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41. 妹の力
しおりを挟むその文字は“守護の力”という文字のせいでよく読み取れない。
(なんて書いてある? それにこれは、どういうことなの?)
筆頭魔術師のこの言い方……サヴァナが“守護の力”を持っていると判定した時にもこのよく分からない文字が浮かんでいた、そう言っているように聞こえる。
《他にも文字が浮かび上がっていた? ───つまり、判定は最初から色々と怪しかったということじゃないのか?》
《トラヴィス様?》
私の横に並んだトラヴィス様が苦々しい表情でそう口にする。
また、同じことをクリフォード様も思ったようで、筆頭魔術師に鬼気迫る表情で詰め寄っていた。
「もう一つ文字があったなんて聞いていないぞ!」
「で、殿下……」
「なぜ、黙っていた! その様子だと父上にも言っていないだろう!?」
筆頭魔術師は何も答えずガックリと下を向く。その様子から図星なのが窺える。
その姿を見たクリフォード様が頭を抱えた。
「しかも、解読出来ていなかっただと? それをするのが魔術師の仕事だろうに」
「……」
筆頭魔術師ははひたすら項垂れていた。
伯爵は微動だにせずその場にただ突っ立っていて、クリフォード様は苦悩する表情で続ける。
「今回、水晶はサヴァナが触れた時は反応せず、マルヴィナが触ったら光った。つまり、やはり真の力の持ち主はマルヴィナ? それはいい。だが、もう一つの文字とは何だ……?」
「お姉様……光った? でも、もう一つの……文字……何それ?」
そして呆然として、どこか虚ろな声で呟くサヴァナ。
それぞれがリリーベル様に向かってどういうことなんだ? と顔を向けた。
「……なんて目で私を見るんですの……説明はしますけど、その前にお兄様、お願いがありますの」
「ん?」
リリーベル様は、詳細を説明する前にトラヴィス様を呼んだ。
それも敢えてクロムウェル語を使っているので、皆に聞かせることが前提だ。
「そこのまん丸性悪女───サヴァナさんに魔力封じの術をかけて欲しいのです」
「え?」
「は? ちょっと……何で……!?」
さすがの私もリリーベル様のその言葉に驚いた。
“魔力封じ”
その名の通り、魔力を封じて力を使えなくする術。
(まさか、サヴァナの力はそれ程までに危険な力だと言うの……?)
「俺が?」
「……今、この場で彼女より強い魔力を持っているのは、お兄様とマルヴィナさんだけですもの」
それなら、お兄様しかいないでしょ? と、リリーベル様は笑う。
その言葉にリリーベル様とトラヴィス様以外の四人が一斉に私を見た。
「お姉様が、私より強い……?」
「マルヴィナの魔力が私よりも強い、だと? い、いつから……」
ローウェル伯爵家の二人が驚きの目で私を見ていた。
「リリー? 魔力封じは……」
「もちろん一時的の封印で構いませんわ。本格的に封じるとなると許可が必要になりますもの。とにかく今、力を使えなくしてくれればそれで結構です」
「……分かった」
「は? 分かった、じゃないわよ!? やめてよ、なにこの兄妹……怖っ……なんで」
「……」
当然だけど、嫌がって暴れるサヴァナにトラヴィス様は氷のように冷たい視線を向ける。
それは美しいから余計に迫力がある。
「……ひっ!?」
「本当にやかましい女だな。静かにしてくれ。その口も封じてやりたいところだ」
「なっ」
パチンッ
トラヴィス様はそう言って指を鳴らした。
「あ……」
サヴァナが、ガクンッと力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
どうやらサヴァナの力は一時的でも封じられたらしい。
その流れを見ていて思った。
(……トラヴィス様ってやっぱり、指パッチンで力を使えるのよね?)
前は手をかざして癒しの力をかけてもらったこともあった。
なのに、どうして守護の術をかけるのには、わざわざキスを……?
《……? マルヴィナ。顔が赤いぞ?》
《えっ!? あ、いえ、何でも……ありません!》
どうやら、先程のキスを思い出して私は顔が赤くなっていたらしい。
(好きだと自覚した人にキスされて動揺しないはずないじゃない!)
それでも、落ち着け……落ち着けと必死に自分に言い聞かせた。
サヴァナに目をやると、へたり込んだまま動かない。
「私……の力……」
そして、力が力がとうわ言のように呟いていることから、魔力を封じられたというのは自分で感じるらしい。
私は自分の両手をじっと見る。
(私の魔力も半分ほど封じられていたというけれど、感覚としてはよく分からないわ)
それは呪いと術の違いなのかしら────?
「……それでは、私の“真実の瞳”が視たことを説明しますわね?」
リリーベル様は、サヴァナの魔力封じの確認を終えた所で口を開いた。
「……結論から言いますわ」
ゴクリ。
部屋の中には皆の緊張が走る。
「まぁ、もうこれは言わなくても皆様もお分かりでしょうが、一国を加護出来るほどの力……“守護の力”を本当にお持ちなのは、マルヴィナさんでしてよ」
「……っ! それなら、私、私はっ!!」
案の定、そのことに納得がいかないサヴァナが叫ぶ。
「……あなたの力は、水晶にもきちんと浮かび上がっておりましたわ。こちらの……そこの魔術師様が読めなかったと言うもう一つの文字として」
筆頭魔術師が気まずそうに目を逸らす。
「ここに隠れている文字は、私があなたから読み取った“力”と一致しますのよ。ですから、間違いありません」
「…………だったら、なんて書いてあるのよっ!」
「……」
リリーベル様がふぅ……と一呼吸置く。
そんなリリーベル様を見て、サヴァナはハッとして声を弾ませた。
「ハッ! そうよ! わざわざ力を封じるくらいだもの。私の力はお姉様なんかよりも、ずっとずっとず~~っとすごい力なんじゃない?」
(え? どうしてその思考になるの?)
サヴァナの中には自分の力が“危険なもの”かもという考えはないのかしら?
《すごい女だな……どれだけ前向き思考なんだ》
トラヴィス様も私と同じ考えを口にしていた。
さすがのリリーベル様も面食らった顔をしていたけれど、気を取り直してサヴァナを見つめる。
「ある意味、すごい力でしてよ」
「……ある意味?」
どこか期待するような目を向けながら首を傾げているサヴァナにリリーベル様は言った。
「あなたの持っている力は────“奪取の力”です」
「だ……だっしゅ?」
サヴァナは咄嗟に脳内での理解が追いつかなかったのか、首を傾げたまま。
リリーベル様はそんなサヴァナにため息を吐きながら更に続けた。
「それも、他者とは少し違う性質を持った“奪取の力”ですわ……」
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