉様がどれだけ落ちぶれた姿で生きているのか、その姿くらいは見てみたい気がするわね……
ボロボロとなったお姉様を探し出して、クロムウェルの未来の王妃たる私の姿を見せて、もっと絶望させるのもいいかも。お姉様のその絶望顔はぜひぜひ見てみたい。
そうね……そしてお姉様は国に連れ帰る。
私の力を疑っている愚かな国民だってボロボロのお姉様と私を見れば、私の方が力を持つのに相応しいってことも分かるはずよ。
愚かにも、“やっぱり私に力が?”“クリフォード殿下と結婚出来るの?”と期待するお姉様を再び地獄に落としたら気持ちいいでしょうね~
そんなことを考えていたら、ふと部屋の中にいる地味ダサい女が目に入った。
何故か無性に気になる見ず知らずの女。
おそらく、魔術師の助手か何かなのだとは思う。魔術師の見習いかしら?
(この私に自己紹介すらしないとか……いい度胸しているじゃないの)
魔術師の眼鏡の奥はとんでもない美貌の持ち主だったけど、あの女は駄目ね。
きっと魔術師に色目を使うも相手にされない根暗人生を送っているに違いないわ。
そう思った私は勝手にあのダサい女の様子を想像して、ふふっと笑ってしまった。
「……随分と楽しそうですわね?」
「!」
そこへ公爵令嬢の準備が整ったようで、私の元に近づいて来た。
「これから、私の瞳に心の中を覗かれると分かっていて、笑っていられる方には初めてお会いしましたわ」
「……」
何よそれ! もしかして、私のことをバカにしているわけ?
そう思った私は、リリーベルと名乗っていた公爵令嬢を思いっ切り睨んだ。
「嬉しいですわ。余程のことがない限り力の制御は出来るようになったのに皆、私の目を見ようとしないんですもの。例外はお兄様と───……」
「?」
続きが聞こえなかったけど、そんなことはどうでもいいわ。
その瞳で私の嘘を暴くですって?
どうせ、眉唾物でしょう?
ふんっ、本当にやれるものならやってみなさいよ!
「それでは、失礼しますわね? ────性悪でまん丸な妹さん」
「っっ!」
この女、綺麗な顔して本当にあの魔術師の妹だわ!
そう思った瞬間、私の目をじっと見つめてきた公爵令嬢の青い瞳が金色に変わった─────
その場がしんっと静まり返る。
しばらくして、公爵令嬢が静かに口を開いた。
「黒っ……」
公爵令嬢は私を見ながら、吐き捨てるようにそう言った。
(な、な、なんですってぇぇぇ!?)
「リリー、大丈夫か!」
「お兄様……ええ、大丈夫ですわ。ですが……この方の心の中……吐き気がしますわ」
妹の様子を心配して駆け寄った兄の魔術師に、この女は口元を抑えながらとんでもないことを口にする。
公爵令嬢だかこの国の王子の婚約者だか知らないけれど、私を侮辱するにも程がある!
「───嘘の塊のような方ですわ」
「なっ!」
そして、事もあろうに、人を“嘘の塊”呼ばわりまでしてきた。許せない!
「クリフォード殿下、聞きましたか? クロムウェル王国の未来の王妃となる私を嘘の塊呼ばわり……」
殿下にも抗議してもらおうと思って声をかけようとした時、公爵令嬢がとんでもないことを言い出した。
「────だってこの方、誰のことも愛していませんわよ? 愛しているのは“自分”だけ」
(……なっ!)
その言葉に私は少なからず動揺した。
「随分と両親には可愛がってもらって来たようですけど、父親のことも母親のことも全く愛しておりませんわ。ああ、お姉さんに対しては言うまでもありませんわね」
「……!」
「内心ではいつも、見栄を張るしか脳のない馬鹿な母親、私に甘いだけの愚かな父親……と蔑んでおります」
「お、愚か……!? サ、サヴァナ! どういうことだぁぁ?」
お父様が動揺し説明を求める声が聞こえたけど私は無視をした。
(どういうことよ……まさか、本当に私の心を……読んだの?)
誰にも打ち明けたことのない、いつも心の中で思っているだけだった両親への気持ち。
私の背中に冷たい汗が流れる。
そうなると、まずい。これは本当にまずい。
だって今、私が誰のことも愛していないとこの女は口にした。それは───……
「……そこの婚約者である王子のことも同じ……ですわね」
(───やっぱり!)
「…………そもそもは、お姉さんに王子様なんて勿体ない。お姉さんから王子を奪ってやったらどんな顔をするかしら? それが始まりのようですわね。どれだけ性悪なんですの……」
「え? サヴァナ……?」
クリフォード殿下の呆然とした声が聞こえる。
(この女……余計なことを言いやがったわ!)
「一生懸命、婚約者の王子のことを愛しているフリをしているようですが、心の奥底は隠せませんわ」
「……」
「薄っぺらい愛どころか、相手のことを全く愛していません。“王子様に選ばれて愛されている可愛い私”に酔っているだけでしてよ」
「サヴァナ……は、僕を全く……愛してない?」
クリフォード殿下の問いかけに公爵令嬢は頷いた。
「ええ。あなたのことは、嫌いな姉から奪えた国一番の男、逃さないようにしなくちゃ! でも、私の言うことに簡単に騙されるチョロい王子……と内心ではかなり馬鹿にしております。ああ、もちろん国民のことも愛そうなどとは欠片も思っておりません」
「なっ……」
「ちなみに、お兄様の素顔を見て王子よりカッコいい素敵……キープ出来たらいいのに……と最低なことも考えたようですわね……許せません」
「それは俺も吐き気がするよ」
ふぅ、とため息を吐きながら言った公爵令嬢のその言葉に魔術師が心底嫌そうな顔をしやがった。
(───これ以上余計なことを言われたら……本当にまずい)
でも、とにかく今は誤魔化さなくては!
真実の瞳だかなんだか知らないけど、これ以上、本音を暴露されるのはごめんよ!
私は一気に泣き落としにかかる。
「……ひ、酷い……どうして、そんなあることないこと……を言うんですかぁ……」
「あることないこと? “真実の瞳”で視えた、あなたのことを口にしているだけですわ」
「そんなの嘘! 私はお父様とお母様も殿下のことも愛しているもの! お姉様だって虐められる前は大好きだったわ! 国民だって立派な王妃になって……て」
私が目を潤ませてそう訴えると、公爵令嬢はまた深いため息を吐いた。
「何を今更。あなたも見たでしょう? 私は誓約魔法を結んだので“嘘”はつけません」
「……でも!」
「───なるほど。『とにかく今は誤魔化さなくては! 真実の瞳だかなんだか知らないけど、これ以上、本音を暴露されるのはごめんよ!』ですか」
「え……?」
「随分と泣き落としが得意のようですわね? これまでもそうやってたくさんの人に取り入って来たようで」
ふふふ、と公爵令嬢が美しく微笑む。
彼女のその目の色は一度は青に戻っていたはずなのに再び金色に輝いている。
「ご両親に王子に王宮の方々……ああ、家の使用人まで? お姉さんの真実の姿を隠して悪い話ばかり伝えて信じ込ませて、一方で健気な自分を演じて……簡単に騙される皆さんを嘲笑うのが楽しい? なんて悪趣味」
「!!」
私は言葉を失った。
ダメ……何これ……本当に本当に何もかもが見抜かれているじゃないの!
まさか、
「───まさか、ここまで見抜かれるなんて思わなかった、ですか?」
「な!」
遂には思考までもが先に読まれている!
やだ、すごく気持ちわ───
「私が気持ち悪い? そんな言葉を言われるのは今更なので傷付きませんわよ?」
「!」
「……それでは、あなたが私の瞳の力を信じてくれたようですので…………皆様が気になっているであろう“あなたの力”について話をしましょうか」
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